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深まる疑惑
#16
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「ですが、いくら気持ちが揺らいでも、天涯孤独となった婚約者でもある美菜さんに別れを切り出すような、そんな酷いことはしないと思いますよ。兄さんは優しいところがありますからね。僕と違って」
――確かにそうかもしれない。
要さんは優しいから、そんなことはしないだろう……。
一瞬は、驚きすぎて、思考停止状態に陥ってしまったけれど、思いの外、冷静に処理を進めようとする頭のお陰で、思案してるうちに、ある疑問が浮かんできた。
――でも、だったら、隼さんはなぜ私にそんなことをわざわざ教える必要があったのだろう……。
それを頭の中でなんとか処理しようとしていたところへ、
「でもそうなれば、美菜さんにとってはお辛いでしょうから、僕が教えて差し上げたのです。嫌でしょう? 好きな人にご自分とは別に、想いを寄せる女性が居るのに、それを知らずに結婚して、一生騙されて生きていくなんて。どちらも不幸になるだけなのですから……」
またまた隼さんの声が耳に流れ込んできて。
その言葉で、ようやく隼さんの言わんとすることが少し見えてきた気がした。
きっと、隼さんは、別れを切り出せない要さんに代わって、私に自ら身を引けと言いたいのだろう……。
――でも、それだけじゃないような気がする。
――隼さんには、他にも何か別の目的があるような気がしてならない。
ついさっき、隼さんから聞かされた、要さんと静香さんのことは確かにショックだったけれど……。
それよりも今は、私にご丁寧にも、知らなくてもいい余計なことまで、長たらと昔話を交えつつ話して聞かせた、隼さんの思惑の方が気になってしまった。
――だって、要さんの口から聞かされた訳じゃないんだもん。
――要さんも、くれぐれも隼さんには気をつけるよう言ってたし、そんな隼さんの話なんか信用しない。
――この人には絶対に何か裏があるに違いない。
それに、酔って休みに行ってしまった要さんのことも、戻ってこない静香さんのことだって気になるし……。
――一刻も速く隼さんの目的をなんとか聞き出して、要さんの元に行かなくちゃ。
これ以上、隼さんのペースに呑み込まれないためにも、この訳の分からない長引きそうな隼さんの独壇場を終わらせるためにも……。
相も変わらず私のことを、憎たらしいくらいに綺麗に整ったアイドル並みのお顔で、冷ややかな微笑を浮かべて見下ろしている隼さんのことを、私はキッと強い視線で見据えて言い放った。
「わざわざご丁寧にありがとうございました。お話はそれだけですか?だったら、私はもう要さんのところに行きますので、これで失礼致します!」
直後、立ち上がろうとした私の腕は、隼さんによっていとも容易く掴んで制止されてしまい。
横座りの体勢から立ち上がろうとしていた私は膝立ち状態で、片膝をついた隼さんに右手首を拘束されて、隼さんの方へ強い力で引き寄せられてしまっている。
そこへ、隼さんは自身の顔を私の顔の目前、吐息のかかりそうな至近距離まで寄せてきて、厭らしい笑みを浮かべると、
「最初にも言いましたが、美菜さんのようなおとなしそうな女性の時折見せるこういう反抗的な表情、嫌いじゃない。そうお教えしましたよね? それとも、僕に、厭らしいお仕置きでもされたいのですか?」
そんなことを優しい甘い声色で囁きながら、もう片方の手指では、鎖骨から首筋にかけて厭らしい手つきで撫あげられてしまい。
不覚にもドキドキと高鳴ってしまう鼓動をどうすることもできずに、ゴクリと生唾を飲んで隼さんのことを大きく見開いた眼《まなこ》で、ただただ凝視することしかできずにいる私に、
「美菜さんは本当に分かりやすい方だ。僕の目的がそんなに知りたいですか? いや、違いますね。兄さんと静香さんのことが気になって仕方ないのでしょう?」
と、バカにしたような表情でほくそ笑んだ隼さんが、私の拘束している手首を尚も自身の方へ引寄せ、おのずと隼さんと私との距離とが縮んだところで。
今度は手指で、うなじから背筋の窪みに沿ってウエスト辺りまでをツーとなぞりつつ、
「今頃、お互いの気持ちを確かめあってるんじゃないですか? きっと、こんな風に」
私の耳の辺りに顔を埋めてくると、ふう……と熱い息を吹き掛けてきた。
隼さんに対して嫌悪感しか感じない筈なのに意思に反して、要さんに慣らされている所為か、はたまた条件反射なのか、ぞくぞくと身体が勝手に反応して、全身が粟立っていくのが自分でも分かるから、悔しさで泣いてしまいそうだ。
堪りかねた私はなんとか泣くのを堪えて、隼さんの身体を左手ではねのけながら、かあっと顔を紅潮させつつも、
「はぐらかさないでくださいっ!言いたいことがあるならハッキリ言えばいいじゃないですか!隼さんの目的はなんなんですか!?」
正面の隼さんに向けて、早口に捲し立てるように言い放てば。
「美菜さんの反応が初々しくて、もう少し楽しませていただきたかったのですが、仕方ありませんね」
独りごちるように呟きを落とした隼さんのさっきまでのバカにしたような表情は一変、怖いくらい真剣な表情をした隼さんに放たれた、一段と低い声が返された。
「そこまで言うなら、単刀直入に言わせていただきます。美菜さんには、兄さんから身を引いていただきたいのです。兄さんと会社のために」
――確かにそうかもしれない。
要さんは優しいから、そんなことはしないだろう……。
一瞬は、驚きすぎて、思考停止状態に陥ってしまったけれど、思いの外、冷静に処理を進めようとする頭のお陰で、思案してるうちに、ある疑問が浮かんできた。
――でも、だったら、隼さんはなぜ私にそんなことをわざわざ教える必要があったのだろう……。
それを頭の中でなんとか処理しようとしていたところへ、
「でもそうなれば、美菜さんにとってはお辛いでしょうから、僕が教えて差し上げたのです。嫌でしょう? 好きな人にご自分とは別に、想いを寄せる女性が居るのに、それを知らずに結婚して、一生騙されて生きていくなんて。どちらも不幸になるだけなのですから……」
またまた隼さんの声が耳に流れ込んできて。
その言葉で、ようやく隼さんの言わんとすることが少し見えてきた気がした。
きっと、隼さんは、別れを切り出せない要さんに代わって、私に自ら身を引けと言いたいのだろう……。
――でも、それだけじゃないような気がする。
――隼さんには、他にも何か別の目的があるような気がしてならない。
ついさっき、隼さんから聞かされた、要さんと静香さんのことは確かにショックだったけれど……。
それよりも今は、私にご丁寧にも、知らなくてもいい余計なことまで、長たらと昔話を交えつつ話して聞かせた、隼さんの思惑の方が気になってしまった。
――だって、要さんの口から聞かされた訳じゃないんだもん。
――要さんも、くれぐれも隼さんには気をつけるよう言ってたし、そんな隼さんの話なんか信用しない。
――この人には絶対に何か裏があるに違いない。
それに、酔って休みに行ってしまった要さんのことも、戻ってこない静香さんのことだって気になるし……。
――一刻も速く隼さんの目的をなんとか聞き出して、要さんの元に行かなくちゃ。
これ以上、隼さんのペースに呑み込まれないためにも、この訳の分からない長引きそうな隼さんの独壇場を終わらせるためにも……。
相も変わらず私のことを、憎たらしいくらいに綺麗に整ったアイドル並みのお顔で、冷ややかな微笑を浮かべて見下ろしている隼さんのことを、私はキッと強い視線で見据えて言い放った。
「わざわざご丁寧にありがとうございました。お話はそれだけですか?だったら、私はもう要さんのところに行きますので、これで失礼致します!」
直後、立ち上がろうとした私の腕は、隼さんによっていとも容易く掴んで制止されてしまい。
横座りの体勢から立ち上がろうとしていた私は膝立ち状態で、片膝をついた隼さんに右手首を拘束されて、隼さんの方へ強い力で引き寄せられてしまっている。
そこへ、隼さんは自身の顔を私の顔の目前、吐息のかかりそうな至近距離まで寄せてきて、厭らしい笑みを浮かべると、
「最初にも言いましたが、美菜さんのようなおとなしそうな女性の時折見せるこういう反抗的な表情、嫌いじゃない。そうお教えしましたよね? それとも、僕に、厭らしいお仕置きでもされたいのですか?」
そんなことを優しい甘い声色で囁きながら、もう片方の手指では、鎖骨から首筋にかけて厭らしい手つきで撫あげられてしまい。
不覚にもドキドキと高鳴ってしまう鼓動をどうすることもできずに、ゴクリと生唾を飲んで隼さんのことを大きく見開いた眼《まなこ》で、ただただ凝視することしかできずにいる私に、
「美菜さんは本当に分かりやすい方だ。僕の目的がそんなに知りたいですか? いや、違いますね。兄さんと静香さんのことが気になって仕方ないのでしょう?」
と、バカにしたような表情でほくそ笑んだ隼さんが、私の拘束している手首を尚も自身の方へ引寄せ、おのずと隼さんと私との距離とが縮んだところで。
今度は手指で、うなじから背筋の窪みに沿ってウエスト辺りまでをツーとなぞりつつ、
「今頃、お互いの気持ちを確かめあってるんじゃないですか? きっと、こんな風に」
私の耳の辺りに顔を埋めてくると、ふう……と熱い息を吹き掛けてきた。
隼さんに対して嫌悪感しか感じない筈なのに意思に反して、要さんに慣らされている所為か、はたまた条件反射なのか、ぞくぞくと身体が勝手に反応して、全身が粟立っていくのが自分でも分かるから、悔しさで泣いてしまいそうだ。
堪りかねた私はなんとか泣くのを堪えて、隼さんの身体を左手ではねのけながら、かあっと顔を紅潮させつつも、
「はぐらかさないでくださいっ!言いたいことがあるならハッキリ言えばいいじゃないですか!隼さんの目的はなんなんですか!?」
正面の隼さんに向けて、早口に捲し立てるように言い放てば。
「美菜さんの反応が初々しくて、もう少し楽しませていただきたかったのですが、仕方ありませんね」
独りごちるように呟きを落とした隼さんのさっきまでのバカにしたような表情は一変、怖いくらい真剣な表情をした隼さんに放たれた、一段と低い声が返された。
「そこまで言うなら、単刀直入に言わせていただきます。美菜さんには、兄さんから身を引いていただきたいのです。兄さんと会社のために」
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