上 下
284 / 427
煌めく未来へ

#12

しおりを挟む
そんな私のことを、これまた以前のように、面白おかしく茶化しつつも、いつぞやのように、綺麗にアイロンがなされたハンカチを手にした夏目さんは、涙がおさまるまでの間、そっと優しく涙を拭ってくれていた。

そうして、私の涙が落ち着いたころ、

「さぁて、そろそろ行きますかぁ。新郎の要が、可愛い花嫁が来るのを今か今かと首を長~くして待ってるだろうから。ね?」
「はい」
「さぁ、どうぞ」

まるで、どこかの執事のように、一礼した夏目さんは、私の隣に並んで、自分の左ひじを少し曲げて待ってくれている。

「よ、よろしくお願いしますっ」
「こちらこそ。こんなに綺麗な花嫁のエスコートができるなんて光栄です」
「////……ど、どうも」
「こーら、リップサービスにいちいち照れてないで、さっさと行くぞ?」
「はっ、はいっ」

いよいよと思うと、緊張感に襲われてガッチガチになってしまった私のことを、相変わらず夏目さんに、茶化されたりなんかしているうちに、リラックスできた私は、優しい夏目さんのエスコートで、挙式が執り行われるホールへと向かったのだった。

たどり着いてホールの重厚な両開きの扉の前。

リハーサル通りできるか不安だったものの、夏目さんのエスコートのお陰で、なんとかなりそうだとホッとしたのも束の間。

ワーグナーの結婚式の定番曲である『婚礼の合唱』に合わせて、扉が開かれ、祭壇の傍で佇んでいる要さんの姿が見えてきて。

昼間の時間帯でもっとも格式が高いとされている、なんとも上品なグレーの滑らかな光沢感のあるモーニングコートに身を包んでいる要さんの姿は、本当の王子様みたいで。

キラキラと煌めく特殊なエフェクト全開で、もうクラクラしてしまいそうなほど素敵すぎる。

思わず見惚れてしまってた私は、

「こら、王子様仕様の要に見惚れてないで行くぞ?」

夏目さんに潜めた声で、ツッコまれハッとし、正気を取り戻すことができて。

私は、リハーサル通りに、夏目さんにエスコートされつつ、要さんの待つ祭壇へと向けて、バージンロードへと右足を一歩踏み出した。

バージンロードは花嫁にとっては、『過去』を意味しているらしく、その第一歩は、花嫁がこの世に生を受けた『誕生日』を意味するらしい。

そして、新郎の元へたどり着いた時が『現在』。新郎が花嫁と一緒に退場する時には、『未来』ということになるらしい。

バージンロードを一歩一歩、踏みしめながら、ゆっくりゆっくり歩いてゆく私の脳裏には……

天国に居る家族と一緒に過ごしたかけがえのない日々のこと、学生時代のこと、『YAMATO』に就職した時のこと、

愛する旦那様である要さんに出逢えた時のこと、本当のお兄ちゃんのような夏目さんに出逢えたことなどなど……。

……まるで走馬灯のように、次々に浮かんでくる。

そんな思い出深い、これまでの日々を振り返りながら、要さんの元へたどり着いた私は、今度は夏目さんからバトンタッチされた、王子様仕様の要さんのエスコートによって、永遠の愛を誓いあうために、祭壇へと向かい合った。

きっと、これからも、今までと同じように色んな事が待っているんだろうと思う。

でもきっと、これから、私と要さんとが一緒に手を取り合って歩んでゆく『未来』は、どんなに綺麗な宝石よりも煌めいているに違いない。

だって、私の天国に居る家族や、美優さん、そして夏目さん、これまで出逢ってきた沢山の大切な人たちが、私たちのことをずっとずっと見守っていてくれているだろうから。


♪゜・*:.。. .。.:*・♪

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ひきこもり令嬢でしたが絶世の美貌騎士に溺愛されてます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:178

閉ざされた世界からの脱出

O.K
エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

不安になるから穴をあけて

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:43

アイテムボックスだけもらった!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

逆らえない欲求 after story

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:12

処理中です...