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ミロ✕省吾番外編

ミロ✕省吾番外編4

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 省吾はミロに困ったような笑顔を向けてくる。 
  
「悪いな。あいつら、いいヤツなんだけど遠慮がなくてさ。ミロ、疲れたか?」 
  
 見上げられ、心臓が高鳴る。ミロの方が少し身長が高いので上目遣いになり、可愛いと思ってしまった。ミロは内心を悟られないように小さく微笑み首を振った。 
  
「いや。省吾の交友関係が知れてよかったよ。よく飲みに行くのか?」 
「ああ。何かと外に連れ出してくれるんだ。いい奴らだよ。俺の実験についても話を聞いてくれて、応援してくれるんだ」 
  
 省吾は誇らしげに背筋を伸ばした。城にいた頃は自己肯定感が低かった彼の誇らしげな様子を見て、ついつい子供を見守る親のような気持ちになってしまった。省吾はそんなミロの視線から気まずそうに瞳をそらす。 
  
「とりあえず、一息つこうか。もう少ししたらサイも来てくれるから……、えっと、この近くに美味しいジュース屋さんがあるんだ。一緒に行こう」 
  
 省吾はそそくさと門へと向かう。せっかくの甘い雰囲気が気まずいものになり、ミロは残念に思った。 
  
  
  
  
 黄色、緑、青、赤……。さまざまな色のジュースが軒先に並べられた店は屋台形式で、毎日昼の間だけ広場で店を開くようだった。軒先に沢山の種類の果物が揃っており、注文を受けその場で潰してくれる。 
  
「キャロルって本当に高価なんだな。桁が二つ違って驚いたよ」 
  
 周囲に人がいると省吾はいつもの態度に戻る。体はくっつけないものの、友達の延長のような気安い雰囲気だった。 
  
「そうだな。俺も人生で一度、二度食べたことがあるかどうかだな」 
  
 ミロはスジーという、甘酸っぱい果物を指定した。省吾曰く、キウイというあちらの果物に味も形も似ているのだとか。 
 緑色のジュースを受け取り、一口飲む。砂糖により甘味が増強されているようで、疲れた体に心地よかった。省吾の方はというと、カムという果物から作られた薄い白色のジュースを購入していた。リンゴという果物の味にそっくりなのだとか。 
  
「あら、荷物運びは終わったの?」 
  
 雑談をしていると背後から話しかけられる。サイだ。彼は手に教科書が何冊か入りそうなカバンを持っていた。 
  
「おう。ついさっき。で、俺と省吾は一息ついてジュースを買いに来たんだ」 
「お疲れ様。私も買っちゃおうかしら」 
  
 サイは甘味を減らすように注文しながらも、スジージュースを頼んでいた。彼曰く、美容に良いのだとか。 
 こうして3人は省吾の部屋に戻る。サイはどこか浮かれた様子で、ミロと省吾の後ろをついてきていた。 
  
  
  
  
「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」 
  
 部屋に戻り、荷物の中に居場所を作りミロは尋ねる。サイは得意そうな顔をしてミロを見た。 
  
「知りたい?」 
  
 なんか面倒な事を言い出しそうだな。思いながらも一応ミロは頷く。サイは笑顔で持ってきたカバンから書類を取り出した。 
  
「毎年年に一度、専門家や学生、趣味での研究者までと幅広く応募出来る学会があるんだけど、省吾の研究を応募したのよ」 
  
 省吾が反応をする。気になっていたのだろう。そわそわとサイの言葉の続きを待っているようだった。 
  
「で、この度一次審査通過したってわけ! この後二次審査も合格したらめでたく学会での発表になるの!」 
「本当か!?」 
  
 省吾が嬉しそうに両手を叩く。サイは省吾と手を合わせて喜びをあらわにした。 
  
「ほら見て! 一次審査通過って書いてある! 夜遅くまで研究を頑張った甲斐があったわね!」 
  
 サイの美しく整えられた爪の先にはたしかに通過の文字が書かれていた。 
 なんでも、省吾の研究を応援したいサイが学会発表の審査申込書を始めとした手続きをし、研究概論を纏め応募に至ったのだという。この学会は東西からスポンサーが集まり、金になる研究には資金援助を惜しまない為、多くの研究者達が応募するのだという。 
  
「一次通過の合格率はたったの10%。それでもまだ50近い数の研究が残ってるんだから大したものよね」 
  
 そこから更に絞り、十二、三へと数を絞るのだという。 
 サイは美容研究関連の発表をしたことがあり、そこで医院開設のためのスポンサーを得たのだという。 
  
「すごいな、省吾。……そんな倍率のところに残れるなんて」 
  
 研究についてはよくわからないミロだったが、サイに具体的な数字を出されてようやく事の次第が飲み込めた。省吾ははにかんで首を横に振った。 
  
「サイが概要を纏めてくれたり、手続きや研究の手助けをしてくれたから。俺一人じゃ絶対に無理だった」 
「もともとのアンタの研究が良かったから私は手を貸す気になったのよ」 
  
 わしゃわしゃとサイが省吾の頭を撫でる。好き嫌いの激しいサイがこんなに省吾と仲良くなるとは思っていなかった。まるで兄弟のように二人は手を叩いて喜んでいる。 
  
「これから忙しくなるわよ。一次審査で出した研究概要を元に沢山ツッコミが入っているから、修正する形で概要を直して口頭発表に備えなきゃいけないの」 
  
 一次審査通過の知らせの下に省吾が提出したらしき論文に、大量に赤いインクで添削が書かれている用紙が出てきた。省吾は唇の端を引きつらせる。 
  
「期間は二週間しかないから、引っ越し荷物は今日一日で片付けちゃいましょ」 
  
 サイは腕まくりをしながら告げる。手伝ってくれる気らしい。 
 ジュースを飲み終わると三人は箱から荷物を取り出しそれぞれの場所へとしまっていく。省吾は大変そうだが、同時に楽しそうでもあった。 
 今日一日で彼が急に遠くに行ってしまったような気がしてミロは唇を引き結ぶ。彼の世界が広がるのはいい事なのに、やたら寂しく感じてしまう自分の心を無視出来なかった。 
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