35 / 427
近づく距離
#11
しおりを挟む
「これ、使って?
それに、着替えなきゃいけないだろうから、マンションに送ってく。
あぁ、安心して? 商品開発部の和田部長には、適当に言って、休みにしてもらっとくから」
やっぱり明るく気遣ってくれながら、自分のスーツのジャケットを私に渡してくれる、とっても優しい夏目さん。
それを素直に受け取りながら、
「はい。ありがとうございます。
……あ、でも、仕事は、休みたくないです」
夏目さんの提案通りに甘えさせてもらおうかと、一瞬、迷ったけれど、やっぱりやめておくことにした。
夏目さんの優しさに甘えて仕事を休ませて貰ったとしても、きっと、一人で嫌なことばっかり考えちゃうだろうし。
どうしても、思い出しちゃうだろうから、今日は一人には、なりたくないからだ。
その後も、車の中では、夏目さんが、泣き続ける私が落ち着くまでの間付き合ってくれて、何も言わず、黙って待っていてくれていたお陰で。
思う存分、泣きたいだけ泣くことができてスッキリしたせいか、ようやく涙も気持ちも落ち着いてきた。
そんな私の様子に、ホッとしたように穏やかな表情で、また優しく話し始めた夏目さん。
「要とは長い付き合いだけど、あんなに怒ってるとこ、初めてみたなぁ。
アイツ、生粋のお坊ちゃんだし。
父親を小さい頃に、飛行機事故で亡くしててさ。
会長も前会長も、社長である娘の麗華さんしか子供がいなかったせいで。
孫で長男だし、アイツをそりゃあ大事に可愛がってたみたいでさぁ……。
おまけに、勉強もできて、見た目だってあぁだし。
思い通りにならないことなんて、一度だけ、だった筈なのに……。
アレと美菜ちゃんまで、思い通りにならないもんだから、苛立ってしょうがないんだよ?
だからって、女の子にあんな乱暴なことするのは、絶対いけないことだって、思うんだけど……。
俺は、アイツの気持ちも分かるから、あんまりキツくは言えないんだよね。
でも、別に、美菜ちゃんが嫌いだとかそういうことじゃないから、そんなに落ち込むことはないよ。
いずれは、アイツが自分で乗り越えなきゃいけないことだから。
美菜ちゃんが心配しなくても、あとのことは、ちゃんと俺がフォローしとくから。
美菜ちゃんは、いつも通りにしてればいいからさぁ」
そう言って、ルームミラーに映った夏目さんが、とっても優しく微笑んでくれるもんだから。
これから副社長と、一体、どんな風に接したらいいのか分からなくて、どうしたものかと思っていたけど……。
単純な私は、夏目さんのその優しい笑顔と言葉で、心が軽くなった気がして、ようやく心から笑うことができて。
いつものように、「はい!」と元気よく返すことができた。
こんな感じで、副社長のことばかり考えてしまってた私は、夏目さんが言ってた『一度だけ』という言葉が、何を意味しているのか、ましてや、夏目さんが、この時どんな想いでいたかなんて、知る由もなかった。
それに、着替えなきゃいけないだろうから、マンションに送ってく。
あぁ、安心して? 商品開発部の和田部長には、適当に言って、休みにしてもらっとくから」
やっぱり明るく気遣ってくれながら、自分のスーツのジャケットを私に渡してくれる、とっても優しい夏目さん。
それを素直に受け取りながら、
「はい。ありがとうございます。
……あ、でも、仕事は、休みたくないです」
夏目さんの提案通りに甘えさせてもらおうかと、一瞬、迷ったけれど、やっぱりやめておくことにした。
夏目さんの優しさに甘えて仕事を休ませて貰ったとしても、きっと、一人で嫌なことばっかり考えちゃうだろうし。
どうしても、思い出しちゃうだろうから、今日は一人には、なりたくないからだ。
その後も、車の中では、夏目さんが、泣き続ける私が落ち着くまでの間付き合ってくれて、何も言わず、黙って待っていてくれていたお陰で。
思う存分、泣きたいだけ泣くことができてスッキリしたせいか、ようやく涙も気持ちも落ち着いてきた。
そんな私の様子に、ホッとしたように穏やかな表情で、また優しく話し始めた夏目さん。
「要とは長い付き合いだけど、あんなに怒ってるとこ、初めてみたなぁ。
アイツ、生粋のお坊ちゃんだし。
父親を小さい頃に、飛行機事故で亡くしててさ。
会長も前会長も、社長である娘の麗華さんしか子供がいなかったせいで。
孫で長男だし、アイツをそりゃあ大事に可愛がってたみたいでさぁ……。
おまけに、勉強もできて、見た目だってあぁだし。
思い通りにならないことなんて、一度だけ、だった筈なのに……。
アレと美菜ちゃんまで、思い通りにならないもんだから、苛立ってしょうがないんだよ?
だからって、女の子にあんな乱暴なことするのは、絶対いけないことだって、思うんだけど……。
俺は、アイツの気持ちも分かるから、あんまりキツくは言えないんだよね。
でも、別に、美菜ちゃんが嫌いだとかそういうことじゃないから、そんなに落ち込むことはないよ。
いずれは、アイツが自分で乗り越えなきゃいけないことだから。
美菜ちゃんが心配しなくても、あとのことは、ちゃんと俺がフォローしとくから。
美菜ちゃんは、いつも通りにしてればいいからさぁ」
そう言って、ルームミラーに映った夏目さんが、とっても優しく微笑んでくれるもんだから。
これから副社長と、一体、どんな風に接したらいいのか分からなくて、どうしたものかと思っていたけど……。
単純な私は、夏目さんのその優しい笑顔と言葉で、心が軽くなった気がして、ようやく心から笑うことができて。
いつものように、「はい!」と元気よく返すことができた。
こんな感じで、副社長のことばかり考えてしまってた私は、夏目さんが言ってた『一度だけ』という言葉が、何を意味しているのか、ましてや、夏目さんが、この時どんな想いでいたかなんて、知る由もなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,140
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる