【R18】訳あり御曹司と秘密の契約【本編完結・番外編不定期更新中】

羽村美海

文字の大きさ
上 下
173 / 427
深まる疑惑

#17

しおりを挟む

――やっぱり、そういうことだったんだ。


――でも、それだけじゃない筈。


言い終えると同時、私の右手を解放した隼さんは、忌々しげにスーツのジャケットを手で払ってから、身なりを正し、私に向かい合うようにして、その場に胡座をかいて腰を落ち着けた。


どうやら、ここからが本題のようだ。


腹が立つくらい落ち着き払った様子の隼さんは、正面で拘束されていた手首を擦りながら正座の体勢になった私のことを、射抜くようにまっすぐ見据えてくると、一瞬だけニヤリと厭らしく口許を歪ませたように見えて。


さっきまでとはまた違った緊張感に、喉の乾きも加わり、私がゴクリと喉を鳴らせた微かな音と、さっきから騒ぎ通しの鼓動までもが、やけに大きく鼓膜に響いてきて落ち着かない。


――得体の知れない隼さんを前に、私は、怖じ気づいてしまいそうだ。


そんな自分をなんとか奮い立たせて、隼さんの様子を窺いつつも、隼さんに挑むべくして、


「要さんと会社のためって、どういう意味ですか?」


ストレートな質問をまっすぐにぶつけると。


そんなことは想定内だ、とでも言わんばかりに、至極バカにしたような表情を浮かべた隼さんは、フンと鼻で一笑してから、


「どういう意味もなにも、言葉の通りですが……」


そんなことをのたまってきた。


――こんなんじゃ埒が明かない。


そう判断した私が、隼さんの顔をキッと睨みつけながら、


「そうですか、隼さんの言いたいことはよーく分かりました。でも私は、隼さんの言うことを聞くことはできませんので、今度こそ、これで失礼させていただきます!」


言い放った私が一刻も速くこの場から立ち去ろうと、スックと立ち上がって一歩踏み出したところで、


「美菜さんは、それで本当にいいんですか?」


隼さんの思いの外大きな迫力のある低い声が追いかけてきて、その声にビクッとして振り返ると……。


そこには、さっきの態度と声は一体なんだったのか、と思うほどに、シュンとした隼さんの姿があって。


何故か、ふう……と大きな溜め息をつくと、自分の胡座をかいた脚に項垂れるようにして、力なく蹲《うずくま》ってしまった隼さん。


そんな隼さんの様子に驚きを隠せずにいる私に、隼さんがポツリポツリと話し始めた。


「実は兄さんには、以前から西園寺社長から静香さんとの縁談の話がきていましてね。勿論、西園寺社長は昔の経緯《いきさつ》なんてご存知ありませんから。その証拠に、先日の会食で兄さんの婚約のことを知って、ずいぶん残念がっておられたそうです。

西園寺社長は、来年のオリンピックに向けての空港周辺における再開発にも携わっておいでなのですが……。そこで来春完成予定のホテルなどに出店予定だったうちの店舗の話も、どうやら白紙になりそうなのです。

西園寺社長は、兄さんの婚約とは関係ないとはおしゃっておられるようですが……。西園寺社長も、人の親ですからね。自慢の娘を袖にされてご立腹なのでしょう」


そして、隼さんに聞かされた事実に、私が思わず「……そんなっ!!」と、声を漏らせば……。


項垂れてしまっていた頭をゆっくりと持ち上げた隼さんが、まるで追い打ちでもかけるようにして、


「酷い話ですよねぇ、私情をビジネスに持ち込むなんて……。ですが、こういった古い体質の企業もまだまだ存在するのも事実でして。特に、西園寺社長の年代からしますと、まだまだひよっこの兄も僕も、なかなか考えを認めてもらえないのが現状なのです」


振り返って立ち尽くしたまま動けずにいる私に向けて畳み掛けてきた。


けれど、これまでの隼さんの振る舞いからして、そう簡単に信用なんてできる筈がない。


――きっと、泣き落としに違いない。


――危ない、危ない、騙されてしまうところだった。


「そんな話、信用できません!失礼します!」


今度こそ、そう言って立ち去ろうとした私の目の前に、滑り込むようにして土下座の体勢で頭を畳に擦りつけてきた隼さん。


そんな行動に出てきた隼さんの姿に、これまた驚いてしまった私が慌てて隼さんの頭を上げさせようとした途端、私の手を掴んで、グッとすがるようにして包み込んできた隼さん。


「……えっ!?ちょっと、なんなんですか?やめてください!」


そんな私の言葉なんて耳に入ってもいない様子の隼さんは、


「兄さんは確かに美菜さんのことを愛してるんだと思います。だから、仕事でこんな風に行き詰まることがあっても、美菜さんの耳に入れずに、自分の実力でどうにかしようとする筈です。

現に、その件で数日前から奔走しています。ですので今日も、静香さんのことだけでなく、その疲れの所為もあって、酔い潰れてしまったのだと思います。

ですが、さっきもお伝えした通り、いくら尽力しても、全てが解決する訳ではありません。出店予定だった店舗が突然白紙なんてことになれば、うちの信用問題に関わります。どうか、会社を、兄さんを助けると思って、兄さんから身を引いてくださいませんか?

美菜さん、どうかお願いします」


まるで命乞いでもするかのような勢いで、そう言うと、再び頭を畳に擦りつけてひれ伏してしまわれた。


あっけにとられた私は、立ち尽くしたまま放心状態だ。


だだっ広い豪華絢爛な欄間彫刻の施された和室の大広間で、そんな異様な光景を繰り広げていた私と隼さんの元に、


「失礼いたします。副社長の秘書の夏目でございます」


きっと、要さんに電話でお迎えを頼まれたのだろう、すかしたインテリ銀縁メガネ仕様の夏目さんの声が割って入ってきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2024.8.2)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...