66 / 259
level 8
「ふたりいっしょでなら、変われると思います」
しおりを挟む
「昨日は本当に嬉しかったです。ヨシキさんとキス… とかできて。
はじめてのことで、怖じ気づいてしまったけど、わたしもう、逃げたりしませんから」
「…」
「だから、『似合わない』なんて、わたしのこと否定するの、やめて下さい」
「…」
「ヨシキさんから否定されるのが、いちばん辛いです」
「…」
「…」
しばしの沈黙。
そのあとヨシキさんは、わたしをまっすぐ見つめ、おもむろに口を開いた。
「凛子ちゃんの言うとおりかもしれない」
「え?」
「やっぱりオレは、卑怯でずるい人間だ」
「どうしたんですか?」
「自分を誤魔化そうとしてた」
「そんな…」
「ほんとのことを話すよ」
そう言ったヨシキさんは、こちらへ体勢を向き直し、まっすぐわたしを見つめて言った。
「昨日の夜は、ほんとに辛かったんだ」
「え?」
「凛子ちゃんと別れた瞬間から、もう君に会いたくて」
「…」
「ひと晩中ずっと、片時も凛子ちゃんのことが頭から離れなくて、眠れなくて。ベッドの上で悶々としてたんだよ」
「…ヨシキさんが、ですか?」
「そうだよ。それくらいいっぱつで、凛子ちゃんの虜になっちまったんだ。こんなの、初めてのことだった」
「…それは、すごく嬉しいですけど。ではどうして、あんなことを」
「怖かったんだよ」
「怖い?」
「他の人間が自分の心のなかに入ってきて、それに支配されるのが」
「え?」
「どうしていいかわからなくなった。
オレ、本気で人を愛したことなんて、今までほとんどなかったから」
「ヨシキさん」
「怖気づいたんだよ。凛子ちゃんにはまり込むことに。
まだ引き返せるうちに、離れた方が、今までのオレでいられるって」
「…」
「『人間関係』とか、『住んでる世界が違う』とか、そんなのただの口実だった。君から逃げるための」
「…」
「ったく、締まらない話だよな。
『変わろうよ。オレなら君を変えられる』って、凛子ちゃんには言っときながら、いざ自分が変えられそうになったら、ビビっちまうなんて。
こんなんじゃ、凛子ちゃんとつきあう資格なんか、ない」
意外だった。
女性慣れしていて、気軽に恋もこなしているように見えるヨシキさんから、こんな言葉を聞くなんて。
それほどまでに、わたしのことを…
そう思い至ったとたん、胸の奥から熱いものが込み上げてきて、つい、そんな言葉が口から溢れ出してきた。
「…ふたりなら。ふたりいっしょでなら、変われると思います」
「凛子ちゃん…」
「わたしだって、昨日は怖気づきました。はじめてのことばかりで、ドンドン別の自分になっていくみたいで。
でも、ヨシキさんもいっしょに変わってくれるというのなら、わたしも勇気が出せると思います」
「…」
「わたしといっしょに、変わってくれませんか」
そう言ったわたしの瞳を、ヨシキさんは長い間、瞬きもせずにのぞきこんでいた。
が、ふっと緊張が切れたかのように表情をゆるめ、念を押すかのようにささやいた。
「…後悔しない?」
「しません。絶対」
「オレも絶対、後悔しないし、させない」
「ヨシキさん」
「オレ、恋人は作らない主義だったんだ。昨日までは」
「…」
「もう恋はしなくていいと思ってた。でも、凛子ちゃんに出会って、その気持ちが揺らいだ」
「…」
「たった今、オレはその主義を棄てる」
「…ヨシキさん」
「オレは凛子ちゃんだけが、好きだ」
「…本当ですか?」
「この言葉を、凛子ちゃんにはずっと覚えておいてほしい」
「え?」
「これから多分、いろんなことがあると思うから」
「いろんなこと?」
「いろんなやつからいろんな話を耳にして、オレのこと、信じられなくなることもあるかもしれない。
だけどそのときは、今言ったことを思い出してくれ。
オレは凛子ちゃんただひとりを、愛しているんだと」
つづく
はじめてのことで、怖じ気づいてしまったけど、わたしもう、逃げたりしませんから」
「…」
「だから、『似合わない』なんて、わたしのこと否定するの、やめて下さい」
「…」
「ヨシキさんから否定されるのが、いちばん辛いです」
「…」
「…」
しばしの沈黙。
そのあとヨシキさんは、わたしをまっすぐ見つめ、おもむろに口を開いた。
「凛子ちゃんの言うとおりかもしれない」
「え?」
「やっぱりオレは、卑怯でずるい人間だ」
「どうしたんですか?」
「自分を誤魔化そうとしてた」
「そんな…」
「ほんとのことを話すよ」
そう言ったヨシキさんは、こちらへ体勢を向き直し、まっすぐわたしを見つめて言った。
「昨日の夜は、ほんとに辛かったんだ」
「え?」
「凛子ちゃんと別れた瞬間から、もう君に会いたくて」
「…」
「ひと晩中ずっと、片時も凛子ちゃんのことが頭から離れなくて、眠れなくて。ベッドの上で悶々としてたんだよ」
「…ヨシキさんが、ですか?」
「そうだよ。それくらいいっぱつで、凛子ちゃんの虜になっちまったんだ。こんなの、初めてのことだった」
「…それは、すごく嬉しいですけど。ではどうして、あんなことを」
「怖かったんだよ」
「怖い?」
「他の人間が自分の心のなかに入ってきて、それに支配されるのが」
「え?」
「どうしていいかわからなくなった。
オレ、本気で人を愛したことなんて、今までほとんどなかったから」
「ヨシキさん」
「怖気づいたんだよ。凛子ちゃんにはまり込むことに。
まだ引き返せるうちに、離れた方が、今までのオレでいられるって」
「…」
「『人間関係』とか、『住んでる世界が違う』とか、そんなのただの口実だった。君から逃げるための」
「…」
「ったく、締まらない話だよな。
『変わろうよ。オレなら君を変えられる』って、凛子ちゃんには言っときながら、いざ自分が変えられそうになったら、ビビっちまうなんて。
こんなんじゃ、凛子ちゃんとつきあう資格なんか、ない」
意外だった。
女性慣れしていて、気軽に恋もこなしているように見えるヨシキさんから、こんな言葉を聞くなんて。
それほどまでに、わたしのことを…
そう思い至ったとたん、胸の奥から熱いものが込み上げてきて、つい、そんな言葉が口から溢れ出してきた。
「…ふたりなら。ふたりいっしょでなら、変われると思います」
「凛子ちゃん…」
「わたしだって、昨日は怖気づきました。はじめてのことばかりで、ドンドン別の自分になっていくみたいで。
でも、ヨシキさんもいっしょに変わってくれるというのなら、わたしも勇気が出せると思います」
「…」
「わたしといっしょに、変わってくれませんか」
そう言ったわたしの瞳を、ヨシキさんは長い間、瞬きもせずにのぞきこんでいた。
が、ふっと緊張が切れたかのように表情をゆるめ、念を押すかのようにささやいた。
「…後悔しない?」
「しません。絶対」
「オレも絶対、後悔しないし、させない」
「ヨシキさん」
「オレ、恋人は作らない主義だったんだ。昨日までは」
「…」
「もう恋はしなくていいと思ってた。でも、凛子ちゃんに出会って、その気持ちが揺らいだ」
「…」
「たった今、オレはその主義を棄てる」
「…ヨシキさん」
「オレは凛子ちゃんだけが、好きだ」
「…本当ですか?」
「この言葉を、凛子ちゃんにはずっと覚えておいてほしい」
「え?」
「これから多分、いろんなことがあると思うから」
「いろんなこと?」
「いろんなやつからいろんな話を耳にして、オレのこと、信じられなくなることもあるかもしれない。
だけどそのときは、今言ったことを思い出してくれ。
オレは凛子ちゃんただひとりを、愛しているんだと」
つづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる