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それぞれの思惑~後編~
#11
しおりを挟む次に私が目覚めた頃には、もう窓の外は暗くなっていて。
いつから降り始めていたのか、強い風で煽られた雨粒が窓ガラスに勢いよく打ち付けられていた。
酷かった頭痛も、さっき目覚めた時よりは随分とマシになったような気がする。
でも、まだ熱があるのか、身体は相変わらず鉛みたいに重いままだ。
ベッドで横になったままでボーッと静かすぎる病室を見渡していると、もう居ないだろうと思っていた副社長の私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「美菜」
どうやら、副社長は、窓とは反対側のソファで仮眠を取っていたようだった。
ずっと眠っていたとはいえ、初めての入院で、きっと心細かったんだろうと思う。
だから、無意識に、熱のせいでボーっとしながらも、点滴のなされていない方の手を副社長のいる方へと伸ばしてしまっていて。
それに気付いた副社長が、ベッドの上の私のことを覗き込むようにして、
「美菜、どうした?」
そう言って、優しく声をかけながら、身を屈めてきたことに、何よりひとりぼっちじゃないことに、ホッとしてしまったんだろうと思う。
「いつもの『よしよし』してくだしゃい」
だから、ホッとしてしまった私は、泣いてしまってて。
そんな私の声は、まるで舌足らずな子供がお母さんにでも甘えているような声だった。
それでも、副社長は、病人が相手だからか、少しも嫌な素振りなんて見せないで、
「ひとりぼっちにされたと思ったのか?」
何でもお見通しだとでもいうように、優しく微笑んで、そう言ってくる。
それに、観念して素直にコクンと頷く私の涙をソーッと優しく指で拭ってくれて。
今度は、そんな小さな子供みたいな私のことをそっと優しく抱きかかえると。
「美菜は熱を出すと赤ちゃん返りするんだな?」
あにやら楽しげな声でそう言ってくると、いつものように大きな手で私の背中を優しくトントンッてしてくれている。
本当は、副社長が私が言った通りにちゃんとやってくれることが嬉しい癖に……。
それでも、副社長に『赤ちゃん』扱いされたことが癇《かん》に障った私が、泣くのも忘れて、
「赤ちゃんじゃないもん」とむくれて言えば、
「そんなにムキになって怒ると、また熱が上がるぞ?」
それでも、トントンってする手はそのままで、やっぱり楽しげにからかうように言ってくる。
「だってぇ、赤ちゃんじゃないんだもん!」
だから、むくれた私が、ますますムキになって言えば、
「あぁ……そうだな? どんな可愛い赤ちゃんでも美菜には敵わない。
素直にこうやって甘えてくる美菜が可愛すぎて……。美菜には悪いが、熱なんて下がらなければいいのにって思ってるくらいだ」
なーんてことを相変わらず楽しげに言われてしまい、あえなく撃沈させられた。
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