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揺らめく心と核心~前編~
#18
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けれども、香澄さんは特に驚くでもなく。
実に手慣れた手つきで、機材を操作し滞りなく検査を続行しながら、
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。美菜さんは神宮寺先輩にもらい泣きしちゃっただけですから。ねぇ? 美菜さん?」
そういって、傍に置いてあったティッシュを数枚とって私に手渡してくれた香澄さん。
私はそのティッシュで涙を拭きつつ、コクンコクンと返事の代わりに頷いて見せるのだった。
それをおろおろ心配そうに見守ってた要さんが、ようやくホッとしたように大息をついて、椅子に腰を下ろすと、
「なんだそうだったのか。まさか俺が泣かせてしまっていたとは。美菜、すまなかった」
と、私のことを優しい眼差しで見つめつつ、再び手をそっと包み込んでくれていたのだけれど。
検査を終えて、後片付けをしていた筈の香澄さんが、いつ取り出したのか、手にしたスマホを弄りながら、なにやらニマニマしてたと思えば。
どういうわけやら、要さんの眼前に、スマホの画面を印籠のように突きつけてきて。
「いやぁ、驚いたわぁ。常に成績は優秀で、生徒会でもダントツトップ。何があろうと冷静沈着で、素知らぬ顔で何でもそつなくこなしちゃってたあの神宮寺先輩が。
まさか、十歳も年下の可愛い婚約者である美菜さんが、ちょーっと泣いただけで、あーんなに取り乱しちゃうなんて、ほーんとビックリですよ!
しかも、エコー見て感激しちゃって泣いちゃうなんて、案外とかわゆいところがあったんですねぇ? いやぁ、そんな貴重なショットが手に入っちゃうなんてぇ。私も感激です~」
なにやらながたらと、そんなことを言ってきた。
そして、仕上げとばかりに……。
「これ、夏目さんに渡しておいてくださいね? お願いしま~す。神宮寺せ~んぱいっ」
今度は名刺とおぼしき四角い紙切れを要さんに差し出している。
どうやら、なにがなんでも夏目さんのことを紹介してほしいらしい。
ここまでしたのだから、きっと勝算があるのだろう香澄さんの口調は、語尾にハートマークがついていそうな、そんな口ぶりだ。
一方、要さんはと言えば……。
ふん、くだらない、というように、手にした名刺を一瞥しつつ、
「……小石川。この俺を、そんなもので脅す気か?バカバカしい」
こともなげに吐き捨てた。
要さんは、端から相手にする気はないご様子だ。
その様子からして、要さんが優勢かと思われたのだけれど……。
「やだなぁ、神宮寺先輩たら、人聞きが悪いこと言わないでくださいよ。お願いしてるだけじゃないですかぁ。この写メ、譲義兄さんに送信してあげたらさぞかし喜ぶだろうなぁ、きっと」
「……言っとくが、名刺を渡すだけだ。後は勝手にしろ」
結局、香澄さんの思惑通り事は運んで、不本意ながら要さんは、夏目さんに香澄さんの名刺を渡すこととなった。
実に手慣れた手つきで、機材を操作し滞りなく検査を続行しながら、
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。美菜さんは神宮寺先輩にもらい泣きしちゃっただけですから。ねぇ? 美菜さん?」
そういって、傍に置いてあったティッシュを数枚とって私に手渡してくれた香澄さん。
私はそのティッシュで涙を拭きつつ、コクンコクンと返事の代わりに頷いて見せるのだった。
それをおろおろ心配そうに見守ってた要さんが、ようやくホッとしたように大息をついて、椅子に腰を下ろすと、
「なんだそうだったのか。まさか俺が泣かせてしまっていたとは。美菜、すまなかった」
と、私のことを優しい眼差しで見つめつつ、再び手をそっと包み込んでくれていたのだけれど。
検査を終えて、後片付けをしていた筈の香澄さんが、いつ取り出したのか、手にしたスマホを弄りながら、なにやらニマニマしてたと思えば。
どういうわけやら、要さんの眼前に、スマホの画面を印籠のように突きつけてきて。
「いやぁ、驚いたわぁ。常に成績は優秀で、生徒会でもダントツトップ。何があろうと冷静沈着で、素知らぬ顔で何でもそつなくこなしちゃってたあの神宮寺先輩が。
まさか、十歳も年下の可愛い婚約者である美菜さんが、ちょーっと泣いただけで、あーんなに取り乱しちゃうなんて、ほーんとビックリですよ!
しかも、エコー見て感激しちゃって泣いちゃうなんて、案外とかわゆいところがあったんですねぇ? いやぁ、そんな貴重なショットが手に入っちゃうなんてぇ。私も感激です~」
なにやらながたらと、そんなことを言ってきた。
そして、仕上げとばかりに……。
「これ、夏目さんに渡しておいてくださいね? お願いしま~す。神宮寺せ~んぱいっ」
今度は名刺とおぼしき四角い紙切れを要さんに差し出している。
どうやら、なにがなんでも夏目さんのことを紹介してほしいらしい。
ここまでしたのだから、きっと勝算があるのだろう香澄さんの口調は、語尾にハートマークがついていそうな、そんな口ぶりだ。
一方、要さんはと言えば……。
ふん、くだらない、というように、手にした名刺を一瞥しつつ、
「……小石川。この俺を、そんなもので脅す気か?バカバカしい」
こともなげに吐き捨てた。
要さんは、端から相手にする気はないご様子だ。
その様子からして、要さんが優勢かと思われたのだけれど……。
「やだなぁ、神宮寺先輩たら、人聞きが悪いこと言わないでくださいよ。お願いしてるだけじゃないですかぁ。この写メ、譲義兄さんに送信してあげたらさぞかし喜ぶだろうなぁ、きっと」
「……言っとくが、名刺を渡すだけだ。後は勝手にしろ」
結局、香澄さんの思惑通り事は運んで、不本意ながら要さんは、夏目さんに香澄さんの名刺を渡すこととなった。
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