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No.15 戦う理由
しおりを挟むこうなったら、やられる前に叩くしかない!!
「ふっふ‥‥ハァッ!アーーッハッハーー!!」
(京子!妖力剛体はそこまでだ!)
玄次郎は一定の距離を保つと、勇しく吠えた。
『キ、ぎ、木常ーー!ギニャーァーー!!』
にゃ、にゃんだ?身体が言うこと効かないにゃ
猫耳少女は、まるでもう一人の自分が現れ、身体の自由を奪いつつある事に気がついた。
意識の向こう側から自分を見ている感覚だにゃ。
猫耳少女が身体を制御すべく、意識を集中していると、過去の記憶が突然フラッシュバックした。
‥‥‥
‥‥‥‥
マモル来てくれないにゃ~‥‥
ウチの事忘れちゃったのかにゃ~‥‥
どれだけ時が過ぎただろうか。
見慣れていた空き地には、知らぬ間に人々が忙しそうに歩き回り、重機が往来していた。
「まさかと思うとったけど、まだおったんかお前」
うわ‥‥意地悪な男だにゃ
何か大きくなってるにゃ~‥‥
かつての意地悪な男子は、スーツに身を包み、髪を固め、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「ここにはもう居られへんぞ?」
男は、足が不自由な野良猫を抱き抱えると、何処かへ移動しようとした。
離せ、離せにゃーー!
「お、おいおい!暴れんな、もう乱暴したりせーへんから、安心しろや~‥‥」
意地悪な男子はすっかり大人になっていた。
マンションデベロッパーの営業マン、今日は新築現場の下見に来ていたのだ。
(マモル、助けてにゃーー!)
「!?マモル‥‥お前、今マモル言うたか?」
営業マンは、不思議と野良猫の言葉が分かる気がした。辺りを見回すと、腕時計を見た。
「ちっ‥‥‥!」
脱いだジャケットで野良猫を包みこむと、営業マンは走り出した。
もう、駄目にゃ‥‥
また意地悪されるにゃ~
暫くの間、営業マンが地を蹴る振動を身体で感じていた。喧騒を離れたのか、徐々に辺りが静かになった気がする。やがて振動が止まると、暗闇から眩しい光が差し込んだ。
‥‥ここはどこにゃ?
目が慣れてくると、ベッドに横になっているマモルが視界に入った。
「ペロ‥‥?ペロやないか」
(マモル‥‥?マモル!!)
「こいつ、まだあの空き地でお前のこと待っとったみたいやで?」
マモルは目を赤くすると、営業マンの腕の中から猫を引き寄せ、抱きしめた。
「ごめんな、ごめんなペロ、おれ‥‥」
この匂い、マモルに違いないにゃ~!
病室のドアが開くと、看護師が入ってきた。
「木村さーん、体温測りますよー‥‥って、ちょっと!!それは困ります!院内に動物は‥‥」
「あ~、すんません!!少しだけ目つむってもらえませんか?こいつら、久しぶり再会なんですわ」
営業マンは毛だらけのジャケットを丸めると膝の上に置いた。
看護師はマモルの胸の上で丸くなっている野良猫を見つめると、小さく溜息を吐いた。
「15分後にまた来ます」
そう言うと病室のドアを閉めた。すぐさま営業マンとマモルは顔を見合わせると、声を上げて笑った。
‥‥‥‥
「マモル、体調はどうや?痛むか?」
「まぁな。昨日、自宅療養の許可が出たで」
「それって‥‥」
「もう長くないみたいや。まさかペロより先に死んでまうなんてな、はっはっは!」
マモルの空元気を横目に、営業マンはハンカチで目を拭っていた。野良猫は対照的な2人の様子を伺っていた。
(マモル、死んじゃうの?病気‥‥?)
‥‥‥‥
夕焼けが病室に差し込んだ頃、ペロは営業マンに抱かれながら道端を歩いていた。
「マモルの奴、嬉しそうだったな。さて、これからお前をどうしよか~」
(マモルのとこに帰してにゃー!離せにゃー!)
「こいつ、足悪いくせに元気やなぁー!マモルに会えて良かったな‥‥もう最後かもしれへんけど」
営業マンは声を震わせると、猫の頭を撫でた。
空き地の隅に戻ってくると、営業マンは猫を茂みの上に置いた。
「ここはもう居られへん。おれが居場所探したるから、もうちょい待っときや」
そう言い残すと、営業マンはその場を去った。
もうここに居られない?
(嫌だにゃ~~‥‥)
「ママー!赤ちゃんが泣いてるよー!」
「ちゃうちゃう、これは猫ちゃんの声や、早よ帰って、ご飯にしよか!今夜はカレーやで?」
「やったぁー!僕カレーめっちゃ好き!」
通りすがりの親子の談笑が羨ましく思えた。
その夜、ペロの頭の中から、マモルの憔悴した笑顔が離れなかった。
マモル、死んじゃうの??
(そんなの、嫌だ‥‥嫌だにゃ~~~)
静まり返った深夜2時、怪しげな影が空き地で足を止めた。
「あら~、猫ちゃん♪あなたいいですね~♪素質が有ります♪」
(何だ?変なのが来たにゃ~‥)
「怪しい者ではございませんよ♪」
頭にうさ耳を付けた女が近づいてきた。ピチピチのスーツ姿に派手なネクタイが首元に巻きついている。
(ウチの言葉がわかるのかにゃ?)
「えぇー♪わかりますとも♪あなた、何かお困りなんでしょう??」
うさ耳女は銀髪の長い髪を指でなぞった。
(助けたい人がいるにゃ‥‥でも、ウチにはそんな力がないにゃ)
「なんて健気なんでしょう♪そんなあなたには、コレを差し上げます♪」
差し出された”何か”は、かつて目にした、茶色い噛みごたえのある食べ物に似ていた。
くんくんっ‥‥いい匂いだにゃ。
丁度お腹も空いていたせいか、気がつくとペロはその食べ物に口を付けていた。
(これ、マモルがくれたのと似てるにゃ!)
ペロは黙々と茶色い”何か“を食べ進めた。
「チキン風味です♪塩分は控えめですよ🎶」
ゔっ‥‥身体が熱いにゃ‥‥
「あなたは”化猫”で一生を終えるには惜しい逸材です♪私が開発した【血無名】で、魔猫:ネコマタへと転生して差し上げましょう♪」
何だか、目が回るにゃ‥‥
体調の変化に気がつくと、顔を上げた。
うさ耳女の姿がボヤけて見えている。
(駄目にゃ、何か、何かが駄目にゃぁーーー!!)
世界がグルグルと高速回転を始めたように思えた。
ペロの身体が人型へと変化すると、おまけと言わんばかりに、頭には猫耳、お尻からは尻尾が2本生えた。
『にゃんだこりゃーー!?』
すっかり少女の姿へと変貌を遂げたペロは、自分の身体を確かめるように触った。
へ~‥‥♪意識があるようですね‥‥♪
うさ耳女はつぶらな瞳を見開き、ペロの様子を珍しそうに観察していた。
「コホンッ、転生成功ですね~♪これを着てください♪そんな姿で歩き回っていたら、悪いオジサンに捕まってしまいますからね♪」
ペロはひと繋ぎのタイツのような生地に身を包むと、生地は自然と分離し、靴・ショートパンツ・パーカーへと身体の部位に合わせて変化した。
『にゃんだこりゃー!‥‥君は一体、何者だにゃ?』
「私は【宇宙人】です♪こ~の~ほ~し~の~生物の研究をしています♪」
うさ耳女は手を喉に当て、声を震わせながら答えた。
『ウチュージンさん、別にウチは人間になりたかった訳じゃないにゃ』
ペロにとって【宇宙人】はウチュージンという名前に捉えられたようだ。
「”助けたい人がいる”でしたね♪【ある人物を殺す】ことが出来たら”その願い”叶えてあげましょう♪」
『殺す?はっは。マモルを助ける代わりに、他の人間の命を奪うって事かにゃ?』
「そうです♪あなたはかつて、人々から崇められた魔猫:ネコマタの力を手に入れました♪今や、大の男が束になっても敵わないほど、あなたは強くなっています♪」
『そんことがあるのかにゃ?』
でもこの湧き上がる力と、自由になった足‥‥‥
このウチュージンという人を信じてみるかにゃ。
‥‥‥
‥‥‥‥
回想を終えると、対峙している京子の姿が微かに垣間見れた。
この身体、全然言うことかないにゃ。
まるで他猫の身体になってしまったようだにゃ‥‥
もう、駄目‥‥眠いにゃ‥‥
虚な目を閉じると、再び血走った眼が開かれた。
『マ、マモルゥーー!ウチが助けるニャーー!!』
我を見失った様に頭をかきむしると、クラウチングスタートの構えをとった。
(京子!備えよ!!)
「あーー!もう、わかってるよ!!」
《妖術:妖力付与》
革ジャンを脱ぐと、盾のように構えた。
革ジャンは妖気を吸収すると、たちまち硬くなり、鋼鉄の持ち盾へと姿を変えた。
《妖術:妖力武装》
京子の右腕が一回り大きくなると、強靭な爪が飛び出した。 「OK。おいでよ、子猫ちゃん!」
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