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深まる疑惑
#19
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「美菜ちゃん、遅くなっちゃってごめん。会社に寄ってたから、着くのが遅くなっちゃって。それに、要も酔ってて、状況がよく掴めてなくてさ。大丈夫だった?やっぱり、隼くんになんか言われちゃった?帰ってからゆっくり聞くからさ。とりあえず、行こっか?」
「……あの、」
「ん?どした?」
「……わ、たし……」
「うん?なぁに?」
隼さんが居なくなった後。
座ったままで動けずにいた私の傍まで来てくれて、見た目はすかしたインテリ銀縁メガネ仕様のスーツ姿だけど、いつも通りの明るい素の声で、優しく気遣ってくれる夏目さん。
なんだかいつも通りの夏目さんの様子に、さっきまでの張りつめていた緊張感が嘘のように、凝り固まっていた心と身体までが徐々に解けていくような気がしてくる。
そんな夏目さんの優しさになんとか言葉を返したいと思うのに……。
どういう訳か、喉がつっかえたようになって、言葉が途中で詰まってしまう。
焦れば焦るほどにうまくいかない。それでもなんとか夏目さんに伝えたくて。
「……私の…せいで、……やな、思い……させちゃ……てっ、ごめ、なさい」
けれど、なんとか紡ぎだしたその言葉は、涙混じりのものとなってしまっていた。
隼さんから解放されてホッとした所為で、緊張の糸が切れてしまった私は、どうやら泣いてしまっているようだ。
そう自覚した途端に、頬を伝った涙の粒が顎先からポトリポトリと膝の上に零れ落ちてワンピースの生地に染み込んでゆく。
まだ放心が完全に解けずにいる私は、その様をボンヤリと眺めていることしかできずにいる。
そんな私は、どういう訳だか、次の瞬間には、夏目さんによって強く抱きしめられてしまっていて。
けれど、その理由が掴めないから、私の頭には無数のクエスチョンマークが飛び交っている。
「……あの、夏目さん?く…くっ、苦じぃ……です」
夏目さんがあんまり強く抱きしめてくるものだから、放心もすっかり解けた私は、苦しくて堪らずそう声を上げれば……。
一瞬、何故か、私のことを抱きしめている夏目さんの動きがピタリと制止したかと思えば、
「……あーっ、スーツに鼻水付いちゃったじゃん」
何かを思い出したように、酷く驚いた声を出してきた夏目さん。
その声は、夏目さんの着ているスーツに私の涙が付いていることに気づいてのことらしい。
そんなこと言われても困るんですけど、とか思いつつ、私が目を丸くしていると、
「こーしてくれる」
いいこと閃いた、みたいな声で、そう言ってきた夏目さんによって、いきなり鼻を摘ままれてしまい。
「あっ、ちょっ、酷いっ!夏目さんが抱き寄せたりするからでしょう?それに鼻水なんて出てませんっ!」
「どうだかなぁ」
「もう!」
「『もう』って牛かよ?」
「……違いますっ!」
こんな感じで、しばし私は泣くのも忘れて、急に意地悪なことを仕掛けてきた夏目さんに抗議したりしているうちに、なんとかいつもの調子を取り戻すことができたのだった。
優しい夏目さんのことだから、きっと、泣いてる私のことを泣き止ませるために、わざと意地悪なことを言ってきたのだろう。
そんなことをやっていた時だった。私と夏目さんの居る大広間に、襖の向こうの廊下の方から、
「あぁ、はい。後でお持ちしますね」
住み込みのお手伝いさんである妙さんらしき女性が、誰かに受け答えするような、そんな声が微かに聞こえてきて。その後すぐに、
「失礼いたします」
そう言って、襖を開けて私と夏目さんの前に二人分のお茶を持って現れた妙さん。
「あら、夏目さんだったんですね?お疲れ様です」
「お疲れ様です」
隼さんにでもお茶を頼まれていたのだろうか、隼さんの代わりに夏目さんがそのお茶を戴いて。
それから少しして、私は夏目さんと一緒にマンションへと無事帰りつくことができたのだけれど……。
「――で、隼くんになんて言われたの?お兄さんに正直に言ってごらん」
現在、マンションに戻った私はリビングのソファに座り、同じように正面のソファに腰を下ろし足を組んでいる、普段通りラフな格好に戻った夏目さんによって、取り調べを受けている真っ最中である。
ちなみに、要さんは、まだ暫く時間がかかりそうなので、タクシーで帰って来ることになっているらしかった。
「……あの、」
「ん?どした?」
「……わ、たし……」
「うん?なぁに?」
隼さんが居なくなった後。
座ったままで動けずにいた私の傍まで来てくれて、見た目はすかしたインテリ銀縁メガネ仕様のスーツ姿だけど、いつも通りの明るい素の声で、優しく気遣ってくれる夏目さん。
なんだかいつも通りの夏目さんの様子に、さっきまでの張りつめていた緊張感が嘘のように、凝り固まっていた心と身体までが徐々に解けていくような気がしてくる。
そんな夏目さんの優しさになんとか言葉を返したいと思うのに……。
どういう訳か、喉がつっかえたようになって、言葉が途中で詰まってしまう。
焦れば焦るほどにうまくいかない。それでもなんとか夏目さんに伝えたくて。
「……私の…せいで、……やな、思い……させちゃ……てっ、ごめ、なさい」
けれど、なんとか紡ぎだしたその言葉は、涙混じりのものとなってしまっていた。
隼さんから解放されてホッとした所為で、緊張の糸が切れてしまった私は、どうやら泣いてしまっているようだ。
そう自覚した途端に、頬を伝った涙の粒が顎先からポトリポトリと膝の上に零れ落ちてワンピースの生地に染み込んでゆく。
まだ放心が完全に解けずにいる私は、その様をボンヤリと眺めていることしかできずにいる。
そんな私は、どういう訳だか、次の瞬間には、夏目さんによって強く抱きしめられてしまっていて。
けれど、その理由が掴めないから、私の頭には無数のクエスチョンマークが飛び交っている。
「……あの、夏目さん?く…くっ、苦じぃ……です」
夏目さんがあんまり強く抱きしめてくるものだから、放心もすっかり解けた私は、苦しくて堪らずそう声を上げれば……。
一瞬、何故か、私のことを抱きしめている夏目さんの動きがピタリと制止したかと思えば、
「……あーっ、スーツに鼻水付いちゃったじゃん」
何かを思い出したように、酷く驚いた声を出してきた夏目さん。
その声は、夏目さんの着ているスーツに私の涙が付いていることに気づいてのことらしい。
そんなこと言われても困るんですけど、とか思いつつ、私が目を丸くしていると、
「こーしてくれる」
いいこと閃いた、みたいな声で、そう言ってきた夏目さんによって、いきなり鼻を摘ままれてしまい。
「あっ、ちょっ、酷いっ!夏目さんが抱き寄せたりするからでしょう?それに鼻水なんて出てませんっ!」
「どうだかなぁ」
「もう!」
「『もう』って牛かよ?」
「……違いますっ!」
こんな感じで、しばし私は泣くのも忘れて、急に意地悪なことを仕掛けてきた夏目さんに抗議したりしているうちに、なんとかいつもの調子を取り戻すことができたのだった。
優しい夏目さんのことだから、きっと、泣いてる私のことを泣き止ませるために、わざと意地悪なことを言ってきたのだろう。
そんなことをやっていた時だった。私と夏目さんの居る大広間に、襖の向こうの廊下の方から、
「あぁ、はい。後でお持ちしますね」
住み込みのお手伝いさんである妙さんらしき女性が、誰かに受け答えするような、そんな声が微かに聞こえてきて。その後すぐに、
「失礼いたします」
そう言って、襖を開けて私と夏目さんの前に二人分のお茶を持って現れた妙さん。
「あら、夏目さんだったんですね?お疲れ様です」
「お疲れ様です」
隼さんにでもお茶を頼まれていたのだろうか、隼さんの代わりに夏目さんがそのお茶を戴いて。
それから少しして、私は夏目さんと一緒にマンションへと無事帰りつくことができたのだけれど……。
「――で、隼くんになんて言われたの?お兄さんに正直に言ってごらん」
現在、マンションに戻った私はリビングのソファに座り、同じように正面のソファに腰を下ろし足を組んでいる、普段通りラフな格好に戻った夏目さんによって、取り調べを受けている真っ最中である。
ちなみに、要さんは、まだ暫く時間がかかりそうなので、タクシーで帰って来ることになっているらしかった。
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