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ミロ✕省吾番外編

ミロ✕省吾番外編3

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「ありがとう! ミロ。この一年で荷物が増えちゃったから助かるよ」 
  
 思ったよりも省吾の部屋には引っ越し用の箱が積み上がっていた。これを三階にある省吾の部屋から一階に運び、次のアパートまで引っ越し用の手押し車に詰めて持っていく。 
 現在省吾は仕事の傍ら、魔力を電力で代替する研究をしており、私物よりは実験器具が増えてしまっていたのだ。 
  
「俺からも礼を言うよ。思ったより省吾は荷物を溜め込んでいるんだな」 
  
 省吾の隣で薄紅の髪をした男が笑っている。まるで省吾の身内のような態度の男は初めて見る顔だった。 
 彼だけではない。あと二人ほど我が物顔で省吾の荷物を運んでいた。 
 省吾はミロと男の間に立つ。 
  
「悪い。紹介がまだだったよな。えっと……、右からダミアン、グリゴリー、フェリックスだ。サイの診療所のお得意さんで、俺とも仲良くしてくれているんだ」 
  
 薄紅の髪の男はダミアンというらしい。グリゴリーとフェリックスも手を止めてミロに挨拶をする。 
 ダミアンは薄紅の髪を短く切りそろえ、耳に複数のピアスをしていた。瞳は真紅で浅黒い肌から南方から来た人間だと察することが出来る。ツリ目で通った鼻筋はとっつきがたいが、笑った唇には愛嬌があり、状況が違えば好感を抱くタイプの男だった。 
 グリゴリーは新緑の髪で、黄色い瞳をしていた。一重で糸目な彼はいつも微笑んでいるように見える。フェリックスも同様に黄色い瞳をしているが、彼の髪色は鮮やかな金色をしていた。三人共サイの美容専門の医者に通っているからか、肌がきめ細かく、清潔感がある好青年だった。 
  
「そうそう。省吾とはよく遊びに行ったり夕食に連れ出してんだよ」 
  
 ダミアンが省吾の肩に手を置く。省吾も払い除けず嬉しそうに笑っていた。 
 サイはというと、蓮の食事からカフェインを抽出するべく城に向かっているので現在は不在である。その後役所に行って省吾の代わりに彼の引っ越しについての手続きを終わらせてくるらしい。 
  
 ふと、以前聞いた話が思い浮かぶ。 
 浮気している男は目を見ない。単身赴任して物理的に距離があるから浮気し放題。 
 ミロは咄嗟に奥歯を噛み締めその考えを消した。 
  これまでにも何度か考えたことではあるが、省吾の人間関係を知り、より具体的に妄想出来るようになってしまったことが嫌だった。 
 省吾がミロを手で示す。 
  
「で、こっちがミロ。親衛隊で中隊長をしているんだ。サイの幼馴染みで、……俺の恋人なんだ」 
  
 省吾が顔を赤くしてそっぽを向きながらも告げる。 
 先程までの不安が払拭し、嬉しさで心臓が高鳴った。えぇ? と三人が目を丸くする。 
  
「こいつが噂の!?」 
「マジかよ、省吾。騙されてんじゃねーの?」 
  
 ダミアンとフェリックスが交互にミロを見る。グリゴリーも興味深そうに観察をしていた。 
  
「騙してるってなんだよ」 
  
 心を隠して苦笑すると、ダミアンはいたずらげに笑って降参するように両手をあげた。 
  
「いやいや。省吾が騎士団の中隊長と付き合ってるとか言うからさ。普通中隊長っていったら三十歳は超えているだろ? で、省吾は二十二歳なんだし、十歳近く年下に手を出す奴なんてきっついだろっていつも言ってたんだよ」 
「な。てか、中隊長とか話盛ってんなって話してたんだよ」 
  
 ダミアンの言葉にフェリックスが同調する。 
 現在ミロは二十三歳であるからして、省吾とは一つしか違わない。彼の年で中隊長まで上り詰めた人間は歴史上でも類がないので、話だけ聞いて三十代と思われてもおかしくないだろう。 
 どうやら省吾は自分が元ヒジリだったとは言っていないようだった。だとしたら隠しておきたいことなのだろう。ミロはサイを通じて二人が出会ったのだという彼らの話にあわせておいた。 
 彼らは魔力のある人間のようで、荷物に重力操作の魔法をかけ軽くしてくれていたので荷物はあっという間に運び出すことが出来た。 
  
「いやぁ~、ミロさんは力持ちだねぇ」 

 四つの箱を重ねて持つミロにダミアンが話しかけてくる。 
 四つ、とはいってもダミアンの魔法で一つ分の重さ程度しかないのでミロは負担には感じていなかった。 
  
「ダミアンさん達が魔法で軽くしてくれているので」 
「やだなぁ! さん付けはやめてくれよ! 敬語もナシ! ほら、友達の恋人は俺にとってはもう友達なんだからさ! 俺もミロって呼んでいい?」 
  
 彼は肩をバンバン叩いてくる。 
 力が強く少し痛かったが、悪気がないことは伝わってきたのでミロは苦笑して頷いた。 
  
「ミロはいかにも武力中心! って感じだよなぁ。魔法は使えねぇの?」 
「ああ。俺はあまり魔力はない。せいぜい日常に困らない程度だ」 
  
 この世界の住人は基本的にちょっとした魔力は持っている。道具も人間に魔力があることを前提に作られており、蝋燭に火を灯す為の火器ですら魔力が必要な事もある。 
 だから、疲れている時などは火器が使えず、高価な火打石につい頼ってしまうのだ。 
  
「へぇ。俺達は見ての通り魔術師だ。っていっても、"ランプ"くらいのもんだけど」 
  
 ランプとは、兵士達に付き添い、夜中の間光球を呼び出し半径6メートルほどを照らすことで警備の助けとする仕事が多いことからつけられた、補助魔法をメインに使う仕事についている人間の俗称である。今回のように重力操作魔法を使って運搬を楽にしたり、以前省吾がグリフォンに襲われた時のように、機械で出来た羽に浮遊魔法を付与して兵士が空を飛べるようにしたりするのが彼らの仕事だった。 
  
 人間は平等に作られているらしく、魔力が強い人間は筋力は低く、筋力が強い人間は魔力が弱い傾向にある。魔力といっても、一般的な強さだとせいぜい夜の間中光球を呼び出して半径六メートル前後を照らすくらいのもので、更に突出した人間達がようやく攻撃魔法や回復魔法を使えるようになるのだ。 
  
 比率としては筋力のほうが強い人間の割合のほうが多く全体の70%ほどを占める。次に、28%がランプほどの魔力を持つ人間で、残り2%がサイやノアのように突出した魔法を使うことが出来る。 
 なので、国としては魔力のある人間を集め攻撃魔法を勉強させつつ、兵士たちの補助として使うという今の形式に収まったのだった。 
  
 なお、ノアのような規格外の魔力を持つ人間はめったにいない為、彼が死んでしまったらまた彼と同等の力を持つ人間が現れない限り新しいヒジリの召喚は出来ない。 
  
「ああ、ダミアン達はランプなのか。いつも助けてもらっているよ」 
「っつっても、俺達は民間のランプだから国の兵士には関係ないんだけどな!」 
  
 ははは、と豪快にダミアンは笑う。 
 最後の荷物を運び終わり、部屋の掃除は後日するとしてリアカーを動かし省吾の部屋に運び込む。 
 省吾の新居は、サイの医院から歩いて10分くらいの距離にあるアパートだった。三階建ての一階で、門を抜けて石畳を歩けばそのまま部屋の扉に直結している。横に四部屋あり、彼は一番左の角部屋だった。 
 門を全開にし、リアカーを入れると部屋の前に起き、荷物を入れていく。 
 中はベージュの壁紙に大きな窓のある、明るい部屋だった。窓の外には庭が覗いており、隣とは生け垣で隔てられている。前の住人が置いていったのであろうガーデンテーブルとガーデンチェアが二脚あった。 
「へぇ、いい部屋じゃねーか」 
「お、ここのガーデンテーブルで飲み会しようぜ!」 
  
 ダミアン、フェリックスが楽しそうに笑っている。省吾も一緒になって笑った。
 彼らと省吾が家で呑むのかと思うと、ミロは心臓が波立つのを感じた。せめてその時は自分も呼んでほしいし、自分のいない時にはしてほしくないが、彼らはきっと四人で飲む気なのだろう。 
 変に言って心の狭い男だとも思われたくない。 
 悶々としていると荷物を運び終えた彼らは窓を締め、箱の蓋を開けてから中央に小さな壺を置いた。ダミアンが魔法で出現させた小さな炎を中に入れる。すぐに中から煙が出てきたので、全員が外に出て扉を締めた。
 煙は虫が嫌がるもので、引っ越したらすぐに煙を部屋の中で炊くことで虫が近寄るのを防ぐのだった。
 
「よし、あとは一時間位置いておけば大丈夫」

 ダミアンが胸を反らす。魔力が強いとこういう時便利なんだよな、と思いながらミロは彼らの様子を眺めていた。

「ありがとう! 助かった」
「いやいや。また何か困ったことがあったら呼んでくれ」

 告げると三人は手を振って帰っていき、ミロと省吾だけが残った。 
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