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「どんどん悪い子になっているのでしょうか」
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二日間バイトを休むために、ヨシキさんはかなり根を詰めて仕事をしたらしい。
おまけに仕事のロケ撮影も重なったらしく、三日くらいはほとんど連絡がとれない時もあった。
もちろんわたしの方も、今日の出発までにやっておくことはたくさんあった。
学校の宿題だけでなく、お稽古ごとだってサボるわけにはいかないし、旅行に行かせてもらえるように、普段より家事や手伝いを頑張って、両親の機嫌もとっておかなきゃいけない。
旅行の準備もわからないことだらけで、かなり迷った。
服も結局、ひとりで渋谷や原宿に出かけて、お店を見て回った。
バーゲンが終わってすっかり秋物に入れ替わったブティックには、水着もあまり置いていなくて、探すのにひと苦労。
リゾートっぽい服もほしかったし、なにより下着は念入りに選びたかった。記念すべきはじめての旅行なんだから。
準備は大変だったけど、バカンスのことにあれこれ思いを巡らすのは、とっても楽しい。
この10日間でわたし、20回くらいは妄想したかな。
「オレ、凛子ちゃんを、悪い子にしてるのかもな」
ハンドルを握りながら、ふとヨシキさんがつぶやいた。
「どうしてですか?」
「今日も、家の人に嘘ついて出てきたんだろ?」
「え… まあ」
「ごめんな」
「ヨシキさんがあやまることないです。そんなの、気にしないで下さい」
「…ああ。その分、楽しく過ごそうな」
「はい」
明るく応えたものの、一抹のうしろめたさはくすぶっていた。
今回の旅行は、『優花さんと一泊旅行に出かける』と、母には説明していた。
『どこへ行くの?』と訊かれたときも、さすがに山口とは答えられなくて、咄嗟に『伊豆』と言ってしまった。
泊まるホテルも訊かれたけど、『優花さんに任せているから』と、適当に誤魔化し、『携帯に出られないと思うから、連絡はメールでする』と、言い訳しておいた。
もちろん、優花さんからもひとこと母に連絡を入れてもらい、話を合わせてもらった。
どんどん嘘つきになっていくわたし。
親を騙して、男の人とふたりっきりで、遠くへ旅行に出かけるなんて。
それなのに母は、『これで伊豆のおみやげを買ってきて』と、わたしが断ったのに、お小遣いをたくさんくれたのだ。
そんなものをもらってしまうと、余計に後ろめたさが募ってしまう。
「そうだ。これあげるよ」
そう言って、ヨシキさんは後部座席のビニール袋に入った箱を手にとり、わたしに差し出した。
「なんですか? これ」
「家用のおみやげだよ。
伊豆と言えばわさびだろ。天城産のわさび漬けを買っといたよ。山口じゃ伊豆のおみやげなんて手に入らないだろうから、伊豆のお店からネットで取り寄せといたんだ。包装紙もちゃんとお店のものだよ」
「え? ありがとうございます。わたし、そこまで気づきませんでした」
「どうせアリバイ工作するなら、抜かりなくやらなくちゃな。『毒を喰らわば皿まで』ってやつ」
「ヨシキさん、抜かりなさ過ぎです」
「ははは」
ヨシキさんの手回しのよさに感心しながら、わたしは天城産のわさび漬けをバッグに仕舞う。
もちろん、泊まり旅行に行くと決めてからも、この10日間、わたしなりに葛藤はあった。
優花さんの言葉を借りなくても、わたしはまだ17歳。高校生で受験生だ。
それなのに、出会って半月も経たない人と初体験をして、ふたりだけでないしょの旅行をするなんて、成績優秀で品行方正と思われていたわたしからすれば、考えられないような大胆な行動だ。
罪悪感と、背徳感。
『変わりたい』とは確かに思っていたけど、本当にこれでいいのだろうか?
『今さら迷うな凛子! もう賽は振られたんだ』
そう。
それでもわたしは、ヨシキさんのことが好きだ。
彼といっしょに、どこまでもいきたい。
どんな障害も、ふたりを引き裂くことはできない。
どんなに逡巡しても、いつも最後はそこに落ち着く。
わたしはヨシキさんを信じて、着いていくしかない!
つづく
おまけに仕事のロケ撮影も重なったらしく、三日くらいはほとんど連絡がとれない時もあった。
もちろんわたしの方も、今日の出発までにやっておくことはたくさんあった。
学校の宿題だけでなく、お稽古ごとだってサボるわけにはいかないし、旅行に行かせてもらえるように、普段より家事や手伝いを頑張って、両親の機嫌もとっておかなきゃいけない。
旅行の準備もわからないことだらけで、かなり迷った。
服も結局、ひとりで渋谷や原宿に出かけて、お店を見て回った。
バーゲンが終わってすっかり秋物に入れ替わったブティックには、水着もあまり置いていなくて、探すのにひと苦労。
リゾートっぽい服もほしかったし、なにより下着は念入りに選びたかった。記念すべきはじめての旅行なんだから。
準備は大変だったけど、バカンスのことにあれこれ思いを巡らすのは、とっても楽しい。
この10日間でわたし、20回くらいは妄想したかな。
「オレ、凛子ちゃんを、悪い子にしてるのかもな」
ハンドルを握りながら、ふとヨシキさんがつぶやいた。
「どうしてですか?」
「今日も、家の人に嘘ついて出てきたんだろ?」
「え… まあ」
「ごめんな」
「ヨシキさんがあやまることないです。そんなの、気にしないで下さい」
「…ああ。その分、楽しく過ごそうな」
「はい」
明るく応えたものの、一抹のうしろめたさはくすぶっていた。
今回の旅行は、『優花さんと一泊旅行に出かける』と、母には説明していた。
『どこへ行くの?』と訊かれたときも、さすがに山口とは答えられなくて、咄嗟に『伊豆』と言ってしまった。
泊まるホテルも訊かれたけど、『優花さんに任せているから』と、適当に誤魔化し、『携帯に出られないと思うから、連絡はメールでする』と、言い訳しておいた。
もちろん、優花さんからもひとこと母に連絡を入れてもらい、話を合わせてもらった。
どんどん嘘つきになっていくわたし。
親を騙して、男の人とふたりっきりで、遠くへ旅行に出かけるなんて。
それなのに母は、『これで伊豆のおみやげを買ってきて』と、わたしが断ったのに、お小遣いをたくさんくれたのだ。
そんなものをもらってしまうと、余計に後ろめたさが募ってしまう。
「そうだ。これあげるよ」
そう言って、ヨシキさんは後部座席のビニール袋に入った箱を手にとり、わたしに差し出した。
「なんですか? これ」
「家用のおみやげだよ。
伊豆と言えばわさびだろ。天城産のわさび漬けを買っといたよ。山口じゃ伊豆のおみやげなんて手に入らないだろうから、伊豆のお店からネットで取り寄せといたんだ。包装紙もちゃんとお店のものだよ」
「え? ありがとうございます。わたし、そこまで気づきませんでした」
「どうせアリバイ工作するなら、抜かりなくやらなくちゃな。『毒を喰らわば皿まで』ってやつ」
「ヨシキさん、抜かりなさ過ぎです」
「ははは」
ヨシキさんの手回しのよさに感心しながら、わたしは天城産のわさび漬けをバッグに仕舞う。
もちろん、泊まり旅行に行くと決めてからも、この10日間、わたしなりに葛藤はあった。
優花さんの言葉を借りなくても、わたしはまだ17歳。高校生で受験生だ。
それなのに、出会って半月も経たない人と初体験をして、ふたりだけでないしょの旅行をするなんて、成績優秀で品行方正と思われていたわたしからすれば、考えられないような大胆な行動だ。
罪悪感と、背徳感。
『変わりたい』とは確かに思っていたけど、本当にこれでいいのだろうか?
『今さら迷うな凛子! もう賽は振られたんだ』
そう。
それでもわたしは、ヨシキさんのことが好きだ。
彼といっしょに、どこまでもいきたい。
どんな障害も、ふたりを引き裂くことはできない。
どんなに逡巡しても、いつも最後はそこに落ち着く。
わたしはヨシキさんを信じて、着いていくしかない!
つづく
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