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深まる疑惑

#20

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夏目さんには、私が病院で静香さんに会って、要さんの元カノだということを知っていたことを始め、隼さんに聞かされた、静香さんと要さんとの経緯《いきさつ》と縁談のこと。

それから、出店店舗のこと、奨学金のことも、耳にした通り話したけれど、夏目さんと要さんに何かある風なことを仄めかしていたことについては話してはいない。


だからって、二人のことを信用していないとか、そういう訳じゃない。


――むしろ、要さんと夏目さんのことを信用しているからこそだ。


隼さんはきっと、要さんと静香さんが元の鞘に収まり結婚することで、出店店舗が白紙にならないようにしたいだけなんだと思う。


そのためには、要さんの婚約者である私の存在が邪魔なのだろう……。


やり方はかなり乱暴だけれど、隼さんなりに、『YAMATO』のことを考えての行動だったのだろう……。


――だとしたら、会社にとって、それだけ危機的状況だということなのかな?


今の私にとっては、その事が一番気がかりだった。


私の話を終始優しい表情を浮かべて聞き役に徹してくれていた夏目さん。


けれど、聞き終えた途端に、夏目さんの表情はミルミル般若のような怖い表情へと豹変してしまっていて、


「あー、くっそ、ヤッパあんとき一発ボコッといてやるべきだったな!」


と、鼻息荒く腕組みをして、何やら物騒なことを口にする夏目さん。


「……え!?さすがにそれは……」


夏目さんの言葉にあたふたしつつもなんとか宥めようと声を出した私の方に、


「ジョーダンだよ。さすがに暴力はふるわないよ。これでも優秀な秘書だからな。やるなら、横領でもなんでも偽装して、徹底的に社会から抹消してやらないと。なんてなぁ」


そう言ってケラケラと笑いながら、夏目さんは面白おかしく、冗談めかして言うけれど、全然目が笑ってないから、本当にやっちゃいそうで、怖いんですけど……。


とか要らぬ心配をしていた私に、


「それにしてもよく頑張ったな、美菜ちゃん。やっぱ愛の力はスゲーよなぁ」


今度は、感心したような表情と口調で、そんなことを言ってきて、ちょっとおどけて見せる夏目さん。


どうやら夏目さんは、私のことを元気づけようとしてくれているらしい。


それは非常に有り難いことなんだけど、今はそんなことよりも、会社のことが気にかかって仕方ないから、思い切るように、


「夏目さん、出店予定の店舗が白紙になりそうなのって、本当のことなんですか?」


正面の夏目さんへ向けて、そう訪ねてみれば……。


「……あぁ、まぁ、そうなんだけど……」


一瞬何やら考え込むような、そんな素振りをして肯定してきた要さん。


「……やっぱり、本当のことだったんですね……」


そう、思ったままを口にしてシュンとしてしまった私に、


「いや、でも、それと、要と静香さんの縁談のことは関係ないよ。西園寺社長のことは何度もお会いしてるから、俺もよく知ってるけど。そういうことを仕事に持ち出してくるような、そんな人じゃないよ」


と、慌てて返してくれた夏目さんの言葉に、


「……でも」


――じゃぁ、どうして?


という疑問にぶつかってしまってる私に、続けざまに夏目さんの声が追いかけてきて。


「こう言っちゃなんだけどさぁ、隼くんは要に対して、相当コンプレックスがあるようなんだよね。長年デキのいい兄と比べられてりゃぁ、そりゃ無理もないとは思うけどさぁ……。そんな馬鹿馬鹿しいこと、信じなくていいから」


そう言われても……。


「……」


――何故だろう?釈然としないのは……。


「美菜ちゃん、そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だよ。店舗のことはさぁ、一部で国内より海外の会社をって意見が出てたようだけど、うちが五年前にワールドチョコレートアワードのファイナルで世界最多の金賞獲得した経歴があるって分かった途端、やっぱりうちにっていう声が上がっててさぁ。要や会長も方々に手を回してたし、予定通り出店できそうだから」

「……え!?そうなんですか?」


――なんだ、そうだったんだ……。


隼さんの言葉は、やっぱり全部が全部、本当のことって訳じゃなかったんだ、良かった。


ちなみに、ワールドチョコレートアワードというのは、毎年行われている、チョコレートの世界最大級の品評会のことで。

味、レシピ、テクニックなど様々な項目から審査・評価され"高品質"だと認められたチョコレートのみが参加することができ、ヨーロッパ、アメリカ、アジアなど部門ごとに分けて開催される大会を経て、ファイナルで金賞、銀賞、銅賞のいずれかの賞を受賞するということは、世界で認められたチョコレートということになる。


さっきはなんだか釈然としなかったけれど、夏目さんの話を聞いてるうちに、私はようやく納得することができて、ホッと胸を撫で下ろすことができて。


「うん、だから安心して。そんなことより、今は美菜ちゃんの方だよ。隼くんに色々言われて不安になってるのは分かるけど。奨学金のことは、要が美菜ちゃんに一目惚れしたっていうのは事実なんだし。別に、時間なんて関係ないよ。結婚考えてる彼女のために払ってても可笑しくないんだしさぁ……。

静香さんのことは、俺はよく知らないんだけど、元の鞘に収まるとか、そういう心配は要らないだろうけど。要にも、俺に話したようにちゃんと話して、要から直接聞いて、速く安心した方がいいよ」


夏目さんの放ったこれらの言葉に、隼さんから聞いた言葉の信憑性は薄れ、単純な私の意識は、ものの見事に、要さんの元カノである静香さんのことだけにシフトチェンジされてしまうのだった。


「その事なんですけど……。要さんには、私が静香さんのことを知ってることは黙っててもらえませんか?」

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