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第1弾 黄色いリボン
spurt②(スパート)
しおりを挟むキャッ。
キャッ。
子供の賑やかな声がする。
メラリーの一日体験レッスンと同じ馬場ではキッズクラス(10歳~12歳)のレッスンが始まったところだった。
こちらは春休みということもあって10人ほどのキッズが集まっている。
「ハイヨー、シルッバーー!!」
キッズクラスのほうから甲高い声が上がった。
お調子者の男児がローンレンジャーの真似をしている。
この地元の子供は西部劇に特化した環境で育ったので大昔の米国テレビドラマ『ローンレンジャー』も今時の戦隊ヒーローの『なんたらジャー』と変わりなく馴染んでいるのだ。
ドン!
ふざけて飛び跳ねた男児がバランスを崩して他の男児の乗った馬の尻に激突。
「ヒヒンッ」
馬がいなないて飛び上がる。
「――危ないっ」
キッズクラスの新米インストラクターがとっさにレイン(手綱)を掴む。
――が、
ドタン!
馬の勢いで引っ張られて転倒。
「――ああっ」
レインを掴んだ手を離してしまう。
パッカ!
パッカ!
「うわああん――っ」
バキッ!
ドカッ!
男児を乗せた馬は横木の柵を蹴り倒し、タウンのモニュメント・バレーへ駆け出していった。
「──!」
ジョー、ロバート、ゴードンは3人同時に馬をターンさせて駆け出した。
「――貸せっ」
ダンがエマから馬のレインを引ったくって飛び乗り、
パッカ!
パッカ!
男児の乗った馬を追って駆け出す。
「あぁあ――っ」
地面に泣き伏す新米インストラクター。
「わぁぁぁああああんっ」
子供達も堰を切ったように泣き出す。
「……」
メラリーとエマは不安な表情で横木の柵に張り付いて男児の馬を目で追う。
パッカ!
パッカ!
パッカ!
パッカ!
ガシガシと拍車をかけ、全力疾走で男児の馬を追うジョー、ロバート、ゴードン。
しかし、いかんせん3人は185cm以上の大男でスピードを出すには向いていない。
パッカ!
パッカ!
グングンと加速して、3人を引き離すダン。
175cmほどのダンは圧倒的にスピードが勝った。
「いいかっっ。離すんじゃないぞっっ」
ダンの馬が男児の乗った馬に並ぶ。
「わあぁあああっ」
サドルのホーンに必死にしがみ付いている男児。
だが、腰がズルッとすべってしまう。
子供の短い足では馬の胴体にしっかりと安定しないのだ。
今にもサドルから落ちそうになるや否や、
「──っっ」
バッッ!!
ダンが男児の馬に飛び移った。
ムササビもかくやといった身のこなし。
65歳とは信じがたい離れ業である。
「すげっっ」
ジョーはド肝を抜かれたように叫ぶ。
「……」
メラリーも心底ビックリしたように目を瞬く。
「……」
エマはホッと安堵の息をついてペタリと地面にへたり込んだ。
「――ダンさんって元々は10年前、このタウンのオープンの時にショウのキャストの乗馬の指導を頼んだヒトなのよ。けど、西部劇好きが高じちゃったのか、どぉうしても騎兵隊キャストになりたいって。ホントは募集年齢35歳までだったんだけど、熱意にほだされて入隊して貰っちゃったのよ」
ゴードンが日替わり定食のアジフライを齧りながら説明した。
「ふうん」
ジョーは感心したように唸ってトンカツ定食の千切りキャベツをモシャモシャと頬張る。
キャスト食堂の日替わり定食は肉か魚のおかずの2種類である。
「乗馬クラブを早期定年で退職しちゃって、奥さんには相当、反対されたみたいだけどね。今は午前中と夕方だけ乗馬クラブでバイトしてるのよ」
ゴードンがそう続ける。
「そりゃ、筋金入りのウェスタン馬鹿だな」
ロバートも感心しながらアジフライ定食の味噌汁をズズッと啜る。
「――けど、何で、今日、みんなしてモニュメント・バレーで乗馬してたんすか?」
ビーフカレーを食べ終えたメラリーが急に話題を変えて、3人の顔を見やった。
当然ながら3人は乗馬クラブの美女のインストラクターを見物しに来たのだが、
「――え?そりゃ雨キャン続きで身体が鈍るからだろ」
「そうそう」
「運動よね」
ジョーとロバートとゴードンはしらばっくれる。
「ふうん?」
メラリーは疑いの眼差しで3人を睨みながら、パクッと食後のドーナツに齧り付いた。
ドーナツはゴードンが買ってくれたのだ。
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