あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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level 13

「全然『モデル』っぽくなくて納得できません」

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「モデルってひと口に言っても、いろんなジャンルがあるわ。
今映っているのはファッションモデル。テレビなんかでふだん目にしているのはコマーシャルモデル。
それぞれ特性が違うけど、今映ってる一流モデルのウォーキングをしっかり目に焼きつけて、自分でイメージできるようにしてみてね」

そう言って、休憩の間はビデオでファッションショーの鑑賞会。
ビデオを止めたり、ときにはスロー再生したりしながら、森田さんはモデルの仕草を細かく解説してくれた。

やはり、一流モデルはすごい!
コンパスのような長い脚でランウェイを颯爽と歩き、センターステージでは流れるようにポーズをとり、それが見事に絵になっている。
コスプレでもポージングの差が出るけど、プロのモデルはさすがにレベルが違う。
あまりの美しさとすごさに、わたしは画面から目が離せなかった。


「ファッションモデルだけでなく、どんなモデルでも基本はウォーキングよ。からだが覚えるまで、何万歩でも歩いて」

鑑賞会が終わるとレッスン再開。
スタジオの端にわたしを立たせた森田さんは、そう言ってパンパンと手を叩き、わたしを歩かせる。

「背筋をもっとピンと伸ばして。
脚は腰から出すイメージで。
膝を曲げない!
太ももをすり寄せるように、平行棒の上を歩いてると思って!
上体がフラついてる!
何度も同じこと言わせないで!!」

スタジオの端から端まで、何回も何回も、飽きるほど歩かせる。
一往復する度に、どこかしらダメ出しを受ける。
森田さんのチェックは、的確だった。
からだのラインがわかりやすい服を着ているおかげで、自分のダメさが目の前の大きな鏡に、否応なく晒け出される。
そこに映るわたしのウォーキングは、森田さんから見せられた、ステージを歩くモデルたちのビデオとどこか違っていて、自分で見ても全然『モデル』っぽくなくて、納得できるものではなかった。

「じゃあ、今度はいっしょに歩いてみましょ」

しばらくわたしのウォーキングを見ていた森田さんは、不意にわたしのとなりに並ぶと、いっしょにウォーキングをはじめた。並んで歩きながら、わたしは鏡に映る彼女を見る。

なんて綺麗なウォーキング!
身長こそ低いものの、ビデオで見た一流モデルに、まったく引けを取っていない。
腰から大きく振り出す脚は、うしろ脚までキチンと伸びていて、かっこよくて、まっすぐ伸ばした上体は、芯がブレることなく、まるでお姫さまみたいに優雅だった。
洗練されたウォーキングを見せる森田さんのとなりで、田舎娘のように野暮ったく歩くわたしが、正面や横の壁の鏡に映って、嫌でも目に入る。
その差はあまりに大きくて、わたしは恥ずかしさで余計に萎縮してしまった。

「まあ、そんなに悲観することないわ。凛子ちゃんは日舞やなぎなたで、着物の仕草が身についてるでしょ。そもそも和服と洋服じゃ、歩き方の基本が全然違うしね」
「そうなんですか?」
「和服のときは、膝の上で脚を縛って歩く訓練するくらい、膝をくっつけてすり足で歩くのが基本だけど、洋服の場合は膝を曲げずに、腰から大きく脚を振り出して、かかとから着地する感じで歩くのよ」
「そんなに違うんですね」
「そうよ。服の構造自体がまるで違うし。和服は直線的で平面的な衣装だけど、洋服は曲線的で立体的だから、立ち居振る舞いもまるっきり変わってくるのよ」
「わたし… できるでしょうか?」
「大丈夫よ。凛子ちゃんは基本的に身のこなしに品があって綺麗だから、コツさえ掴めばウォーキングもすぐにうまくなるわ」

つづく
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