あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳

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level 6

「わたしだけを見てもらわないと気がすみません」

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「へぇ~。じゃあ凛子ちゃんは、正真正銘、島津のお姫様なんだ」
「そのお姫様というの、やめて下さい。恥ずかしいです」
「でも、はじめてイベント会場で見かけたときから、凛子ちゃんには他のレイヤーとは違う、毅然とした品格と雰囲気を感じたもんな。納得だよ」
「近寄りがたい… みたいな感じではなかったですか?
わたし、人から『とっつきにくい』とか『無愛想』だと思われているし、親も旧家のプライドばかり高くて、行儀作法にうるさいから」
「確かに、イベントではじめて見たときから、凛子ちゃんは『高嶺の花』って感じだったな」
「そんなことはないつもりですけど… あのときも、ヨシキさんが写真撮ってくれるまで、だれも声をかけてくれなかったんです」
「まあ、凛子ちゃんみたいなお嬢様タイプに声かけるのは、ふつうのカメコじゃハードル高過ぎるかもな」
「ヨシキさんは、ふつうではないんですか?」
「ははは。オレはツンデレ美人お嬢萌えだから」
「え~? わたし、ツンデレじゃないですよ。むしろ、それに憧れているくらいだし」
「おっ。『美人お嬢』は否定しないのな」
「そんな…」
「ははは」

こうしてなんでもないような会話をしているうちに、わたしの緊張もだんだん解けてくる。
低いけど張りのあるヨシキさんの声が、耳に心地いい。
オーダーしてくれた料理もとっても美味しくて、気分を盛り上げてくれる。
海の幸のパエリアは、新鮮なエビやムール貝などの具がたくさんで、とっても豪華で美味しいし、いっしょにオーダーしてくれたサラダの生ハムは、燻製の豊潤な香りが鼻腔をくすぐり、舌の上でふんわりとろけていくみたい。
お薦めのイベリコ豚のグリルは、噛み締めるたびに、濃厚な肉の旨味が口のなかいっぱいに広がって、恍惚としてしまう。
室内も、会話を愉しむにはちょうどいい仄暗さ。
時間も忘れて、わたしはヨシキさんとの会話にのめり込んでいった。

だけど…

ほんとうに訊きたかったことは、とうとう最後まで訊けなかった。

『ヨシキさんは今、恋人いないんですか?』
『ヨシキさんとわたしはもう、つきあっているんですか?』

それが今は、一番知りたいことなのに。
好きな人のことは、なんでも知りたいはずなのに…

『特定のレイヤーさんとカレカノになったりとかしないの?』

前回のイベント帰りにみんなでドライブしたとき、訊ねてきた恋子さんに、『それはNG』だと、ヨシキさんは答えた。

ヨシキさんは、モデルを恋人にはしない主義。
なのに、キスをしてきた。

『エロ大魔王のヨシキさんが、モデルの女の子に手ぇ出さないなんて、ありえない』

冗談とも本気ともつかない恋子さんの言葉を、ヨシキさんは否定しなかった。
こんなに素敵で才能もある人なのに、恋人がいないというのは、考えにくい。
わたしを好きだというヨシキさんの言葉に、嘘はないのかもしれないけど、それはただの友達程度の感覚で、恋とは違うものかもしれない。
こうしている今も、ヨシキさんにはちゃんとしたカノジョがいて、わたしはただ、遊ばれているだけなのかもしれない。
キスをしたのも、ただの気まぐれ。
もしかして、優花さんの元カレのように、二股も三股もかけているのかもしれない。

本当のことを知りたい。
でも、訊くのは怖い。

『遊びだよ』
なんて言われたら、わたしはどうするだろう?

悲しいかな。
いや。

むしろ怒りのあまり、平手打ちでもしてしまうかも。
それくらいわたしは、勝ち気で負けず嫌いなのだ。
わたしだけを見てもらわないと、気が済まないほどに。

つづく
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