あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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level 13

「セルフブランディングが大切なのですね」

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「あの… 恥ずかしいです。そんなに見られたら」
「あは。習性でつい、ね。
他人ひとのからだつきとか姿勢とかしぐさとか、観察してしまう癖があるのよ」
「観察、ですか」
「凛子ちゃんもプロモデルになったら、恥ずかしいとかそんなこと、言ってられないわよ」
「そうですか?」
「例えば、ファッションショーとかだったら、バックステージはもう、水面の下の白鳥の足状態よ。舞台から降りたモデルは走りながら服脱いで、バタバタ次の服に着替えたりしてるしね。例えそこに男の人がいても」
「えっ? 男の人がいるのですか? 更衣室に」
「まあ、そんな場所にいる男なら、女のはだかなんて、その辺のマネキン程度にしか思ってないから。
だいたい、目が回るほど忙しいときに、のんびり女体鑑賞なんてしてられないわよ」
「はあ…」
「でも、まずはじっくり、凛子ちゃんのこと見させてもらうわ」
「は、はい」
「凛子ちゃんって、姿勢がいいわね。しっかり背筋が伸びてて、脚も長くてまっすぐで、胸も張ってるし。それに、仕草も綺麗。やっぱり、なぎなたとか日本舞踊を習ったおかげ?」
「そうかもしれません。どちらも型にうるさいですから」
「ふぅん。和と洋じゃ違う部分もあるけど、凛子ちゃんならすぐに馴染めるかもね。じゃあ、着替え終わったらこちらへ来て。まずは立ち方の基本から」

そう言って森田さんは、Tシャツとショートパンツ姿のわたしを、壁に背中をつけて立たせる。

「後頭部と肩甲骨、それからお尻とかかとが壁につくように立つのが基本よ。
おなかに力を入れて。内臓を引っ張り上げるつもりで!」

わたしのおなかをぐっと押さえながら、森田さんはアドバイスをした。
ううっ。
この姿勢をずっと維持するのは、かなり腹筋がいるかも。


川島さんが言ったとおり、森田さんのレッスンは厳しかった。
最初はウォーミングアップを兼ねて、ストレッチからはじまり、バレエのバーレッスンをみっちりとおこなう。
クラシックバレエは、ふだん使わない筋肉を動かしてからだを引き締め、インナーマッスル(からだの深層部の筋肉)を強化し、ヒップアップや基礎代謝もアップするらしい。
やりすぎるとバレエ的な筋肉のつき方をして、モデル体型とは違ってくるそうだけど、適度にする分には効果的で、なによりモデルに必要なエレガントな動きが身につくそうだ。
森田さんも幼少よりずっとバレエをやってきたので、ストレッチにエクササイズを取り入れているということだった。
バレエは少しかじった程度でしかないわたしに、森田さんは基本の足のポジションからプリエ、アラベスクまで、それこそ手取り足取り、細かいところまで教えてくれた。
40分程の基礎トレーニングだったが、ゆっくりとしたエクササイズは思った以上に筋力が必要で運動量があって、わたしは汗をしたたらせながら息を乱した。

「凛子ちゃんは、どんなモデルになりたいの?」

息が上がっているわたしにタオルを渡しながら、森田さんが訊いてきた。

「それは… まだ、よくわからなくて」
「まあ、そうでしょうね」
「すみません」
「いいのよ。凛子ちゃんはモデル目指して日が浅いし、明確なビジョンを描けるようになるには、もう少し時間と経験が必要かもね。
だけど覚えといて。
大切なのは、セルフブランディングよ」
「セルッフブランディング?
「自分をどう見せるかという、戦略。モデル活動をやっていく上で大事になってくることだから、しっかり肝に銘じておいて」
「はい!」
「じゃあ、とりあえずこれを見ましょ」

そう言って森田さんは、テレビをつける。
画面にはファッションショーの様子が映し出され、ステージを歩くモデルが次から次へと出てきた。

つづく
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