上 下
84 / 297
第4弾 聖なる夜に

Femme fatale(運命の女)

しおりを挟む

 キャスト控え室。

「――な、何ですってっ?ジョーちゃん、馬に指を噛まれたっ?」

 ゴードンはクラクラと目眩めまいを覚えたように2、3歩よろけて天井を仰いだ。

「最低でも2日は使わないほうがいいそうっす」

 ジョーは面目なさげに右手の包帯を見せる。

「はぁ、仕方ないわね。マリーちゃん、頼んだわよ」

 ゴードンがマダムの肩をポンと叩く。

「任せといて」

 マダムは不敵な笑みを浮かべた。


 あくる日。

 野外ステージ。

『本日のウェスタン・ショウは諸事情により内容の一部を変更してお送り致します。ご了承下さい』

 滅多に使われないアナウンスが流れ、ウェスタン・ショウの酒場の寸劇が始まった。

『おう、ジョーの奴はどこへ行きやがった?』

『お生憎あいにくね。ジョーなら諸事情により来られないわ。ロバート、今日はわたしが相手になってあげるわよ』

 妖艶にうっふんとロバートに迫るマダム。

『マダム、どうした風の吹き回しだい?』

 スケベ笑いでマダムの腰を抱き寄せるロバート。

 その手を邪険に振り払い、

『勘違いしないでっ。――これで相手よっ』
   
 ガッ。

 ハイヒールの右足を酒樽に掛け、ドレスの裾をバサッと太股まで捲り上げるマダム。

 セクシーな網タイツの太股のガーターベルトには銀色の拳銃が挟まっている。

 拳銃はデリンジャーだ。

 西部開拓時代は物騒なので酒場の女はドレスに護身用の拳銃を隠し持つ。

 当時のドレスには胸の谷間に拳銃を仕舞う内ポケットがあり、胸元のヒラヒラのフリルで隠していた。

『――マダム?お、お前はいったい――?』

 大袈裟にのけぞるロバート。

『ふふふ』

 ドレスを捲り上げたまま太股を剥き出しに手を腰に当て、シャナリ、シャナリと歩くマダム。

『ある時は酒場のマダム。また、ある時は――」

 チャッ。

 ガーターベルトから拳銃を引き抜き、

『女ガンマン・マリーとは、わたしのことよっ』

 ガン!
 ガン!

 縦横無尽に飛ぶクレーを早撃ちに撃ちまくるマダム。

『Hit!Hit!』

 実況アナウンス。

「すっごい。マダム」

 立て続けに命中の旗を上げるメラリー。

 
「ノッてるじゃない。マリーちゃん」

 ゴードンは病欠バージョンが初めて日の目を見たのでちょっと気を良くしている。

 ガンマンキャストなのだから当然のごとくマダムは女ガンマンだったのだ。

「マダム、いつ練習してたんだろ?朝っぱらか?」

 ジョーは謎の多いマダムに首を捻る。

「なんかお色気バージョンだなっ」

「だなっ」

 デレデレと鼻の下を伸ばすトムとフレディ。

「――(うっとり)」

 バッキーの太田は女ガンマンのマダムに惚れ惚れとする。


『ガンファイトでは負けても、ロバート、あなたのハートを射抜いたのは、わたしよ』

『負け惜しみの強い女だぜ』

『さあ、どうかしら?』

 ガッ。

 酒樽にハイヒールの右足を掛け、ドレスの裾をバサッと捲り上げ、太股のガーターベルトにまた拳銃を差し込むマダム。

 
「……」

 観客席ではウルフが口をあんぐりと開けて見ている。

「……」

 男はロダンの『考える人』のように顎に手を当て、なにやら思案げな表情をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

坊主女子:女子野球短編集【短編集】

S.H.L
青春
野球をやっている女の子が坊主になるストーリーを集めた短編集ですり

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

礼儀と決意:坊主少女の学び【シリーズ】

S.H.L
青春
男まさりでマナーを知らない女子高生の優花が成長する物語

処理中です...