虎の威を狩れ!木常! 〜虎の子狩りで修練を積み、世界を救え〜の巻

真昼間イル

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No.16 激戦の行先

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『フーーッ!フーーッ‥‥!』
猫耳少女の腰が浮くと、ショートパンツのウエストから2本の尻尾が飛び出し、怪しく揺れ始めた。

 《バシューーーーン!!》
崩壊音が鳴ったと思うと、四方八方からトンネル内の地壁を蹴る音が響き始めた。

「 hey!hey!真っ向勝負じゃないの!?」

(彼奴、体術以外は使えないと見た。その差を圧倒的な体技で補う算段であろう!)

「スピードは相手が上‥‥どうしたものか」

(思い出せ、細かい妖術の積み重ねだ。隙が無ければ作るしか無かろう!)

   「そう言うだろうと、思ったよ!」
 京子は右手で印を切ると、高々と手を上げた。

   《妖術:飛石蓮華:ヒジャクレンゲ》

《‥‥ビシッ!ビシッビシッ!!》
 トンネル内に崩れ落ちていた数多の小石が、京子の腕振りと合わせて宙を舞うと、猫耳少女の高速移動と交錯した。

  ‥‥そこか!!
京子の斬撃が捕らえたのは、猫耳少女の残影だった。

 革ジャンの盾を振り上げると、間一髪。猫耳少女の飛び蹴りを防いだ。‥‥と思ったが、蹴りの威力が凄まじく、京子はトンネルの外まで蹴り飛ばされた。

 「ゲホッ‥‥」
 なんつう馬鹿力だ、骨は無事か?
 胸元を叩いたが特に鈍痛は無い。

 猫耳少女が2本の尻尾を揺らしながら、トンネルの入り口に姿を現した。飛石が、ダメージを与えたようだ。街路灯が全身アザだらけの姿を照らし出した。

『‥‥グルルルゥ‥‥』
2本の尻尾をゆっくり振りながら、再びクラウチングスタートの構えをとった。

「この、おてんば娘め!!」
京子は右手で印を結ぶと、ふっと息を吹いた。

     《妖術:肩打》

 『!?』
猫耳少女は突然の肩叩きに、思わず振り返ったが、背後には誰もいなかった。

   あと10歩‥‥‥
右手で印を結ぶと、親指を噛んだ。
    
     《妖術:地走》

 『ウニャ!?』
 猫耳少女の足裏と接する地面が、命を得たように畝り出した。体勢を崩すと、堪らず尻もちをついた。

   あと5歩‥‥‥
右手で印を結ぶと、妖力付与を解いた革ジャンを右手に持ち替えた。
    
     《妖術:塗壁絵》

 猫耳少女は瞬時に立ち上がると、迫り来る京子を目の当たりにした。

 『ウンッ、ニャアアアアアーー!』
 軽やかなステップでワン・ツーパンチを京子の顔面に叩きこんだ。‥‥つもりだったが、叩いたのは京子の姿に化けた革ジャンだった。

     《妖術:妖力付与》

 フレキシブルに形状を変えた革ジャンが猫耳少女の両手に絡みつくと、手錠のように自由を奪った。

   0歩‥‥ここで‥‥!
京子は素早く両手で印を切ると、大きく息を吸い込んだ。

   躱せるもんなら‥‥「躱してみなァ!!」
猫耳少女の懐に潜り込み、両手を胸元に押し当てた。

    《妖術:塞隻衝:サイセキショウ》
 グゴゴゴッ!ゴワーーン!

 京子の両手から放たれた衝撃波が、猫耳少女を突き飛ばすと、再びトンネル内に突風が吹き抜けていった。

《ヒュ~‥‥ヒュルリ~~~‥‥》
トンネル内をそよ風が通る。

(京子め、防御の衝撃術を攻撃に使いよったか)
玄次郎は自慢げに倒れ込む猫耳少女に近づくと、頭を前足で突いた。

『‥‥ニャ~‥‥』

(ふむ、完全にノびておるな)

「何とかなったみたいね。さて、どうしたものか」
 足取り重たそうに京子がやってきた。

(どうするも何も、トドメを刺さぬのか?)

「この子、虎の子じゃないよ。この時代に生まれた妖だと思う」

 京子はリュックからガラケーを取り出した。
猫耳少女が虎の子図鑑に登録されていないのを再確認すると、トンネルの壁に寄りかかった。

「勾玉が手に入らないなら、殺ったってしょうがないでしょ?」

(此奴を生かしておけば、また火の粉となり、襲いかかって来るやもしれんぞ?)

「そん時は、また返り討ちにしてあげるよ。戦ってて思ったんだ。こいつ、悪いコじゃないよ」

(甘いのぅ。後々、おぬしの首を絞めることにならねば良いがな‥‥)

 確かに、玄次郎の言いたい事はわかるけど‥‥
「って、おいおい嘘でしょ!?」

 戦闘不能だったはずの猫耳少女が、上体を起こしていた。
『木常‥‥マモル‥‥』

 その目は己の身体へのダメージを度外視し、木常を倒す事だけを目的とした、殺戮マシーンの目だった。

「これは笑えないね、もう動けないよ‥‥」

『ヴ‥‥ッ!ウンニャーーー!!』
猫耳少女が立ち上がろうとした時、馬鹿笑いが響き渡った。

(ハハッ、ガッハッハ!ガーーハッッハー!)
玄次郎は、妖力剛体で硬化した尻尾を、猫耳少女の顔面に叩きつけた。

『ギッ!!‥‥ニャ』
再び猫耳少女は倒れ込むと”白い針”が額から抜落ちた。それは人間の小指ほどの長さだ。

(何だこれは?妖気を暴走させる類の物か?)
玄次郎は、抜け落ちた白い針の匂いを嗅いだ。

 針は形を崩し、輝きを失うと、塵となってトンネル内を吹き抜けていった。

(暗躍している者がおるようだな‥‥)

「相手はカグヤ?まぁ、これくらい想定内でしょ」

(虎の子以外にも、警戒せねばならぬな)

京子は深く頷くと、革ジャンを羽織った。
「バイバイ、子猫ちゃん。次はドーピング無しでお願いしたいね」

2人は、まだ暗いトンネルの中を進んだ。

‥‥‥
‥‥‥‥

チュンチュンチュン♪
明け方のトンネル内に、小鳥の鳴き声が、けたたましく響いていた。

『う~ん‥‥うるさいにゃ‥‥』
猫耳少女は目を覚ました。

 そうか、ウチ‥‥負けたんだ。
 でも生きてる。何で生きてるんだろ‥‥
京子との戦いで受けたはずの傷は、綺麗さっぱり消えていた。

「チュンチュンチュン♪」

『うにゃ!?』

 小鳥の鳴き声かと思いきや、うさ耳女が口を尖らせ、目の前で鳴いていた。
「いや~‥‥先刻の戦い、良かったですよ~♪あなたを題材に、一つ論文が書けそうです♪」

『‥‥途中の記憶が無いにゃ、君の仕業だにゃ?』

「はい~♪どうでしたか?存分に力を解放した気分は~♪邪魔者がいなければ、きっと勝てましたよ~♪」

『木常、凄く強かったにゃ‥‥それに‥‥』

「それにぃ?何か”気付き”がありましたか~♪」

 猫耳少女は起き上がると、身震いした。
『今のままじゃ‥‥マモルを助けることはできにゃいのはわかったにゃ』

「では、木常を追いますか♪」

『追ったところで、ウチは木常に敵わないにゃ』

 自信を無くしてしまったようですね‥‥♪
 時期尚早ですが、プランを変えてみますか♪

うさ耳女は俯いた猫耳少女を見つめると、閃いた様に手を打った。

「ちょっと相談してみましょっか♪」
うさ耳女は頭についた耳に手を当てると、トンネル内を右往左往し始めた。

   テンチク♪ブンブン♪テンチクブーン♪

「お待たせしました♪2つ選択肢がございます♪」

・木常を倒す為、強力な武器を手に入れる
・木常を倒す為、強力な味方を手に入れる

「いかがでしょう♪私は全力であなたをフォローしますよ♪」

『‥‥ウチは味方が欲しいにゃ、木常と一緒にいたキツネのように、強い味方が』

「OKいぃーー♪では、あなたの師となり、味方となる者を紹介しましょう♪ただ、あなたがその者に認められるかは、保証できませんよ?」

『認められなかったら、どうなるにゃ?』

「そうですね~♪きっと、”殺される”でしょう♪」

『‥‥はは、それでも良いにゃ。ウチはマモルを助ける為なら、いつでも死ねるにゃ!!』

  《パチパチパチ‥‥🎶》
 乾いた拍手が、トンネル内に響いた。

「これで駒が一つ、手に入りました♪」
うさ耳女は指で涙を拭った。

『コマ?何だにゃ?』

「気にしないで下さい♪コホン、えー‥‥あーあー」
 うさ耳女は咳払いをすると、姿勢を正し、ソワソワし始めた。猫耳少女はその様子を、首を傾げながら見ている。

うさ耳女は指令を下すように指差した。
「魔猫:ネコマタ‥‥虎の威を借り、木常を打ち倒すのです♪その暁には【想い人の命】を救って差し上げましょう♪」

『ウチの名前は”ペロ”だにゃ。大好きなマモルの命を、救ってみせるにゃ!!』
 ペロのワンツーパンチが空を打った。
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