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第2弾 いつか王子様が
18Memory⑦(エイティーン・メモリー)
しおりを挟むガコッ!
ジョーは苛立たしげに廊下のバケツを蹴った。
よくジョーは八つ当たりにバケツを蹴るのでブリキのバケツは凹んでデコボコだ。
「あらら、メラリーちゃんに拒絶されたみたいね~?」
ゴードンが廊下を歩いてきた。
「的に立つのヤダってんすよ。アイツ、結構、度胸あるかと思ったのによ」
ジョーは蹴ったバケツを拾って几帳面に元の位置に戻す。
「気弱なコではないと思うわよ。友達3人相手に自分だけステーキ食べるって言い張って譲らないコなんだから」
「それ、たんに我が儘じゃねっすか?」
「ま、そうかしらね。でも、ヒトの言いなりになるようなコじゃないのは確かね」
「む~ん」
ジョーは顎に手を当て何か考える顔付きになった。
その夜。
キャスト宿舎。
コンコン、
ジョーが向かい側のメラリーの部屋の扉をノックをして開ける。
だだっ広いフローリングの部屋の真ん中に敷いてある布団の上に体育座りでメラリーはテレビを観ていた。
テーブル代わりに布団を買った通販のダンボール箱が置いてある。
親元を離れたメラリーはホントに貧乏なのだ。
「メラリ~、さっきはゴメンな~。悪かったよ~」
部屋に上がり込みながらジョーは低姿勢に謝る。
「……」
メラリーは知らん顔してテレビを観ている。
「あ、宿舎、慣れた?ド田舎だからよ。夜、静か過ぎてサミシーだろ?ホームシックとかなってねえ?」
キャラクターの馬のバッキーの全長60cmほどのぬいぐるみをメラリーに差し出す。
ジョーは人情に訴える作戦らしい。
「ぜんぜんっ」
メラリーはぶっきらぼうに答えて、ぬいぐるみを受け取って布団の上に置いた。
「あ、そ。――あ、肉まん、食う?」
マーケットの買い物袋から肉まんを出すジョー。
「いただきます♪」
嬉しそうにパクッと肉まんに噛り付くメラリー。
「お茶もあるぜ~」
ジョーはほうじ茶のペットボトルをダンボール箱の上に置く。
「――(グビグビ)」
メラリーはほうじ茶を飲み、肉まんも2個目を頬張る。
「――なあ?メラリー、ショウのキャストってのはよ、一蓮托生なんだよな。雨の日も日照りの日も苦楽を共にする、一喜一憂を分かち合う、――家族も同然なんだよ。お前も――俺のことを兄貴っと思って頼りにしてくれていいからよ――」
わざわざ窓辺に立ち、夜空を見上げながら、しんみりと語るジョー。
セリフ回しが臭過ぎて芝居がバレバレである。
「兄弟ってのは助け合わなきゃいけねえ訳でよ」
ジョーは振り返ってメラリーを見やる。
「なんか良いこと言おうとしても、やなものは、やですから」
メラリーは素っ気なく言ってモグモグと3個目の肉まんを頬張る。
「……」
ジョーは思いっ切り顔をしかめた。
ガチョリ。
ジョーはメラリーの部屋を出て、廊下を徒歩3歩の自分の部屋へ戻った。
「――ちっ、肉まんで手懐けるのは無理か」
プルルン♪
着メロが鳴ってケータイに出る。
「お~。あ、これから?オッケー、オッケー♪」
たちまち顔がニヤけるジョーだった。
プツ。
メラリーはバラエティー番組が終わるとテレビの電源をオフにして、布団に寝転がった。
「……」
ジョーがくれたバッキーのぬいぐるみと目が合う。
「ちょっと、態度、悪かったかな?練習場でホントは、俺、泣き真似だったのに謝ってくれちゃったし、ぬいぐるみと肉まん5個もくれたし」
ムクッと布団から起き上がる。
コンコン。
メラリーはノックしてジョーの部屋の扉を開け、
「ジョーさ~ん?さっきはどうも――うわっ?」
思いがけない光景にビックリ仰天した。
バスタオルを巻いただけのグラマー美女がベッドにいる。
「――きゃっ?」
グラマー美女は驚いてベッドのカーテンの中に身を隠した。
この時はメラリーと初対面だったがフレンチカンカンの踊り子のアン(安藤由香)だ。
「――わっ?メラリー?」
ジョーがびしょ濡れの全裸のままバスルームから出てくる。
「おっ、お邪魔しましたっ」
ガチャン。
メラリーは慌てて玄関扉を閉めた。
「な、なんだ。女のヒトとエッチとかケロッとしてんじゃんっ」
メラリーは初めて生で見た妙齢のグラマー美女のバスタオル巻き姿にドキドキである。
「メ、メラリ~ッ」
ジョーがバスローブ姿で廊下に飛び出てきた。
「メラリー、お前、もしかして、気が変わって、射撃の的、立ってくれる気になったんじゃ、今、それ、言いに来たんだろ?そーなんだろっ?」
ガシッとメラリーの両肩を掴むジョー。
「ちっ、違いますよっ」
ブンブンと首を振るメラリー。
「ジョーちゃんっ?なによっ。ヒトほったらかして、わたし帰るわよっ」
アンが早々と服を着て部屋から出てきた。
「違くねえだろ?メラリー、やる気になったんだよなっ?」
アンを無視してメラリーに詰め寄るジョー。
「もうっ、ホンットに帰るからっ」
アンは階段のほうへスタスタと歩いていく。
「彼女、怒って帰っちゃいますよ?」
メラリーはアンを指差してジョーの顔を見上げた。
「彼女ぉ?じゃねーよ。べつに、女、アイツだけじゃねーもん」
パコッ!
「――てっ」
飛んできたDVDケースがジョーの後ろ頭に当たる。
「借りてた西部劇のDVDっ。ちゃんと返したわよっ」
ダダダーーッ。
アンは腹立たしげに階段を駆け下りていった。
「――おやすみなさい」
軽蔑の眼差しでジョーを一瞥してメラリーは素早く自分の部屋へ入った。
ガチャン。
すぐさま玄関扉を閉め、カチッと施錠。
「――メ~ラ~リ~~ィ――」
ジョーは玄関扉の覗き穴に張り付いて憐れっぽく呼び掛けたが、返事の代わりに部屋の電気がパチッと消された。
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