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それぞれの思惑~後編~

#10

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だから、私は知らなかったのだ。

私が眠ってしまったその後で、副社長と光石さんがどんなやりとりをしていたかなんて……。

「最近、眠剤を処方してくれって言ってこないと思ってたけど……。今は、眠れてるんだろ? もしかして、この子のお陰か?」

「あぁ」

「そうかぁ。なら、良かった。顔の色艶もいいみたいだし……。アレの調子もいいんだろ?」

「……いや。まだ、完全じゃない」

「えっ!?  そうなのか?  あっ、じゃぁ……そういう薬、処方してやろうか?」

「いや、遠慮しておく。副作用もあるようだし……。なるべく、そういうのは使いたくない」

「それも、この子のためか?」

「あぁ。薬だと、コントロールできなくなりそうだし。無理そうでも、途中で止《や》めてやれそうにないから。使いたくない」

「へぇ……て、ことは、この子、まだ処女?」

「お前、そーいうこと口にするな。もう一回首締めてほしいのか?」

「ハハ、ごめん、ごめん。この子のこと、そんなに大事なんだな? 」

「あぁ。嫌だって言われても、手離してやれそうにない」

「お前、そんな不安そうな表現《かお》して、何そんな柄《がら》にもないこと言ってんの?  
結婚するんだから、嫌なワケないじゃん。
あっ、この子が若いから、若い男に心変わりされたらって、心配してんのかぁ……。さっき、俺を本気で殺《あや》めようとしてたくらいだもんなぁ」

「フンッ。あれは、医者としての配慮に欠けるお前が悪いんだろ?」

「年上の俺に対するお前の配慮の方が欠けてると思うんだけど?」

「一つ年上ってだけだろ?  問題ない」

「要、この子の担当医は俺なんだぞ?  そんなこと言ってっと、退院なんてさせないからな~」

「フンッ。じゃぁ、お前の可愛い奥さんの小百合《さゆり》さんに、さっきの若い看護師と口で言えないようなことしてたって言っといてやるから。大事なアレでも綺麗に洗って、その時を待っとくといい。

さぞかし綺麗さっぱりメスで削ぎ落としてくれるだろうからなぁ」

「さーせんしたー。勘弁してください、要坊っちゃん!」

「ホルマリン、決定だな?」

「えー、勘弁してくれよー……要ぇ」

――麗しの副社長の優しい眼差しに見詰められながら、夢の世界へと旅立ってしまった私には、そんなこと知る術なんてなかったのだから。
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