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第4弾 聖なる夜に
Femme fatale(運命の女)
しおりを挟むキャスト控え室。
「――な、何ですってっ?ジョーちゃん、馬に指を噛まれたっ?」
ゴードンはクラクラと目眩を覚えたように2、3歩よろけて天井を仰いだ。
「最低でも2日は使わないほうがいいそうっす」
ジョーは面目なさげに右手の包帯を見せる。
「はぁ、仕方ないわね。マリーちゃん、頼んだわよ」
ゴードンがマダムの肩をポンと叩く。
「任せといて」
マダムは不敵な笑みを浮かべた。
あくる日。
野外ステージ。
『本日のウェスタン・ショウは諸事情により内容の一部を変更してお送り致します。ご了承下さい』
滅多に使われないアナウンスが流れ、ウェスタン・ショウの酒場の寸劇が始まった。
『おう、ジョーの奴はどこへ行きやがった?』
『お生憎ね。ジョーなら諸事情により来られないわ。ロバート、今日はわたしが相手になってあげるわよ』
妖艶にうっふんとロバートに迫るマダム。
『マダム、どうした風の吹き回しだい?』
スケベ笑いでマダムの腰を抱き寄せるロバート。
その手を邪険に振り払い、
『勘違いしないでっ。――これで相手よっ』
ガッ。
ハイヒールの右足を酒樽に掛け、ドレスの裾をバサッと太股まで捲り上げるマダム。
セクシーな網タイツの太股のガーターベルトには銀色の拳銃が挟まっている。
拳銃はデリンジャーだ。
西部開拓時代は物騒なので酒場の女はドレスに護身用の拳銃を隠し持つ。
当時のドレスには胸の谷間に拳銃を仕舞う内ポケットがあり、胸元のヒラヒラのフリルで隠していた。
『――マダム?お、お前はいったい――?』
大袈裟にのけぞるロバート。
『ふふふ』
ドレスを捲り上げたまま太股を剥き出しに手を腰に当て、シャナリ、シャナリと歩くマダム。
『ある時は酒場のマダム。また、ある時は――」
チャッ。
ガーターベルトから拳銃を引き抜き、
『女ガンマン・マリーとは、わたしのことよっ』
ガン!
ガン!
縦横無尽に飛ぶクレーを早撃ちに撃ちまくるマダム。
『Hit!Hit!』
実況アナウンス。
「すっごい。マダム」
立て続けに命中の旗を上げるメラリー。
「ノッてるじゃない。マリーちゃん」
ゴードンは病欠バージョンが初めて日の目を見たのでちょっと気を良くしている。
ガンマンキャストなのだから当然のごとくマダムは女ガンマンだったのだ。
「マダム、いつ練習してたんだろ?朝っぱらか?」
ジョーは謎の多いマダムに首を捻る。
「なんかお色気バージョンだなっ」
「だなっ」
デレデレと鼻の下を伸ばすトムとフレディ。
「――(うっとり)」
バッキーの太田は女ガンマンのマダムに惚れ惚れとする。
『ガンファイトでは負けても、ロバート、あなたのハートを射抜いたのは、わたしよ』
『負け惜しみの強い女だぜ』
『さあ、どうかしら?』
ガッ。
酒樽にハイヒールの右足を掛け、ドレスの裾をバサッと捲り上げ、太股のガーターベルトにまた拳銃を差し込むマダム。
「……」
観客席ではウルフが口をあんぐりと開けて見ている。
「……」
男はロダンの『考える人』のように顎に手を当て、なにやら思案げな表情をしていた。
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