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第ニ期 41話~80話
第五十一話 ロマラン王国に迫る危機
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王都に戻った俺は城の会議室に主要メンバーを集め今後の対応を確認していた。この度のジャビ帝国の動きは事前に誰も予想していなかっただけに、その驚きは大きく、会議室は重苦しい雰囲気に包まれていた。俺は切り出した。
「ナンタルに集結中のジャビ帝国軍の兵力だが、あまりにも規模が大きいために正確な兵力を推計するのは難しい。しかし最新の情報によれば、おそらく二十万人規模だろうとのことだ。これは我が軍の四倍以上だ」
「奴らは、アルカナに進軍してくるでしょうか」
「今のところそれに関する正確な情報はない。だが、地理的にナンタルから最も近く、兵力も我々より弱小なロマラン王国を最初に侵略することは、ほぼ間違いないだろう。問題はその後だ」
「その後、と申しますと?」
「ジャビ帝国とまともに戦ってもロマラン王国に勝ち目はない。そうなるとロマラン王国は戦わずして降伏する可能性もある。その場合、ジャビ帝国軍はロマランとの戦いで足止めを食うことも無く、兵力が損耗することもなくなる。仮にそうなると、ジャビ帝国軍はロマランに一部の占領部隊を残し、残りの大部分の兵力が、そのままメグマール地方、つまり、我が国に侵攻してくる危険性が高い」
大将軍ウォーレンが身を乗り出した。
「それなら陛下、ロマラン王国に援軍を送って、ロマラン王国がジャビ帝国と戦うことを手助けしてはどうでしょうか」
「うむ、それも作戦の一つだが、ロマラン王国のレオナルド国王がその考えに応じるとは思えない。以前にそれとなく聞いた時の印象では、もしジャビ帝国に侵略された場合、レオナルド国王はジャビ帝国におカネを払って見逃してもらうつもりだった。過去にもそうした歴史があったらしい」
「確かにロマラン王国は交易の中継地として、カネだけはかなり潤沢にありますからな。カネで侵略を回避できるなら、その方が良いと考えるのは当然でしょうな」
「それに、もし仮にアルカナからロマランに援軍を派遣したところで、ロマランとアルカナの連合軍よりも、ジャビ帝国軍の兵力のほうが遥かに上回っているので、野戦での決戦は分が悪すぎる。となると、王都マリーでの籠城戦に持ち込むことになるが、その場合、ジャビ帝国軍の大部隊がマリーを迂回し、アルカナへ進軍してくる危険性もある」
「なるほど、下手に我が軍の兵力を分散すると、アルカナを危険に晒すことになりますな」
「そうだ。だから、残念ながらロマランに兵を派遣することは難しい。ただし万一に備えて、ロマランからレオナルド国王と家族を脱出させたい。以前に属国化されたナンタルでは、王の一族が処刑されたらしい」
「なるほど、レオナルド国王が生き残っていれば、王都マリーを奪還してロマラン王国を再興することもできますな」
「いずれにしろ、ジャビ帝国軍がロマランの次にアルカナを攻めてくることは間違いない。王都アルカでの籠城戦に備えて、早急に防御を固めなければならない。王都アルカを囲む堀の建設はどこまで進んでいる」
「まだ半分程度しか進んでおりません」
「そうか、堀で敵軍を食い止めることは無理か。何か別の方法を考えなければ。アルカナの貴族たちに連絡して、さらなる兵力の増援を要請してくれ」
「かしこまりました」
俺は大きくため息をついて天を仰いだ。それから言った。
「それと、残念だがエニマ国への進軍は中止だ。ゲニア城に待機している我が軍はすべてアルカナへ引き上げさせてくれ。ジャビ帝国の動きを同盟国であるイシル国とネムル国へ連絡して、作戦の一時中止を伝えてくれ。いまはアルカナを守ることが最優先だ」
「それと、エニマ国に使いを出せ。ジャビ帝国を撃退するまでの間、すべての戦いを停戦するよう勧告するのだ。メグマールの中で争っている場合ではないと。無駄かもしれないが・・・」
「かしこまりました」
ーーー
ここはジェイソンの屋敷である。ジェイソンの領地はエニマ国に隣接しており、エニマ国によるメグマール帝国建国宣言は、ジェイソンにとって極めて重大な事件であった。部屋にはジェイソンとレスター、そしてヘンリーがいる。レスターは相変わらず苛立たしい表情でブツブツ言いながら部屋を歩き回っている。
「ジェイソンがぐずぐずしている間に、エニマ国のマルコムが戦争を始めたではないか。しかもジャビ帝国まで動き出したと言う。こうなったら、この混乱に乗じて内戦を起こし、武力で王位を奪うのが良いかもしれんぞ。ジェイソン、兵を動かしてくれないか」
「いえ、いくらレスター殿下の願いでも、それはできませんな。今の段階ではまったく勝算がございません。今は状況を見極める時です」
「くそ、腰抜けめ・・・。まあよい。今は待つことにする。また来るぞ」
レスターは部屋から出ていった。ジェイソンは窓から外を眺めていたが、レスターの乗った馬車が走り去るのを見届けるとゆっくりと部屋の椅子に腰掛けて言った。
「レスターという男は、驚くほど馬鹿な奴だな。いずれにしろ、そろそろレスターもお払い箱だ。あの男を担ぎ上げるよりも、エニマ国のマルコムを利用する方が良さそうだ」
ヘンリーはジェイソンに歩み寄ると、愛想笑いを浮かべながら言った。
「と、申されますと?」
「私の領地はエニマ国に接している。だからエニマ国には真っ先に攻め込まれる恐れがある。ならばいっその事、密かにエニマ国側に寝返るのも一つの方法だ。いや、むしろ領地を拡大する好機ともいえる。
今やアルカナ国の兵力よりもエニマ国の兵力の方が大きい。エニマ国がメグマール地方を支配するかもしれん。今のうちにマルコムに恩を売っておけば、王都アルカの管理官の地位を得ることができるかもしれん」
「さすがはジェイソン様、抜かりはありませんな。して、レスターはどう処分するおつもりで?」
「確かにレスターは我々のことを知りすぎている。だが口封じのために殺すまでもないだろう。いずれ我々はアルカナを裏切ることになるのだからな。むしろレスターの謀略をアルフレッドに暴露してやれば、面白いことになるだろう」
「いひひ、それは、さぞ面白いでしょうな」
ーーー
エニマ国の王城では、マルコムと大将軍のジーンが戦況について話し合っていた。マルコムは、深刻な表情で机に広げた地図を確認しながら言った。
「ゲニア城がアルカナ軍に落とされたのか・・・あの、難攻不落の要塞が一ヶ月も持ちこたえられなかったのは、まったくの計算外だ。アルカナ軍は、一体どうやってあの城を落としたのだ」
「はい。国王アルフレッドの援軍が到着してから間もなく陥落したようです。陥落前に脱出した兵士らの証言によれば、どうやら強力な魔法を使う者がいたそうです。弓矢や投石機の攻撃を、すべて跳ね返されたとのことです」
「ああ、エルフの女戦士のことだろう。そのエルフなら一度見たことがある。以前、アルカナのアルフレッドが、我が父に謁見した際に同行してきたからな。そんなにすごいのか」
「いえ、そのエルフ以外にも魔法を使う者がいるらしいのです。おそらくエルフが二人以上いるのではないかと。しかも、あのアルフレッド国王が、みずから強力な火炎魔法を使って攻撃してきた、との噂があるのです」
「なに?アルフレッドが魔法を使うだと? 馬鹿な、あれは人間のはずだ。・・・それが間違いだとしても、魔法を使える者が何人もいることは事実だ。厄介だな。こちらもエルフの傭兵を雇うことはできないだろうか」
「エルフは数が少ないですから、傭兵を雇うことは容易ではないでしょう。しかし北方にあるザルトバイン帝国の遥か西方には、エルフの国があるとの噂がありますので、北方で探させれば、あるいは・・・」
その時、書簡を持った兵士が玉座の間に入ってきた。
「陛下、アルカナから書簡が届きました。アルフレッド国王の直筆です」
「なに? 本当か。すぐにここへ」
玉座の間では、書簡に目を通すマルコムの様子を大将軍ジーンが見守っていた。兵士が部屋から出てゆくと、ジーンが言った。
「マルコム陛下、アルカナの書簡にはどのような事が書かれていたのですか」
「ジャビ帝国が動き出したらしい。ナンタルにすでに二十万人規模の兵が集結しているという。だから、今はメグマールの国々が戦争をしている場合ではない、すべての戦いを一時停戦すべきだ、と書いてある。ジーンはどう思う?」
「ジャビ帝国の動きについては、我が方の密偵からまだ何の情報もございません。ですから真偽についてはわかりません。しかし、これが本当だとした場合、我が方にとっては有利に働くかもしれません」
「というと?」
「シャビ帝国軍とアルカナ王国軍が互いに潰し合えば、両軍とも弱体化するでしょう。頃合いを見計らって我が軍が介入すれば、アルカナ王国軍とジャビ帝国軍の両方を打ち破り、アルカナを併合できるかも知れません」
「ジャビ帝国を利用して漁夫の利を得るわけか。しかしジャビ帝国の軍は強力だぞ」
「確かにそうです。ですがジャビ帝国軍もかなりの損害を被るはずです。しかもアルカナ軍との戦闘が長引けば冬になり、寒さに弱いトカゲ族は戦力が低下します。そうなれば我が軍をもって撃破することも可能ではないかと思われます」
そこへ別の兵士が入ってきた。
「陛下、アルカナ国の貴族、ジェイソン殿から書簡が届いております」
「アルカナの貴族から?何だろう。すぐに目を通すので、こちらへ」
マルコムは気難しい顔つきで手早く書簡の封を切ると、文面に目を通した。やがてその表情に狡猾な笑みがこぼれた。
「ふふふ、これは面白いことになってきた」
「何と書かれてあるのですか?」
「ジェイソンとやらは、アルカナ王国を見限り、エニマ国へ寝返っても良いと書いている。どうやら、天は我らに味方しているようだ。アルカナは自国を守るだけで手一杯で、余力はない。この機にネムル国を攻略するのだ」
ーーー
それから数日後、俺はレオナルド国王と面会するためロマランの王都マリーへ向かった。
馬車の中でレイラが俺に尋ねた。
「陛下、レオナルド国王とお会いしてどうするおつもりでしょうか」
「マリーを脱出するよう説得するつもりだ。また、領内でジャビ帝国の動きを監視する許可を得たい。ジャビ帝国軍を直接この目で確かめたいのだ」
それからまもなく、ジャビ帝国軍が北へ向けて移動を開始したとの知らせが届いた。
「ナンタルに集結中のジャビ帝国軍の兵力だが、あまりにも規模が大きいために正確な兵力を推計するのは難しい。しかし最新の情報によれば、おそらく二十万人規模だろうとのことだ。これは我が軍の四倍以上だ」
「奴らは、アルカナに進軍してくるでしょうか」
「今のところそれに関する正確な情報はない。だが、地理的にナンタルから最も近く、兵力も我々より弱小なロマラン王国を最初に侵略することは、ほぼ間違いないだろう。問題はその後だ」
「その後、と申しますと?」
「ジャビ帝国とまともに戦ってもロマラン王国に勝ち目はない。そうなるとロマラン王国は戦わずして降伏する可能性もある。その場合、ジャビ帝国軍はロマランとの戦いで足止めを食うことも無く、兵力が損耗することもなくなる。仮にそうなると、ジャビ帝国軍はロマランに一部の占領部隊を残し、残りの大部分の兵力が、そのままメグマール地方、つまり、我が国に侵攻してくる危険性が高い」
大将軍ウォーレンが身を乗り出した。
「それなら陛下、ロマラン王国に援軍を送って、ロマラン王国がジャビ帝国と戦うことを手助けしてはどうでしょうか」
「うむ、それも作戦の一つだが、ロマラン王国のレオナルド国王がその考えに応じるとは思えない。以前にそれとなく聞いた時の印象では、もしジャビ帝国に侵略された場合、レオナルド国王はジャビ帝国におカネを払って見逃してもらうつもりだった。過去にもそうした歴史があったらしい」
「確かにロマラン王国は交易の中継地として、カネだけはかなり潤沢にありますからな。カネで侵略を回避できるなら、その方が良いと考えるのは当然でしょうな」
「それに、もし仮にアルカナからロマランに援軍を派遣したところで、ロマランとアルカナの連合軍よりも、ジャビ帝国軍の兵力のほうが遥かに上回っているので、野戦での決戦は分が悪すぎる。となると、王都マリーでの籠城戦に持ち込むことになるが、その場合、ジャビ帝国軍の大部隊がマリーを迂回し、アルカナへ進軍してくる危険性もある」
「なるほど、下手に我が軍の兵力を分散すると、アルカナを危険に晒すことになりますな」
「そうだ。だから、残念ながらロマランに兵を派遣することは難しい。ただし万一に備えて、ロマランからレオナルド国王と家族を脱出させたい。以前に属国化されたナンタルでは、王の一族が処刑されたらしい」
「なるほど、レオナルド国王が生き残っていれば、王都マリーを奪還してロマラン王国を再興することもできますな」
「いずれにしろ、ジャビ帝国軍がロマランの次にアルカナを攻めてくることは間違いない。王都アルカでの籠城戦に備えて、早急に防御を固めなければならない。王都アルカを囲む堀の建設はどこまで進んでいる」
「まだ半分程度しか進んでおりません」
「そうか、堀で敵軍を食い止めることは無理か。何か別の方法を考えなければ。アルカナの貴族たちに連絡して、さらなる兵力の増援を要請してくれ」
「かしこまりました」
俺は大きくため息をついて天を仰いだ。それから言った。
「それと、残念だがエニマ国への進軍は中止だ。ゲニア城に待機している我が軍はすべてアルカナへ引き上げさせてくれ。ジャビ帝国の動きを同盟国であるイシル国とネムル国へ連絡して、作戦の一時中止を伝えてくれ。いまはアルカナを守ることが最優先だ」
「それと、エニマ国に使いを出せ。ジャビ帝国を撃退するまでの間、すべての戦いを停戦するよう勧告するのだ。メグマールの中で争っている場合ではないと。無駄かもしれないが・・・」
「かしこまりました」
ーーー
ここはジェイソンの屋敷である。ジェイソンの領地はエニマ国に隣接しており、エニマ国によるメグマール帝国建国宣言は、ジェイソンにとって極めて重大な事件であった。部屋にはジェイソンとレスター、そしてヘンリーがいる。レスターは相変わらず苛立たしい表情でブツブツ言いながら部屋を歩き回っている。
「ジェイソンがぐずぐずしている間に、エニマ国のマルコムが戦争を始めたではないか。しかもジャビ帝国まで動き出したと言う。こうなったら、この混乱に乗じて内戦を起こし、武力で王位を奪うのが良いかもしれんぞ。ジェイソン、兵を動かしてくれないか」
「いえ、いくらレスター殿下の願いでも、それはできませんな。今の段階ではまったく勝算がございません。今は状況を見極める時です」
「くそ、腰抜けめ・・・。まあよい。今は待つことにする。また来るぞ」
レスターは部屋から出ていった。ジェイソンは窓から外を眺めていたが、レスターの乗った馬車が走り去るのを見届けるとゆっくりと部屋の椅子に腰掛けて言った。
「レスターという男は、驚くほど馬鹿な奴だな。いずれにしろ、そろそろレスターもお払い箱だ。あの男を担ぎ上げるよりも、エニマ国のマルコムを利用する方が良さそうだ」
ヘンリーはジェイソンに歩み寄ると、愛想笑いを浮かべながら言った。
「と、申されますと?」
「私の領地はエニマ国に接している。だからエニマ国には真っ先に攻め込まれる恐れがある。ならばいっその事、密かにエニマ国側に寝返るのも一つの方法だ。いや、むしろ領地を拡大する好機ともいえる。
今やアルカナ国の兵力よりもエニマ国の兵力の方が大きい。エニマ国がメグマール地方を支配するかもしれん。今のうちにマルコムに恩を売っておけば、王都アルカの管理官の地位を得ることができるかもしれん」
「さすがはジェイソン様、抜かりはありませんな。して、レスターはどう処分するおつもりで?」
「確かにレスターは我々のことを知りすぎている。だが口封じのために殺すまでもないだろう。いずれ我々はアルカナを裏切ることになるのだからな。むしろレスターの謀略をアルフレッドに暴露してやれば、面白いことになるだろう」
「いひひ、それは、さぞ面白いでしょうな」
ーーー
エニマ国の王城では、マルコムと大将軍のジーンが戦況について話し合っていた。マルコムは、深刻な表情で机に広げた地図を確認しながら言った。
「ゲニア城がアルカナ軍に落とされたのか・・・あの、難攻不落の要塞が一ヶ月も持ちこたえられなかったのは、まったくの計算外だ。アルカナ軍は、一体どうやってあの城を落としたのだ」
「はい。国王アルフレッドの援軍が到着してから間もなく陥落したようです。陥落前に脱出した兵士らの証言によれば、どうやら強力な魔法を使う者がいたそうです。弓矢や投石機の攻撃を、すべて跳ね返されたとのことです」
「ああ、エルフの女戦士のことだろう。そのエルフなら一度見たことがある。以前、アルカナのアルフレッドが、我が父に謁見した際に同行してきたからな。そんなにすごいのか」
「いえ、そのエルフ以外にも魔法を使う者がいるらしいのです。おそらくエルフが二人以上いるのではないかと。しかも、あのアルフレッド国王が、みずから強力な火炎魔法を使って攻撃してきた、との噂があるのです」
「なに?アルフレッドが魔法を使うだと? 馬鹿な、あれは人間のはずだ。・・・それが間違いだとしても、魔法を使える者が何人もいることは事実だ。厄介だな。こちらもエルフの傭兵を雇うことはできないだろうか」
「エルフは数が少ないですから、傭兵を雇うことは容易ではないでしょう。しかし北方にあるザルトバイン帝国の遥か西方には、エルフの国があるとの噂がありますので、北方で探させれば、あるいは・・・」
その時、書簡を持った兵士が玉座の間に入ってきた。
「陛下、アルカナから書簡が届きました。アルフレッド国王の直筆です」
「なに? 本当か。すぐにここへ」
玉座の間では、書簡に目を通すマルコムの様子を大将軍ジーンが見守っていた。兵士が部屋から出てゆくと、ジーンが言った。
「マルコム陛下、アルカナの書簡にはどのような事が書かれていたのですか」
「ジャビ帝国が動き出したらしい。ナンタルにすでに二十万人規模の兵が集結しているという。だから、今はメグマールの国々が戦争をしている場合ではない、すべての戦いを一時停戦すべきだ、と書いてある。ジーンはどう思う?」
「ジャビ帝国の動きについては、我が方の密偵からまだ何の情報もございません。ですから真偽についてはわかりません。しかし、これが本当だとした場合、我が方にとっては有利に働くかもしれません」
「というと?」
「シャビ帝国軍とアルカナ王国軍が互いに潰し合えば、両軍とも弱体化するでしょう。頃合いを見計らって我が軍が介入すれば、アルカナ王国軍とジャビ帝国軍の両方を打ち破り、アルカナを併合できるかも知れません」
「ジャビ帝国を利用して漁夫の利を得るわけか。しかしジャビ帝国の軍は強力だぞ」
「確かにそうです。ですがジャビ帝国軍もかなりの損害を被るはずです。しかもアルカナ軍との戦闘が長引けば冬になり、寒さに弱いトカゲ族は戦力が低下します。そうなれば我が軍をもって撃破することも可能ではないかと思われます」
そこへ別の兵士が入ってきた。
「陛下、アルカナ国の貴族、ジェイソン殿から書簡が届いております」
「アルカナの貴族から?何だろう。すぐに目を通すので、こちらへ」
マルコムは気難しい顔つきで手早く書簡の封を切ると、文面に目を通した。やがてその表情に狡猾な笑みがこぼれた。
「ふふふ、これは面白いことになってきた」
「何と書かれてあるのですか?」
「ジェイソンとやらは、アルカナ王国を見限り、エニマ国へ寝返っても良いと書いている。どうやら、天は我らに味方しているようだ。アルカナは自国を守るだけで手一杯で、余力はない。この機にネムル国を攻略するのだ」
ーーー
それから数日後、俺はレオナルド国王と面会するためロマランの王都マリーへ向かった。
馬車の中でレイラが俺に尋ねた。
「陛下、レオナルド国王とお会いしてどうするおつもりでしょうか」
「マリーを脱出するよう説得するつもりだ。また、領内でジャビ帝国の動きを監視する許可を得たい。ジャビ帝国軍を直接この目で確かめたいのだ」
それからまもなく、ジャビ帝国軍が北へ向けて移動を開始したとの知らせが届いた。
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