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近づく距離

#12

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元気な返事を返した私を見た夏目さんは、眩しいくらいの優しい微笑みを浮かべて、琥珀色の綺麗な澄んだ瞳を、緩やかな弧を描くようにして細めると、またまた話し始めた。

「まぁ、要には昔、色々と助けてもらったりしてて、頭上がんないんだけど……。

俺、実は五つ下の妹が居てさぁ。

つっても、親同士が再婚して、お互い連れ子同士だったから、血の繋がりはなかったんだけど。

もう、六年になるかな? 

病気であっけなく逝っちゃって、もうこの世にも居ないんだけど……。

一人っ子の俺にとっては、大事な妹だったんだ。

そのせいか、美菜ちゃんと話してると、妹と居るみたいで……。

もし妹が生きてたら、こんな感じだったのかなって、思ったりもして。

そんな感じで、美菜ちゃんと居ると凄く癒されるんだよね? 

名前も一字違いで、美優《みゆ》だし。

って言っても顔とかが似てるとかじゃなくて。

どっか抜けてて、ホワンってしてて柔らかい雰囲気とか、素直なとことかが似てるせいかなぁ……。

あっ、ごめん。

……美菜ちゃんと一緒だとつい、昔のこととか色々思い出しちゃって……。

俺、また余計なこと言っちゃったね?

ごめん、今のは忘れてくれていいから。 

まぁ、だからって訳じゃないけど、何かあったら、いつでも俺が美菜ちゃんの見方になってあげるから。

要のことは、俺にドンと任せといてよ?

あ、この事は、要には内緒ね?

アイツ、俺と美菜ちゃんがあんまり仲良くなっちゃうと、除け者にされたと思って、拗ねちゃいそうだから。

俺と美菜ちゃんだけの秘密ってことで」

フロントガラスの向こうに広がる、喧騒で賑やかな街の遥か遠くの方を見詰めて、遠い昔を懐かしむように、優しい微笑みを浮かべて喋る夏目さん。

最後は、ルームミラー越しに、悪戯っぽく茶化したように、ウインクするように微笑んでくれたけれど。

……きっと、逢えなくなってしまった美優さんのことを思い浮かべているんだろうと思う。

そんな夏目さんを見ていると、なんだか切ない気持ちになってきて、胸をキュッと掴まれてしまったようで苦しくなってくる。

夏目さんは、きっと血の繋がりのない妹の美優さんのことを好きだったんじゃないだろうか……そう思ったから。

そんな風に、もう逢うことができない美優さんを懐かしんでた筈の夏目さんが、急に現実に戻って来て、振り返ってこちらに目を向けてきたから、慌てて「はい」と返したものの、他の言葉なんて出てはこなかった。
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