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第2弾 いつか王子様が
18Memory⑥(エイティーン・メモリー)
しおりを挟む「――なっ?指になんか当たらねえから。なっ?」
ジョーは低姿勢でメラリーに手を合わせる。
「あ、このマネキン、ショウのステージに立たせたらいいんじゃないっすか?」
メラリーは名案とばかりにポンと手を打った。
「ば、ばかやろっ。そんなスリルのねえショウがあるかよっ」
ジョーがやりたいのは100年以上も昔の西部の英雄バッファロー・ビルのワイルド・ウェスト・ショウのパフォーマンスなのだ。
当時はパフォーマーのガンマンがパートナーの女性の耳にぶら下がったイヤリングを撃ち落とすとか、男性の咥えた煙草を撃ち落とすとかいうスリリングにもほどがあるパフォーマンスが行われていた。
「こわっ。絶対にヤダッ」
メラリーはブンブンと首を振る。
「てめっ。どこまで俺の腕を疑う気だよっ。見てろよ」
チャッ。
ライフルを構えるジョー。
マネキンの指に挟んだピンポン玉4個を目掛けて撃つ。
ウィンチェスター・ライフルなのでいちいちレバーをガチャガチャ回しながらの連射。
ガン!
ガン!
ガン!
ガン!
弾かれてピシピシと飛ぶピンポン玉。
マネキンの指には掠りもしていない。
「ほら――な?」
ジョーはライフルを下ろして得意げにメラリーに見返った。
「……」
メラリーは屈み込んで床に落ちているピンポン玉を凝視していた。
ピンポン玉は凹んでいる。
指に当たったら絶対に痛いし、痣が出来るに決まっている。
「ヤダ、絶対にヤダッ」
メラリーはブンブンと首を振る。
「――メ、メ~ラ~リ~~~ィ」
ジョーはイライラを抑えて笑顔を作りながらも、額に浮かんだ青筋をピクピクさせた。
ほどなくして、
「よ~」
ロバートが暢気に練習場に入ってきた。
「メラリー、今日からガンマンの基礎からバッチリと教え――ん?どした?」
「グスングスン」
メラリーは壁際で膝を抱えて座り、膝に顔を伏して嗚咽している。
「あ~、ジョーさんが無理くりメラリーを的に立たせようとするから泣いちゃったんすよ」
「パワハラってヤツっすよね?先輩が入ったばかりの新人に嫌がることを強要するのって」
「俺等、そーいうの見過ごせない性質なんで、きっちりリーダーのロバートさんに言い付けますから」
「パワハラ許せないっす」
ジョーを陥れるためならメラリーを庇うのもやぶさかでないトムとフレディ。
「だ、誰が強要したんだよっ。俺はひたすらメラリーにお願いしてるだけじゃんかよっ。ヒトがこんなに頼んでんのにっ。コイツ、宥めても、すかしても『ヤダ』の一点張りでよっっ」
怒声を上げるジョー。
「グスンッグスンッ」
さらに嗚咽を高めるメラリー。
「何がお願いだ。その口調がすでに脅しだろうがよ?――メラリー、べつにジョーの言うことなんざ聞くこたねえからな」
ロバートがギロリとジョーを睨む。
「そうそう。ガンマンのキャストのリーダーはロバートさんだし」
「射撃のコーチしてくれるのもロバートさんだしな」
トムとフレディはリーダーのロバートの前ではメラリーに友好的に振る舞う。
「……」
メラリーは目元をゴシゴシと拭くと立ち上がってロバートの前にパタパタと小走りした。
「よろしくお願いします」
しおらしくペコリとする。
「おし。じゃ、始めるか」
「はい」
ロバートにライフルの構え方から教わるメラリー。
「わっ、ライフル、重たい」
「3kgちょいあるからな」
ショウでは悪役ガンマンでも普段のロバートは明朗快活で気安く頼れるリーダーだ。
メラリーはケロッと楽しそうに練習している。
「――ちっ」
ジョーは舌打ちして練習場を出ていった。
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