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予期せぬ出来事とほころび
#4
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重い足取りで到着した副社長室に入ると……。
そこには、ソファに座った要さんと、その脇に控えるようにして佇み、私に深く頭を下げて出迎えてくれている、見知らぬ一人の男性の姿があった。
その男性は、見た感じ、四十代半ばといったところだろうか、シワひとつない真っ黒なスーツに身を包んでいて。
なんだろう、髪もスッキリと撫で付けられていて、身のこなしが上品かつ洗練されている所為か、どこかのお屋敷の執事のような、そんな雰囲気を醸し出しているように見える。
緊張ぎみに、ソファの傍まで脚を進めた私は、気後れしつつ、男性に倣って深く頭を下げてからゆっくりと顔を上げると、
「そんなに緊張しなくてもいい。この男性は、うちの六階にあるラウンジでの接客業務を任せている販売部の西城《さいじょう》昭人《あきと》部長だ」
フッと、優しい微笑みを浮かべた要さんにそう紹介された私は、西城部長と頭を下げ合いながら改めて自己紹介をし合ったのだった。
さっき要さんが言ってた"ラウンジ"というのは、うちで取り扱う商品の中でも特に高価な宝飾品などを、時間や他のお客様の目を気にすることなく、ゆっくりとしたスペースで寛いで選んだり試着することのできる、俗にいう"VIPルーム"のことで。
ラウンジを利用するお客様には、大抵は富裕層である政財界等や各界の著名人もいるため、うちの接客に関わる社員の誰もが配属される訳じゃない。
私は接客には関わってないから、よくは知らないけれど……。
聞いた話では、接客の経験年数だけじゃなく、社内外で定期的に行われている接客に関する研修に参加し、社内での厳しい試験に合格した者だけに限られるらしい。
ラウンジの接客を任せられているということは、『YAMATO』の店舗に勤める社員の中でも特に接客に優れたエキスパートであるということだ。
でも、そんな人が何でここに居るんだろう?
そう思っていた私は、
「近々ご婚約されるそうで。この度は、おめでとうございます」
そう言って、再び深々と頭を下げた西城部長の言葉の後で、
「早速ですが、まずは指のサイズを確認させていただきたいと思いますので、こちらのーー」
とかなんとかいう説明を聞きながら……。
いつの間にかテーブルには、キラキラと煌めく高価そうな指輪の数々が納められているジュエリーケースがところ狭しと並べられていて。
そんな非日常的な光景を前に、突然のことに驚きを隠せない私は、言葉を失ってしまった。
そんな私の頭には、ついさっき漠然と思い浮かべてしまった不安な気持ちが、まるで広い空に雨雲でも立ち込めるかのように、むくむくと膨らんでいくのだった。
不安といっても、結婚するのが嫌だとかそういうんじゃなくて、自分でも、どう説明したらいいのかも分からないような、そんな漠然としたモノなのだけれど……。
そこには、ソファに座った要さんと、その脇に控えるようにして佇み、私に深く頭を下げて出迎えてくれている、見知らぬ一人の男性の姿があった。
その男性は、見た感じ、四十代半ばといったところだろうか、シワひとつない真っ黒なスーツに身を包んでいて。
なんだろう、髪もスッキリと撫で付けられていて、身のこなしが上品かつ洗練されている所為か、どこかのお屋敷の執事のような、そんな雰囲気を醸し出しているように見える。
緊張ぎみに、ソファの傍まで脚を進めた私は、気後れしつつ、男性に倣って深く頭を下げてからゆっくりと顔を上げると、
「そんなに緊張しなくてもいい。この男性は、うちの六階にあるラウンジでの接客業務を任せている販売部の西城《さいじょう》昭人《あきと》部長だ」
フッと、優しい微笑みを浮かべた要さんにそう紹介された私は、西城部長と頭を下げ合いながら改めて自己紹介をし合ったのだった。
さっき要さんが言ってた"ラウンジ"というのは、うちで取り扱う商品の中でも特に高価な宝飾品などを、時間や他のお客様の目を気にすることなく、ゆっくりとしたスペースで寛いで選んだり試着することのできる、俗にいう"VIPルーム"のことで。
ラウンジを利用するお客様には、大抵は富裕層である政財界等や各界の著名人もいるため、うちの接客に関わる社員の誰もが配属される訳じゃない。
私は接客には関わってないから、よくは知らないけれど……。
聞いた話では、接客の経験年数だけじゃなく、社内外で定期的に行われている接客に関する研修に参加し、社内での厳しい試験に合格した者だけに限られるらしい。
ラウンジの接客を任せられているということは、『YAMATO』の店舗に勤める社員の中でも特に接客に優れたエキスパートであるということだ。
でも、そんな人が何でここに居るんだろう?
そう思っていた私は、
「近々ご婚約されるそうで。この度は、おめでとうございます」
そう言って、再び深々と頭を下げた西城部長の言葉の後で、
「早速ですが、まずは指のサイズを確認させていただきたいと思いますので、こちらのーー」
とかなんとかいう説明を聞きながら……。
いつの間にかテーブルには、キラキラと煌めく高価そうな指輪の数々が納められているジュエリーケースがところ狭しと並べられていて。
そんな非日常的な光景を前に、突然のことに驚きを隠せない私は、言葉を失ってしまった。
そんな私の頭には、ついさっき漠然と思い浮かべてしまった不安な気持ちが、まるで広い空に雨雲でも立ち込めるかのように、むくむくと膨らんでいくのだった。
不安といっても、結婚するのが嫌だとかそういうんじゃなくて、自分でも、どう説明したらいいのかも分からないような、そんな漠然としたモノなのだけれど……。
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