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第1弾 黄色いリボン

Easy Come, Easy Go.①(簡単に来て、簡単に去る)

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 同じ頃。

 タウンのキャストの女子更衣室では、

 クララ(鞍元日登美)がドレスを脱いで私服に着替えていた。

 クララが売り子をしている『バミーのキャロットケーキの店』は白兎のバミーの店という設定だけに野外のスイーツ・ワゴンなのでクララも雨キャンなのだ。

「――ねっ?どうお?」

 同じく野外のスイーツ・ワゴンの『バーバラのアイスクリームの店』の売り子をしているアニタ(大仁田茜)がパチパチと瞬きしてみせる。

 パサ。
 パサ。

 いつもより睫がボリュームアップしている。

「あ?マスカラ変えた?」

 クララはアニタに顔を近づけて訊ねた。

「ふふふん、さっきぃ、楽団の男のコに映画に誘われちゃったぁ♪今、タウンのシアターで『白昼の決闘』やってるんだってぇ」

 アニタはそれが言いたかったらしい。

 マスカラの質問は無視である。

 ショウとパレードが中止なら楽団キャストも雨キャンだ。

 美人ではないがフレンドリーな性格でムチッと肉感的なアニタはモテるのだ。



「~~♪」

 アニタはさらにリップカラーを念入りに塗っている。

「いいな~~。『白昼の決闘』~~。グレゴリー・ペックが最強に格好良い頃よね~~」

 クララは自分も一緒に映画を観に行きたそうに鏡の前をブラブラと歩きながらアニタの顔を窺った。

「駄目よっっ。デートなんだからっっ」

 アニタは邪険に撥ね付け、

「ヒトの恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ~ってね」

 そんな古いことを言って手鏡の角度を変えて周到にメイクをチェックする。

「ふぅんだ」

 クララは鏡越しにアニタに下唇を突き出した。



 バックステージのロビー。

「――つまんない――」

 クララは窓際の椅子に座って、不興気に吐息した。

 こうも連日だと雨キャンの時間潰しにも飽き飽きしている。

 おまけに雨キャン続きで今月はギャラも半分くらいになりそうだ。

「――あっ」

 窓の外にアニタが楽団の若者と仲良く相合傘で歩いていくのが見えた。



 早くもアニタは若者の腕に自分の腕を回し、身体を密着させている。

「あ~~」

 あの楽団の若者は前々からアニタが「ね?ちょっと格好良くない?」と目を付けていたトランペット吹きだ。

(昨日まで話したこともなかったのに、こんな急展開?)

 アニタの早業に舌を巻く。

 クララのほうはお目当てのジョーとまだ何の接触もない。

 同時期からバイトを始めていたのにずいぶんとアニタに差を付けられてしまった。

「ちぇ~だ」

 クララは面白くない。
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