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執着旦那と愛の子作り&子育て編
小さな冒険者。①
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王都での魔物調査をガリオンとヴィスタが行うことが正式に決定した。
これによりヴィスタを連れて王都に入ることが許可が下りる。
街に魔物が現れるとは由々しき事態だ。
王都は友人と何よりアシュリーのいる場所であり、なんとしても原因は突き止めたい。
しかし、それがわかるのはヴィスタで、調査にはガリオンがいる事を前提とされている。
現時点で王都に恐怖を招いたヴィスタだけが感知できているというのもありガリオンが必要なのだ。
勘違いであれば良いとシャリオンも思っている。
それを安心できるようにするために調査は必須だ。
シャリオンがヴィスタと調査しようとしたが、時間が取れない事や顔が知られているため外には出さないと言われてしまった。
シャリオンとしてはリジェネ・フローラルより顔は知られていないため安全だと思うのだが、ガリウスにガリオンは魔法を使ってある程度自身を守れる事を言われ、シャリオンでは足手纏いなのだと自覚しそれからは口に出せなかった。
『自分が行きたい』と許可を求めるガリオンに結局シャリオンは折れてしまうしかなかったのだ。
夜もガリウスとの触れ合いもそこそこで、シャリオンはずっと悩んでいた。
しかし、途中で強烈な眠気で寝てしまったのだけど。
「・・・考えがまとまらなかった」
「疲れていたのでしょう。仕方がありません」
独り言のつもりで呟いたのだが、ガリウスも起きていたらしく返答があって驚いた。
見上げればアメジストの瞳にシャリオンが映っている。
おはようのキスをしながら起こしてしまっただろうかと気にしながらも起き上がった。
「リィンに行かせるのは不安な気持ちはわかります。
しかし、色々な面を考慮した結果これが最善です」
聡明なガリウスの言うことは確かなのだろう。
「親として不安な気持ちはわかります」
そう言ってシャリオン抱き寄せた。
慰めるように口付けられ、甘やかされる。
「ん・・・ふっ」
「ウルフ家の者や赤蜘蛛は勿論、他の護衛もつけます」
「っ・・・他?」
キスの合間にそう尋ねれば、長い指がネグリジェの中に手が忍び込みキュッと乳首を摘んだ。
「えぇ。ウルフ家よりも古くからハイシアに仕えてる者達です。信用ができる者達なのだと聞いています」
ウルフ家がハイシア家に使えるようになったのはここ数世代の話である。
その前には勿論ハイシア人が防衛から内政にかかわるすべてを受け持っていたがウルフ家がきて大きく変わった。
その証拠に王都にあるレオンの屋敷にはウルフ家のほかに、近隣の令嬢や令息やハイシア人もいる。
国として成り立っていたころの貴族達は現在では裕福な平民という体裁にはなっているが、ハイシア内ではそれなりの権力を持っている。
その彼らは内政を担う立場が多くシャリオン達の身の回りを世話をするウルフ家に反感は出ていない。
むしろ能力的な問題から最適な配置だと考えている。
ウルフ家は主人のためにあれこれ動くが全権を与えられているわけではなく、古くから残る彼らとバランスを取っているのだ。
最近はクロエとソフィアそれにジャスミンがシャリオンの仕事を手伝うようになり、ゾル達がそれを聞きハイシアの人間に受け渡しもしている。
話がずれてしまった。
そんなハイシア人の中にもやはり護衛にあたっている者はいる。
直接ハイシア人と接する人間や表向きの兵士たちだ。
ガリウスはその者達のことを言っているのだ。
「そうだけど・・・なぜ彼らを?」
ガリウスは実力主義者であり体格や運動能力の高いサーベル国人であるウルフ家に絶対的信頼を置いている。
だからこそ王都にあるシャリオン達の屋敷にはウルフ家だけを置いているのだ。
「ウルフ家が表に何人もいたらバレてしまいますからね」
「それは、・・・そうだけど」
真剣な話をしているのに不埒な手の動きをするガリウス。
ピンと乳首を弾くガリウスに体を震わせる。
「ぁっ・・・がりぃっ」
キッと窘めるように睨むもその手は止まらない。
咄嗟にその手を掴むが、きゅむっと摘ままれてしまった。
「大丈夫です。髪一筋もガリオンに傷付けたりはしません」
「っ」
「・・・今は私の指先に感じて下さい」
「ぁっ・・・ん」
ガリウスがそう言うならそうなのだと分かっている。
シャリオンが他に囚われているのが不満で悪戯してくるのがわかる。
もしかして昨晩も考えられずに寝てしまったのはガリウスの所為だろうか。
見上げると拗ねたような瞳に苦笑した。
「もー・・・ガリィは。・・・仕方ないな」
顔を引き寄せチュと口付ける。
今日は街を偵察するだけだ。
シャリオンが過敏になりすぎたのもある。
それに、こうして嫉妬して甘えてくると言うことは、危機的状態ではないからだ。
「ぁっ・・・んっ・・・子供達のこと・・・何かあったら・・・、お願いね」
「任せて下さい」
溶けそうな思考の中でもその言葉にガリウスはフッと笑みを浮かべた。
そして返事をするかのように唇を重ね合うのだった。
★★★
【別視点:ガリオン】
王都。城下街。
国中にゲートが出来てカルガリアにも行きやすくなった事で、沢山の外国人が来る様になった。
そんななんでも受け入れる様になった街並みに、アルアディアの子供とサーベル国の子供、真っ白な猫が歩く。
子供はガリオンで、サーベル国人はガリオンの従者候補であるフォルクハルト・ウルフ(3歳)だ。
そして白猫はヴィスタである。
魔物の匂いが唯一分かるヴィスタはシャリオンと子供達の言うことしか聞かない。
しかし、表向きはガリオンが唯一ドラゴンを言うこと聞かせることができる存在となっている。
シャリオンは最後まで心配気に表情が硬かったが、ガリオンは元気一杯に任せられた仕事を『謹んでお受けいたします』とハイシア家当主に返事をした。
それにシャリオンは一瞬たじろいたが、ガリウスの『立派ですね』という言葉に後押しされて、『気を引き締めて任務にあたるように』と言うしかなかったのだ。
ヴィスタはハイシアだけでなくアルアディア全土を恐怖に陥れた魔物である。
それ故にヴィスタが変身をし、害がなさそうな猫に変化していたとしても一匹で野放しにはできない。
だが、問題を解決せずに見過ごすわけにもいかない。
その為に言い出したハイシアの人間、それも操ることができるガリオンが必須なのだ。
シャリオンの心情とは裏腹にガリオンはやる気にみなぎっていた。
問題を起こしたらシャリオンを悲しませるし、ガリウスの逆鱗に触れてしまうので最大限の注意を払いながら。
なお1歳児が街を歩くのはおかしいため、5歳児くらいの少年になっている。
ウルフ家のフォルクハルト・ウルフは3歳だが、サーベル国人特有の発達の良さで5歳児くらいには見える状態だ。
城門から調査を開始し歩き始めてしばらくたった後。
すっかり気も抜けてヴィスタを両腕でしっかり抱え街を歩く。
何度かフォルクハルトが変わろうかと申し出たが、ヴィスタはそれを嫌がりガリオンにくっついていた。
フォルクハルトはゾルと違い、何を言っているかわからないからだ。
ガリオンが落ちない様に抱え直す事数回。ヴィスタはシュタッと地面に降りる。
「にゃーん(もう大丈夫だ)」
「本当ですか?」
「にゃにゃ(あぁ。猫の様に歩ける)」
ヴィスタはこれまで猫になったことがないと言い、そのためにガリオンが抱いて歩いていたのだ。
確かに5歳児の体格で抱きかかえながら歩くのは大変だったが、手触りのいいヴィスタに心が惹かれるのに時間はかからなかった。
少し残念そうに見ていると「にゃーん」と鳴いて、ガリオンの足元に擦り寄ってきた。
それもまた可愛くて、ガリオンはほんわか笑顔を浮かべた。そんな時だ。
「にゃーん(臭いが強い)」
「!」
その言葉にハッとするガリオン。
忘れそうになっていた使命を思い出すとコクリと頷く。
「にゃんにゃん(全部終わったら好きにしてよい)」
その言葉にこくこくと頷くと再び2人と1匹で歩き回る。
まるで散歩をしてるかの様で、猫のヴィスタと街中を探索した。
まずは王都を囲む城壁から一番近い街を歩く。
確実にいる貴族街は最後に回る予定だ。
しかし、それが功を奏した。
念のためにと回ったのだが、早速出て来るとは思わなかった。
「ヴィー好きなところ歩いて良いです」
「にゃーん」
それはそちらに向かって良いと言う合図である。
ガリオンが付いていける速さであるくヴィスタ。
ヴィスタも猫型は初めてだが、ガリオンの歩幅を気遣ってくれている様だ。
沢山の人とすれ違いながらヴィスタが時折色んな方向に向いてすんすん匂いを嗅いでいる。
『まるで犬みたいな猫』と、すれ違う人々にクスクスと笑いながら言われているのが聞こえてくる。
確かにそうだ。
だが言われたヴィスタは気にせずにキョロキョロと探している。
とてとてと歩くヴィスタに続いて歩いていると、この辺に住んでいると思われる子供達があつまってきた。
「それお前の?」
「!う、うん」
同年代・・・では、ないのだがこんなに歳が近いのはアシュリー以外話したことがなくて驚いてしまった。
すこし、ドキドキしながらうなづけば興味津々の子供達の数人がヴィスタに夢中になる。
「わぁー!真っ白な猫!」
「にゃーん、かわいい」
きゃきゃと少し歳上くらいの子供達だ。見れば全員男児である。
ヴィスタはぎょっとしながらも、追いかけて触ろうとする子供たちからピョンピョンかわして跳ねている。
ガリオンも駆け出そうとすると、一番最初に話しかけてきた男児に声をかけられた。
「まて」
「?なんですか?」
「お前どこの家の人間だ」
「この辺じゃないです」
そういうと眉を顰められる。
本当の家はどちらの家も言えるわけがなく答えた。
「この城下町では行動の制限はないです」
見知らぬガリオンを排除しようとしているのかと思い、規則を破ってないと言おうとしたが、子供には「行動の制限」が伝わらなかったようだ。
普段大人とばかり対話をすることが多く、それも話せる事により貴族として領主としての教育により基本的には敬語を使っている為、子供には難しい口調になってしまったようだ。
シャリオンがガリオンやアシュリーに話しかけるような、柔らかい話し方を思い浮かべながらもう一度言った。
「えーっと。・・・この町に行っては行けないところはないでしょう?」
今度は伝わった様で眉を顰めた。
可笑しなことを言ってしまっただろうか。
「・・・お前・・・金持ちの家の子か?」
「普通の家です」
そう返答しても疑っているようでジロジロとこちらをみてくる。
平民の子供服を用意してもらったが、真新しく古く見えるようにすれば良かったとガリオンが思っていると・・・。
「にゃーん」
他の子供達と楽しげに遊んでいたヴィスタがその掴まれている腕に飛び乗るようにやってきた。
少年は咄嗟に手を離した。
ヴィスタはピョンとガリオンの肩まで跳ねうつると、ジッと少年をみた。
ただの白猫なのに獰猛な動物が静かに視線で威圧をする様は、子供達にも十分効くようでたじろいでいる。
「ヴィー。どうしたのですか」
「にゃーん」
突然威圧を始めたヴィスタの喉をくすぐるガリオン。
こんな様子は初めてだし先日の出来事を思い出した。
ヴィスタはガリオンには攻撃しないがそのほかはわからない。
目の前の子供達に何かしたらと思ったら、シャリオンの立場が危うくなりそうで気が気ではなかった。
「にゃーぅ」
心配げなガリオンの視線にヴィスタは、ガリオンの腕にずり落ちてきて、咄嗟に抱き抱えるとそこに収まるヴィスタ。
「もー・・・」
降りたり抱かれたがったり騒がしい。
そうため息をつきつつ、ガリオンはヴィスタを撫でながらも子供達をみた。
「じゃぁ僕はもう行きます」
「えー!どこいくの?」
「この辺わかる??」
「ねぇ。猫さん・・・触りたい」
まとわりついてきていた子供達は一瞬引いたのだが、諦めたわけではない様で、ガリオンの元にやってくる。
逆に面白がる子供達や猫に夢中な子供が集まって来る。
その中で1人だけガリオンの腕を掴んできた少年はこちらをじっとみてきた。
いや、そんなことよりもだ。
わらわらとくる子供達にガリオンは困ってしまう。
こんなに強引にくる人は初めてであり慌ててしまう。
けれど、両親以外に親しく話して来る「人」は珍しくて嫌な気はしない。
「ごめん!今は急いでいるんだ」
子供達との間にスッと手を差し出したのはフォルクハルトだ。
「お前は?」
「この子の兄だよ」
「ふーん?」
「全然似てないね」
「そうかな?」
にこにこと微笑むフォルクハルトに腕の中のヴィスタは興味津々に反応している。
それを不思議に思いながらもガリオンが答えた。
「えっと。
どこに行くかは決まってないのです。
この子のお散歩だから。
ね?お兄ちゃん」
「うん」
ガリオンとフォルクハルトがそういうと子供達は不思議そうにした。
「猫なのにお散歩するの?」
「それに抱っこしたまんまだし」
「抱っこしたい・・・」
「にゃ(やだ)」
そう言ってプイッと顔を背けるヴィスタにガリオンは苦笑した。
「くぁぁぁ・・・」
「ごめんなさい。なんか眠いみたい」
嫌がっていると言うわけにもいかず、欠伸し腕の中に頭を埋めたヴィスタが眠がっていることにした。
そんな様子に子供達の興味はガリオンに戻る。
「んー。まぁじゃ。猫はいいや」
「重そうだからもとうか?」
「寝ちゃったらどこにいくの?」
「えーっと・・・どうしようかな」
まだ帰るわけにはいかない。
なによりもヴィスタが魔物の気配を感じ取った後である。
腕の中のヴィスタは目を閉じたまま。
いつもなら起こすのだが、ここはハイシア領でも屋敷でもない。
思わずシャリオンやガリウスがうかんだが、こんな弱気では駄目である。
「重くなったら僕が持つから大丈夫。ね?」
「うん。それにそのうち目が覚めるから、」
フォルクハルトの助け舟にコクリと頷き、答えようとするガリオンを被せる様に子供達はきらきらとした眼差しをむけてきた。
「じゃあさ!俺達が案内してあげるよ!」
「いいな!」
「ボク・・・詳しい」
ただの観光ならそうも言えるが、そうではない為少し困っていると少年達の間に先程の子が割入って止めた。
「みんな!困ってるだろう?
ごめん。でも、この辺なら案内するから」
どうしても断れなさそうな気配にヴィスタが動く。
「にゃーん(仕方ない。・・・案外子供がいた方が歩きやすいかもしれないな)」
確かにそうかもしれない。
「猫は行きたいところあるのか?」
子供の問いかけにつんと顔をそむけるヴィスタにガリオンはため息をついた。
一緒に居た方が良いと言ったのはヴィスタである。
「ヴィ」
「にゃ(適当に街を歩かせれば良い)」
耳をピクピクと動かせながら、ガリオンに擦り寄るヴィスタ。
「ただこの街を歩きたいみたい」
「えーっと・・・お前なんていうの?」
「僕?・・・、リオ・・・です?」
ガリオン・ハイシアとは名乗れず咄嗟に出た名前はシャリオンの愛称で疑問系で返してしまった。
「にゃにゃにゃん(お前達は本当にシャリオンが好きだな)」
『お前達』とはガリオンとアシュリーの事である。
それは間違いがないのだが、『リオ』呼びしているのはライガーとルークにアンジェリーンであり、また盗み聞きの余罪を見つけてムッとしたのだが、子供達の嬉しそうな声でそれがとめられた。
「へぇ、リオか!兄ちゃんの方は?」
「ハルトだよ。よろしく」
そう答えると、子供たちはうんうんと頷いた。
「俺はネイト」
「可愛い名前だな。俺はフランツ」
「・・・確かに。可愛い。ピッタリ」
「お前も言わないと」
そう言って膝で突かれるとレイはハッとしてガリオンを見てくる。
「レイ。・・・よろしく」
3人は次々と教えてくれた後、残りの1人に視線が注がれると名前を教えてくれた。
「俺はアドルフ。ハルトとリオ・・・か。
うん。リオ・・・『可憐』で良い名前だ」
「・・・。よろしくお願いします」
大絶賛の子供達になんだかこそばゆく感じてガリオンは視線を逸らした。
そんなガリオンに子供達は機嫌をとる様にますます褒めてきて困惑していたが、子供達に導かれるまま街を歩いていく。
任務のために『さようなら』をしたいのだが、なんだか言えない空気。
・・・だめです。
今日ちゃんと見つけて、父上と父様を安心させなくては。
それにここはシュリィの住むところ。
両親は勿論アシュリーの事を思うと、騒ぎを起こして魔物の匂いが探せなくなるのは困る。
「・・・」
匂いは近くなっていると言うがなかなか辿り着けない。
ヴィスタが遊んでると言うことはなく、目を開けて匂いを嗅いで見せるのだが、見当たらない様で次第に苛立っていくのがわかる。
そんなヴィスタをひとなですると、その手に擦り寄って来た。
ガリオンにだけは甘える姿に、アドルフが呆れた声で覗き込んでくると皆も次々に口を開く。
「ヴィは気難しい猫だな」
「猫じゃないみたい」
どうやら猫が好きな様子のレイが、その言葉にムッとしたようにアドルフ達を睨んだ。
「とっても可愛いもん」
思わず笑うと皆がこちらを見てきて、その意味が解らずに笑うのを止め皆を見れば一斉に視線を逸らせた。
何か気に障ることをしてしまったのだろうかと考えていると、ネイトが唐突にヴィスタを覗き込んだ。
「ヴィは何か探してるみたいなんだけどな」
きょろきょろとしているヴィスタの様子に皆も気づいたらしい。
それくらいこの子供達と長く歩いているという事である。
子供達が付いてきてくれるので、特に気にしなかったが用事があるのかもしれない。
「まだ時間が掛かると思うので、今日はこの辺で」
「リオは帰るのか?送ってくいく」
「いえ。まだまわります」
疲れたのかと思い、帰そうとしてもガリオンが残るとわかると帰ろうとしない。
変わった人間の出現に面白がっているのかもしれない。
「お腹空いてるだけなのかも」
そんな風に誤魔化しながら注意深くヴィスタをみるも、見つかったとかそう言うのは無さそうだ。
すると、アドルフがある提案をしてくれた。
「それならうちにくるか?」
そんなお誘いに皆が大いに賛成し頷いた。
「宿屋をしてるんだよ!とってもご飯がうまいんだ」
「最近空いてるからたくさん食べられる!」
「ゲートが出来たからなの」
子供達が次々に言う言葉はシャリオンには聞かせられ無いなと思いつつ首を横に振った。
少なからず罪悪感あるからだ。
「いいえ。大丈夫です」
するとアドルフは眉を顰めた。
「お前も貧乏人の料理は口に合わないって?」
「そんな事考えてないです」
何故そんな返答に結びつくのか。思ってもない答えにガリオンは首を横に振った。
ガリオンとて市井には興味がありアドルフの親が経営する宿屋には興味がある。
しかし、今日はそれが目的ではないのだ。
そんなガリオンの都合を知る由もなく、強引に話を進める。
「なら来れるだろう?」
ここで問題を起こすには行かなくてガリオンはコクリと頷いた。
「・・・わかりました」
渋々な態度にムッとした様だったがそれでも言質を取ったアドルフは、ガリオンの肩に手を置いたが、その手はヴィスタにバシンと叩たかれた。
「うわっ」
「!ヴィー!」
「っ・・・大丈夫だ」
アドルフは驚き少し距離を取ってヴィスタの方を見ている。
「ヴぅー!!」
「っ」
ガリオンの腕の中でギっとアドルフ睨み唸り声を出すヴィスタにぎょっとする。
腕の中から飛び出る様子は無いが、手が届く範囲に入ると引っかきそうな気配にしっかりと抱き寄せた。
他の子供達はてっきり怯えるかと思いきや真逆の反応だった。
猫が本気で引っ掻いたら血が出るのを知っており、そうしないヴィスタに寧ろ感心しているのだ。
「猫さん・・・ヴィは唸るの?」
目を輝かせてガリオンの腕の中を覗き込むのはレイ。
先ほどのような唸りは無くなったがジッと見るヴィスタにガリオンの方が怪我をさせるのではないかと怯えてしまう。
この中で心配しているのはガリオンだけだった。
「こんなに可愛いのにな」
「危ない!噛まれるぞっ」
手を叩かれて強がって見せたが、ネイトやフランツが面白がってヴィスタを覗き込むのに慌てるアドルフ。
しかし、そんな様子のアドルフに怒りは収まったのかムッとして鳴くヴィスタ。
「なぁぁぁ・・・。(爪は出してないだろう。大げさな)
・・・にゃぁにゃ(お前も簡単に体を触らせるんじゃない。そんなところはシャリオンに似なくて良い)
なぅ・・・・(それにしてもゾルのやつめ。もっと使える奴を寄越せばいいのに)」
「・・・」
子供達、ガリオン、フォルクハルトの順に文句を言いながら鳴くヴィスタ。
先日の一件もあるからなのか、ちゃんと手を抜いてくれたのだろうか。
しかし、その言葉にはよくわからなくて首をかしげてしまう。
「にゃう・・・(もういい。小僧の家に行けるのは好都合だ)」
呆れたため息を吐くヴィスタに戸惑っていると、レイがヴィスタを覗き込んだ。
「猫さん・・・リオの事を守っているみたい」
「にゃぅ(近寄るな。お前も同じ目にあわせるぞ)」
「かわいい・・・」
「にゃぁぁ(噛まれたいのか?)」
すっかり目が据わりレイの言葉に今にも攻撃しそうだが、唸らないあたりアドルフよりは警戒していない様だ。
目が三角なヴィスタを無視してレイを見上げた。
「猫好きなんだね」
「うん。好き。・・・でも・・・これ以上は嫌われる」
ヴィスタが嫌がっているのが分かったからか、しょんぼりとして少し離れた。
アドルフはヴィスタには興味が無いようで急かしてくる。
「もーいいから行こうぜ!」
「アドルフは我がままだなぁ」
「本当にね。リオの自由にしてあげなよ」
「俺は・・・別に」
皆に口々に文句を言いわれて、強引だったと気づいたようでそれからはアドルフも少し自重した。
確かに強引ではあったが、ガリオンも楽しかった。
同じ歳の子供とは話せる年齢ではなく、思考共有を使えるウルフ家の子供以外と満足に話せないのだ。
今日で終わりの関係だと思っていたのだが、少し寂しく思いながら皆でアドルフの家の宿へと向かった。
大きい通りから一本入ったところにある宿は他の建物より少し大きめの物だった。
真新しさだとか豪華さだとかそう言ったものは無いが手入れの行き届いた宿である。
ゲートの所為で利用客が少なくなったと言うが、宿の前にも中にも利用客がいた。
アドルフに導かれるまま宿に入っていくと、受付の人間がこちらに気が付きニコリと微笑んだ。
「おかえりなさい。坊ちゃん」
「ただいま」
「おや?新しいお友達ですか」
「うん」
そう返事をするアドルフに不愉快そうにヴィスタの尻尾が揺れ足に当たってきていて、慰めるように背中を撫でる。
『友達』と称したのが気に入らないのかもしれないが、一方のガリオンは『今日だけの友達』でも嬉しかった。
「食堂行っても良いかな」
「ほとんどのお客様はお食事がすまされているようですが、もう少し待ってください。
一応給仕長に尋ねてきますから、談話室で待っていてください」
「わかった」
「うちのビーフシチューは看板メニューなので是非食べて行ってくださいね」
そう言って受付の男はガリオンにニコリと微笑んできてガリオンは会釈をした。
やたらニコニコとしていてなんだろうかと思っていると受付の男がちらりとアドルフを見た。
「坊ちゃんは面食いなようだ」
「マリオ!余計な事いうなよっ」
「すみませんねぇ」
受付の男がクスクスと笑うとアドルフは真っ赤になって怒っていた。何に対してその様な事を言ったのかわかる間もなく、その場から離され宿の奥に案内される。
客人同士が交流を深める為の談話室につくと、受付の男の話は気にしない様に言われながら準備ができるまで話している時だった。
ガリオンの膝の腕でヴィスタがすくりと立ち上がると、ジッと何処か視線で追っていてガリオンも続けば階段だった。
コツ・・・コツ・・・
二階から歩いてくる足音。
どこか上品な足音にも聞こえる。
不思議に思いつつ続いて感じた人の気配に、ガリオンとフォルクハルトもそちらに視線を向ければ突然張られた結界。張ったのはヴィスタだ。
「アイツが来たみたいだ」
「!」
姿を見ずともわかるのか忌々し気にそんな事を呟くアドルフに、誰か尋ねようとしたが足音がピタリと止まる。
「ん?」
すると踵を返したようで足音は再び去っていき、しばらくして扉の閉まる音がした。
そんな状態にアドルフの眉間の皺は余計に深くなり、そしてヴィスタが鳴いた。
「にゃーん(逃げたか)」
「え?」
「どうかした?リオ」
「!う、ううん」
興味を示したガリオンに怪訝そうな顔をするアドルフに慌てて頭を振りながらも足音がした方をみた。
「えっとなんか随分おしとやかな歩き方だなって思って」
そう言うとアドルフの眉間の皺がまたまた深くなる。
それをネイトとフランツがケタケタと笑い『本当にアイツのこと嫌いだなぁ』『振られちゃったからな』とからかった。
そんな2人をアドルフはジロリと睨んだ。
「多分お貴族様だよ」
「え?」
「気まぐれにここら辺の宿屋を日替わりに止まってる。もしかしたらハイシアの人間かもな」
「っ・・・なんで?」
「ゲートを作ったのはハイシアの貴族だって聞いた。だから暇になった宿屋をあざ笑いに来たんだ」
そんな風に考える人もいるとは思わなかった。
ガリオンはシャリオンとガリウスが作ったゲートを誇らしげに思っている。
それが出来ることで確実に利便性が上がり利点しかないと思っていたからだ。
そんな時だ。
「ばーか」
スッと現れたコック服の男にアドルフはパシンと頭をはたかれた。
「ったっ・・・て、兄ちゃん?」
「お前は何アホなことを言っているんだ。そんな馬鹿なことを考えていたのか?」
「だって!お客が来なくなったのは実際そうじゃないか!」
「だからと言って近くなるのは良いことだろう」
「けどっ」
「馬鹿なことを言っているな。だったらほかに稼ぐ方法を見つければいいんだ」
「っ」
「どう考えても1週間で旅して移動するよりも、1日でかつ安全に移動できた方が良いに決まってる。
多くの国民はゲートに大歓迎だ」
「・・・っ・・・けど・・・ハイシアの所為で」
「だーかーら。・・・はぁ・・・あんな・・・ハイシア様は目先のことだけを考えて作ったんじゃないんだぞ。
みんなの幸せを考えてお造りになったんだ」
「でもっ・・・でもっ!」
「はぁ・・・お前がな。たくさん賑わっていたこの宿屋を誇りに思っているのは、俺だって嬉しい。
けどな。それは・・・、・・・まだお前には難しいか」
そう言うとアドルフの兄は苦笑しながら頭をワシワシと撫でた。
「ほかの貴族は知らんが、あの方は違うんだよ。ゲートが出来たことはむしろハイシア領にとって損益だしな」
「違う・・・?」
思わずガリオンが訪ねると、アドルフの兄は見ない顔に驚いたようだったがニコリと微笑んだ。
「そうだ。ハイシア様はまず美人だ!
ほかの見た目だけの奴らとは違い心そのものが美しいお方だ。
それはすべての人にと言ってもいい。
情け深く困っている人がいたら手を差し出さずにはおられない方だ。
ほかの領地では見過ごす問題も、ハイシアではすぐさまに改善される。
・・・ここ王都もなぁ・・・悪くはないんだが、この宿もハイシアにあったらよかったのにて何度思ったことか」
「ハイシア・・・様が美人だからだろ。兄ちゃんは美人に弱い」
「「「それはアドルフも(じゃん)(じゃない)」」」
アドルフの兄への指摘に、子供達も思わず突っ込んだ。
すると、そんな反撃がくると思っていなかったアドルフはぎょっとして、ガリオンに言い訳をしてくる。
「おっ・・・俺はそんなんじゃないからな!」
そんな様子にアドルフの兄はけらけらと笑い、もう一度アドルフの頭をワシワシと撫でた。
「とにかくな。ハイシア様が美人だとかそんなのは関係なくてだな。
あの方はご立派なことをなさったんだ。
だからそんな風に言うのはやめるんだ」
「にゃーん(人間らしいがな)」
そんな声を聴きながらもガリオンは複雑だった。
アドルフの兄のように思ってくれるような人もいれば、アドルフのように考える人間もいるのだ。
すると、ヴィスタがガリオンの腹にすり寄ってきて、フォルクハルトも背中を撫でてくる。
見上げれば金色の瞳が慰めてくれているようだ。
ガリオンはアドルフの方を見直した。
「っ・・・わかったよ」
「そうか。流石俺の弟だな。さて。食事の準備ができたから呼びに来たんだ。
アドルフ。お前はその子達をエスコートして食堂まで連れてってやれ。ほれチビ共。お前たちは俺の手伝いだ」
「「「はーい」」」
そう言うとアドルフの兄はそこから去っていった。
子供たちはきゃっきゃと言いながらそのアドルフの後を追いかけていく。
それから、ガリオンとフォルクハルトはアドルフに食堂へエスコートされていくと、看板メニューと言われるシチューを出された。
そのころにはアドルフの様子はもとに戻っていた。
そして・・・それまで機嫌の悪そうだったヴィスタがシチューを出した途端に調子が良いことにアドルフに懐いた。
というかシチューを作ったというアドルフの兄に懐いたのだった。
これによりヴィスタを連れて王都に入ることが許可が下りる。
街に魔物が現れるとは由々しき事態だ。
王都は友人と何よりアシュリーのいる場所であり、なんとしても原因は突き止めたい。
しかし、それがわかるのはヴィスタで、調査にはガリオンがいる事を前提とされている。
現時点で王都に恐怖を招いたヴィスタだけが感知できているというのもありガリオンが必要なのだ。
勘違いであれば良いとシャリオンも思っている。
それを安心できるようにするために調査は必須だ。
シャリオンがヴィスタと調査しようとしたが、時間が取れない事や顔が知られているため外には出さないと言われてしまった。
シャリオンとしてはリジェネ・フローラルより顔は知られていないため安全だと思うのだが、ガリウスにガリオンは魔法を使ってある程度自身を守れる事を言われ、シャリオンでは足手纏いなのだと自覚しそれからは口に出せなかった。
『自分が行きたい』と許可を求めるガリオンに結局シャリオンは折れてしまうしかなかったのだ。
夜もガリウスとの触れ合いもそこそこで、シャリオンはずっと悩んでいた。
しかし、途中で強烈な眠気で寝てしまったのだけど。
「・・・考えがまとまらなかった」
「疲れていたのでしょう。仕方がありません」
独り言のつもりで呟いたのだが、ガリウスも起きていたらしく返答があって驚いた。
見上げればアメジストの瞳にシャリオンが映っている。
おはようのキスをしながら起こしてしまっただろうかと気にしながらも起き上がった。
「リィンに行かせるのは不安な気持ちはわかります。
しかし、色々な面を考慮した結果これが最善です」
聡明なガリウスの言うことは確かなのだろう。
「親として不安な気持ちはわかります」
そう言ってシャリオン抱き寄せた。
慰めるように口付けられ、甘やかされる。
「ん・・・ふっ」
「ウルフ家の者や赤蜘蛛は勿論、他の護衛もつけます」
「っ・・・他?」
キスの合間にそう尋ねれば、長い指がネグリジェの中に手が忍び込みキュッと乳首を摘んだ。
「えぇ。ウルフ家よりも古くからハイシアに仕えてる者達です。信用ができる者達なのだと聞いています」
ウルフ家がハイシア家に使えるようになったのはここ数世代の話である。
その前には勿論ハイシア人が防衛から内政にかかわるすべてを受け持っていたがウルフ家がきて大きく変わった。
その証拠に王都にあるレオンの屋敷にはウルフ家のほかに、近隣の令嬢や令息やハイシア人もいる。
国として成り立っていたころの貴族達は現在では裕福な平民という体裁にはなっているが、ハイシア内ではそれなりの権力を持っている。
その彼らは内政を担う立場が多くシャリオン達の身の回りを世話をするウルフ家に反感は出ていない。
むしろ能力的な問題から最適な配置だと考えている。
ウルフ家は主人のためにあれこれ動くが全権を与えられているわけではなく、古くから残る彼らとバランスを取っているのだ。
最近はクロエとソフィアそれにジャスミンがシャリオンの仕事を手伝うようになり、ゾル達がそれを聞きハイシアの人間に受け渡しもしている。
話がずれてしまった。
そんなハイシア人の中にもやはり護衛にあたっている者はいる。
直接ハイシア人と接する人間や表向きの兵士たちだ。
ガリウスはその者達のことを言っているのだ。
「そうだけど・・・なぜ彼らを?」
ガリウスは実力主義者であり体格や運動能力の高いサーベル国人であるウルフ家に絶対的信頼を置いている。
だからこそ王都にあるシャリオン達の屋敷にはウルフ家だけを置いているのだ。
「ウルフ家が表に何人もいたらバレてしまいますからね」
「それは、・・・そうだけど」
真剣な話をしているのに不埒な手の動きをするガリウス。
ピンと乳首を弾くガリウスに体を震わせる。
「ぁっ・・・がりぃっ」
キッと窘めるように睨むもその手は止まらない。
咄嗟にその手を掴むが、きゅむっと摘ままれてしまった。
「大丈夫です。髪一筋もガリオンに傷付けたりはしません」
「っ」
「・・・今は私の指先に感じて下さい」
「ぁっ・・・ん」
ガリウスがそう言うならそうなのだと分かっている。
シャリオンが他に囚われているのが不満で悪戯してくるのがわかる。
もしかして昨晩も考えられずに寝てしまったのはガリウスの所為だろうか。
見上げると拗ねたような瞳に苦笑した。
「もー・・・ガリィは。・・・仕方ないな」
顔を引き寄せチュと口付ける。
今日は街を偵察するだけだ。
シャリオンが過敏になりすぎたのもある。
それに、こうして嫉妬して甘えてくると言うことは、危機的状態ではないからだ。
「ぁっ・・・んっ・・・子供達のこと・・・何かあったら・・・、お願いね」
「任せて下さい」
溶けそうな思考の中でもその言葉にガリウスはフッと笑みを浮かべた。
そして返事をするかのように唇を重ね合うのだった。
★★★
【別視点:ガリオン】
王都。城下街。
国中にゲートが出来てカルガリアにも行きやすくなった事で、沢山の外国人が来る様になった。
そんななんでも受け入れる様になった街並みに、アルアディアの子供とサーベル国の子供、真っ白な猫が歩く。
子供はガリオンで、サーベル国人はガリオンの従者候補であるフォルクハルト・ウルフ(3歳)だ。
そして白猫はヴィスタである。
魔物の匂いが唯一分かるヴィスタはシャリオンと子供達の言うことしか聞かない。
しかし、表向きはガリオンが唯一ドラゴンを言うこと聞かせることができる存在となっている。
シャリオンは最後まで心配気に表情が硬かったが、ガリオンは元気一杯に任せられた仕事を『謹んでお受けいたします』とハイシア家当主に返事をした。
それにシャリオンは一瞬たじろいたが、ガリウスの『立派ですね』という言葉に後押しされて、『気を引き締めて任務にあたるように』と言うしかなかったのだ。
ヴィスタはハイシアだけでなくアルアディア全土を恐怖に陥れた魔物である。
それ故にヴィスタが変身をし、害がなさそうな猫に変化していたとしても一匹で野放しにはできない。
だが、問題を解決せずに見過ごすわけにもいかない。
その為に言い出したハイシアの人間、それも操ることができるガリオンが必須なのだ。
シャリオンの心情とは裏腹にガリオンはやる気にみなぎっていた。
問題を起こしたらシャリオンを悲しませるし、ガリウスの逆鱗に触れてしまうので最大限の注意を払いながら。
なお1歳児が街を歩くのはおかしいため、5歳児くらいの少年になっている。
ウルフ家のフォルクハルト・ウルフは3歳だが、サーベル国人特有の発達の良さで5歳児くらいには見える状態だ。
城門から調査を開始し歩き始めてしばらくたった後。
すっかり気も抜けてヴィスタを両腕でしっかり抱え街を歩く。
何度かフォルクハルトが変わろうかと申し出たが、ヴィスタはそれを嫌がりガリオンにくっついていた。
フォルクハルトはゾルと違い、何を言っているかわからないからだ。
ガリオンが落ちない様に抱え直す事数回。ヴィスタはシュタッと地面に降りる。
「にゃーん(もう大丈夫だ)」
「本当ですか?」
「にゃにゃ(あぁ。猫の様に歩ける)」
ヴィスタはこれまで猫になったことがないと言い、そのためにガリオンが抱いて歩いていたのだ。
確かに5歳児の体格で抱きかかえながら歩くのは大変だったが、手触りのいいヴィスタに心が惹かれるのに時間はかからなかった。
少し残念そうに見ていると「にゃーん」と鳴いて、ガリオンの足元に擦り寄ってきた。
それもまた可愛くて、ガリオンはほんわか笑顔を浮かべた。そんな時だ。
「にゃーん(臭いが強い)」
「!」
その言葉にハッとするガリオン。
忘れそうになっていた使命を思い出すとコクリと頷く。
「にゃんにゃん(全部終わったら好きにしてよい)」
その言葉にこくこくと頷くと再び2人と1匹で歩き回る。
まるで散歩をしてるかの様で、猫のヴィスタと街中を探索した。
まずは王都を囲む城壁から一番近い街を歩く。
確実にいる貴族街は最後に回る予定だ。
しかし、それが功を奏した。
念のためにと回ったのだが、早速出て来るとは思わなかった。
「ヴィー好きなところ歩いて良いです」
「にゃーん」
それはそちらに向かって良いと言う合図である。
ガリオンが付いていける速さであるくヴィスタ。
ヴィスタも猫型は初めてだが、ガリオンの歩幅を気遣ってくれている様だ。
沢山の人とすれ違いながらヴィスタが時折色んな方向に向いてすんすん匂いを嗅いでいる。
『まるで犬みたいな猫』と、すれ違う人々にクスクスと笑いながら言われているのが聞こえてくる。
確かにそうだ。
だが言われたヴィスタは気にせずにキョロキョロと探している。
とてとてと歩くヴィスタに続いて歩いていると、この辺に住んでいると思われる子供達があつまってきた。
「それお前の?」
「!う、うん」
同年代・・・では、ないのだがこんなに歳が近いのはアシュリー以外話したことがなくて驚いてしまった。
すこし、ドキドキしながらうなづけば興味津々の子供達の数人がヴィスタに夢中になる。
「わぁー!真っ白な猫!」
「にゃーん、かわいい」
きゃきゃと少し歳上くらいの子供達だ。見れば全員男児である。
ヴィスタはぎょっとしながらも、追いかけて触ろうとする子供たちからピョンピョンかわして跳ねている。
ガリオンも駆け出そうとすると、一番最初に話しかけてきた男児に声をかけられた。
「まて」
「?なんですか?」
「お前どこの家の人間だ」
「この辺じゃないです」
そういうと眉を顰められる。
本当の家はどちらの家も言えるわけがなく答えた。
「この城下町では行動の制限はないです」
見知らぬガリオンを排除しようとしているのかと思い、規則を破ってないと言おうとしたが、子供には「行動の制限」が伝わらなかったようだ。
普段大人とばかり対話をすることが多く、それも話せる事により貴族として領主としての教育により基本的には敬語を使っている為、子供には難しい口調になってしまったようだ。
シャリオンがガリオンやアシュリーに話しかけるような、柔らかい話し方を思い浮かべながらもう一度言った。
「えーっと。・・・この町に行っては行けないところはないでしょう?」
今度は伝わった様で眉を顰めた。
可笑しなことを言ってしまっただろうか。
「・・・お前・・・金持ちの家の子か?」
「普通の家です」
そう返答しても疑っているようでジロジロとこちらをみてくる。
平民の子供服を用意してもらったが、真新しく古く見えるようにすれば良かったとガリオンが思っていると・・・。
「にゃーん」
他の子供達と楽しげに遊んでいたヴィスタがその掴まれている腕に飛び乗るようにやってきた。
少年は咄嗟に手を離した。
ヴィスタはピョンとガリオンの肩まで跳ねうつると、ジッと少年をみた。
ただの白猫なのに獰猛な動物が静かに視線で威圧をする様は、子供達にも十分効くようでたじろいでいる。
「ヴィー。どうしたのですか」
「にゃーん」
突然威圧を始めたヴィスタの喉をくすぐるガリオン。
こんな様子は初めてだし先日の出来事を思い出した。
ヴィスタはガリオンには攻撃しないがそのほかはわからない。
目の前の子供達に何かしたらと思ったら、シャリオンの立場が危うくなりそうで気が気ではなかった。
「にゃーぅ」
心配げなガリオンの視線にヴィスタは、ガリオンの腕にずり落ちてきて、咄嗟に抱き抱えるとそこに収まるヴィスタ。
「もー・・・」
降りたり抱かれたがったり騒がしい。
そうため息をつきつつ、ガリオンはヴィスタを撫でながらも子供達をみた。
「じゃぁ僕はもう行きます」
「えー!どこいくの?」
「この辺わかる??」
「ねぇ。猫さん・・・触りたい」
まとわりついてきていた子供達は一瞬引いたのだが、諦めたわけではない様で、ガリオンの元にやってくる。
逆に面白がる子供達や猫に夢中な子供が集まって来る。
その中で1人だけガリオンの腕を掴んできた少年はこちらをじっとみてきた。
いや、そんなことよりもだ。
わらわらとくる子供達にガリオンは困ってしまう。
こんなに強引にくる人は初めてであり慌ててしまう。
けれど、両親以外に親しく話して来る「人」は珍しくて嫌な気はしない。
「ごめん!今は急いでいるんだ」
子供達との間にスッと手を差し出したのはフォルクハルトだ。
「お前は?」
「この子の兄だよ」
「ふーん?」
「全然似てないね」
「そうかな?」
にこにこと微笑むフォルクハルトに腕の中のヴィスタは興味津々に反応している。
それを不思議に思いながらもガリオンが答えた。
「えっと。
どこに行くかは決まってないのです。
この子のお散歩だから。
ね?お兄ちゃん」
「うん」
ガリオンとフォルクハルトがそういうと子供達は不思議そうにした。
「猫なのにお散歩するの?」
「それに抱っこしたまんまだし」
「抱っこしたい・・・」
「にゃ(やだ)」
そう言ってプイッと顔を背けるヴィスタにガリオンは苦笑した。
「くぁぁぁ・・・」
「ごめんなさい。なんか眠いみたい」
嫌がっていると言うわけにもいかず、欠伸し腕の中に頭を埋めたヴィスタが眠がっていることにした。
そんな様子に子供達の興味はガリオンに戻る。
「んー。まぁじゃ。猫はいいや」
「重そうだからもとうか?」
「寝ちゃったらどこにいくの?」
「えーっと・・・どうしようかな」
まだ帰るわけにはいかない。
なによりもヴィスタが魔物の気配を感じ取った後である。
腕の中のヴィスタは目を閉じたまま。
いつもなら起こすのだが、ここはハイシア領でも屋敷でもない。
思わずシャリオンやガリウスがうかんだが、こんな弱気では駄目である。
「重くなったら僕が持つから大丈夫。ね?」
「うん。それにそのうち目が覚めるから、」
フォルクハルトの助け舟にコクリと頷き、答えようとするガリオンを被せる様に子供達はきらきらとした眼差しをむけてきた。
「じゃあさ!俺達が案内してあげるよ!」
「いいな!」
「ボク・・・詳しい」
ただの観光ならそうも言えるが、そうではない為少し困っていると少年達の間に先程の子が割入って止めた。
「みんな!困ってるだろう?
ごめん。でも、この辺なら案内するから」
どうしても断れなさそうな気配にヴィスタが動く。
「にゃーん(仕方ない。・・・案外子供がいた方が歩きやすいかもしれないな)」
確かにそうかもしれない。
「猫は行きたいところあるのか?」
子供の問いかけにつんと顔をそむけるヴィスタにガリオンはため息をついた。
一緒に居た方が良いと言ったのはヴィスタである。
「ヴィ」
「にゃ(適当に街を歩かせれば良い)」
耳をピクピクと動かせながら、ガリオンに擦り寄るヴィスタ。
「ただこの街を歩きたいみたい」
「えーっと・・・お前なんていうの?」
「僕?・・・、リオ・・・です?」
ガリオン・ハイシアとは名乗れず咄嗟に出た名前はシャリオンの愛称で疑問系で返してしまった。
「にゃにゃにゃん(お前達は本当にシャリオンが好きだな)」
『お前達』とはガリオンとアシュリーの事である。
それは間違いがないのだが、『リオ』呼びしているのはライガーとルークにアンジェリーンであり、また盗み聞きの余罪を見つけてムッとしたのだが、子供達の嬉しそうな声でそれがとめられた。
「へぇ、リオか!兄ちゃんの方は?」
「ハルトだよ。よろしく」
そう答えると、子供たちはうんうんと頷いた。
「俺はネイト」
「可愛い名前だな。俺はフランツ」
「・・・確かに。可愛い。ピッタリ」
「お前も言わないと」
そう言って膝で突かれるとレイはハッとしてガリオンを見てくる。
「レイ。・・・よろしく」
3人は次々と教えてくれた後、残りの1人に視線が注がれると名前を教えてくれた。
「俺はアドルフ。ハルトとリオ・・・か。
うん。リオ・・・『可憐』で良い名前だ」
「・・・。よろしくお願いします」
大絶賛の子供達になんだかこそばゆく感じてガリオンは視線を逸らした。
そんなガリオンに子供達は機嫌をとる様にますます褒めてきて困惑していたが、子供達に導かれるまま街を歩いていく。
任務のために『さようなら』をしたいのだが、なんだか言えない空気。
・・・だめです。
今日ちゃんと見つけて、父上と父様を安心させなくては。
それにここはシュリィの住むところ。
両親は勿論アシュリーの事を思うと、騒ぎを起こして魔物の匂いが探せなくなるのは困る。
「・・・」
匂いは近くなっていると言うがなかなか辿り着けない。
ヴィスタが遊んでると言うことはなく、目を開けて匂いを嗅いで見せるのだが、見当たらない様で次第に苛立っていくのがわかる。
そんなヴィスタをひとなですると、その手に擦り寄って来た。
ガリオンにだけは甘える姿に、アドルフが呆れた声で覗き込んでくると皆も次々に口を開く。
「ヴィは気難しい猫だな」
「猫じゃないみたい」
どうやら猫が好きな様子のレイが、その言葉にムッとしたようにアドルフ達を睨んだ。
「とっても可愛いもん」
思わず笑うと皆がこちらを見てきて、その意味が解らずに笑うのを止め皆を見れば一斉に視線を逸らせた。
何か気に障ることをしてしまったのだろうかと考えていると、ネイトが唐突にヴィスタを覗き込んだ。
「ヴィは何か探してるみたいなんだけどな」
きょろきょろとしているヴィスタの様子に皆も気づいたらしい。
それくらいこの子供達と長く歩いているという事である。
子供達が付いてきてくれるので、特に気にしなかったが用事があるのかもしれない。
「まだ時間が掛かると思うので、今日はこの辺で」
「リオは帰るのか?送ってくいく」
「いえ。まだまわります」
疲れたのかと思い、帰そうとしてもガリオンが残るとわかると帰ろうとしない。
変わった人間の出現に面白がっているのかもしれない。
「お腹空いてるだけなのかも」
そんな風に誤魔化しながら注意深くヴィスタをみるも、見つかったとかそう言うのは無さそうだ。
すると、アドルフがある提案をしてくれた。
「それならうちにくるか?」
そんなお誘いに皆が大いに賛成し頷いた。
「宿屋をしてるんだよ!とってもご飯がうまいんだ」
「最近空いてるからたくさん食べられる!」
「ゲートが出来たからなの」
子供達が次々に言う言葉はシャリオンには聞かせられ無いなと思いつつ首を横に振った。
少なからず罪悪感あるからだ。
「いいえ。大丈夫です」
するとアドルフは眉を顰めた。
「お前も貧乏人の料理は口に合わないって?」
「そんな事考えてないです」
何故そんな返答に結びつくのか。思ってもない答えにガリオンは首を横に振った。
ガリオンとて市井には興味がありアドルフの親が経営する宿屋には興味がある。
しかし、今日はそれが目的ではないのだ。
そんなガリオンの都合を知る由もなく、強引に話を進める。
「なら来れるだろう?」
ここで問題を起こすには行かなくてガリオンはコクリと頷いた。
「・・・わかりました」
渋々な態度にムッとした様だったがそれでも言質を取ったアドルフは、ガリオンの肩に手を置いたが、その手はヴィスタにバシンと叩たかれた。
「うわっ」
「!ヴィー!」
「っ・・・大丈夫だ」
アドルフは驚き少し距離を取ってヴィスタの方を見ている。
「ヴぅー!!」
「っ」
ガリオンの腕の中でギっとアドルフ睨み唸り声を出すヴィスタにぎょっとする。
腕の中から飛び出る様子は無いが、手が届く範囲に入ると引っかきそうな気配にしっかりと抱き寄せた。
他の子供達はてっきり怯えるかと思いきや真逆の反応だった。
猫が本気で引っ掻いたら血が出るのを知っており、そうしないヴィスタに寧ろ感心しているのだ。
「猫さん・・・ヴィは唸るの?」
目を輝かせてガリオンの腕の中を覗き込むのはレイ。
先ほどのような唸りは無くなったがジッと見るヴィスタにガリオンの方が怪我をさせるのではないかと怯えてしまう。
この中で心配しているのはガリオンだけだった。
「こんなに可愛いのにな」
「危ない!噛まれるぞっ」
手を叩かれて強がって見せたが、ネイトやフランツが面白がってヴィスタを覗き込むのに慌てるアドルフ。
しかし、そんな様子のアドルフに怒りは収まったのかムッとして鳴くヴィスタ。
「なぁぁぁ・・・。(爪は出してないだろう。大げさな)
・・・にゃぁにゃ(お前も簡単に体を触らせるんじゃない。そんなところはシャリオンに似なくて良い)
なぅ・・・・(それにしてもゾルのやつめ。もっと使える奴を寄越せばいいのに)」
「・・・」
子供達、ガリオン、フォルクハルトの順に文句を言いながら鳴くヴィスタ。
先日の一件もあるからなのか、ちゃんと手を抜いてくれたのだろうか。
しかし、その言葉にはよくわからなくて首をかしげてしまう。
「にゃう・・・(もういい。小僧の家に行けるのは好都合だ)」
呆れたため息を吐くヴィスタに戸惑っていると、レイがヴィスタを覗き込んだ。
「猫さん・・・リオの事を守っているみたい」
「にゃぅ(近寄るな。お前も同じ目にあわせるぞ)」
「かわいい・・・」
「にゃぁぁ(噛まれたいのか?)」
すっかり目が据わりレイの言葉に今にも攻撃しそうだが、唸らないあたりアドルフよりは警戒していない様だ。
目が三角なヴィスタを無視してレイを見上げた。
「猫好きなんだね」
「うん。好き。・・・でも・・・これ以上は嫌われる」
ヴィスタが嫌がっているのが分かったからか、しょんぼりとして少し離れた。
アドルフはヴィスタには興味が無いようで急かしてくる。
「もーいいから行こうぜ!」
「アドルフは我がままだなぁ」
「本当にね。リオの自由にしてあげなよ」
「俺は・・・別に」
皆に口々に文句を言いわれて、強引だったと気づいたようでそれからはアドルフも少し自重した。
確かに強引ではあったが、ガリオンも楽しかった。
同じ歳の子供とは話せる年齢ではなく、思考共有を使えるウルフ家の子供以外と満足に話せないのだ。
今日で終わりの関係だと思っていたのだが、少し寂しく思いながら皆でアドルフの家の宿へと向かった。
大きい通りから一本入ったところにある宿は他の建物より少し大きめの物だった。
真新しさだとか豪華さだとかそう言ったものは無いが手入れの行き届いた宿である。
ゲートの所為で利用客が少なくなったと言うが、宿の前にも中にも利用客がいた。
アドルフに導かれるまま宿に入っていくと、受付の人間がこちらに気が付きニコリと微笑んだ。
「おかえりなさい。坊ちゃん」
「ただいま」
「おや?新しいお友達ですか」
「うん」
そう返事をするアドルフに不愉快そうにヴィスタの尻尾が揺れ足に当たってきていて、慰めるように背中を撫でる。
『友達』と称したのが気に入らないのかもしれないが、一方のガリオンは『今日だけの友達』でも嬉しかった。
「食堂行っても良いかな」
「ほとんどのお客様はお食事がすまされているようですが、もう少し待ってください。
一応給仕長に尋ねてきますから、談話室で待っていてください」
「わかった」
「うちのビーフシチューは看板メニューなので是非食べて行ってくださいね」
そう言って受付の男はガリオンにニコリと微笑んできてガリオンは会釈をした。
やたらニコニコとしていてなんだろうかと思っていると受付の男がちらりとアドルフを見た。
「坊ちゃんは面食いなようだ」
「マリオ!余計な事いうなよっ」
「すみませんねぇ」
受付の男がクスクスと笑うとアドルフは真っ赤になって怒っていた。何に対してその様な事を言ったのかわかる間もなく、その場から離され宿の奥に案内される。
客人同士が交流を深める為の談話室につくと、受付の男の話は気にしない様に言われながら準備ができるまで話している時だった。
ガリオンの膝の腕でヴィスタがすくりと立ち上がると、ジッと何処か視線で追っていてガリオンも続けば階段だった。
コツ・・・コツ・・・
二階から歩いてくる足音。
どこか上品な足音にも聞こえる。
不思議に思いつつ続いて感じた人の気配に、ガリオンとフォルクハルトもそちらに視線を向ければ突然張られた結界。張ったのはヴィスタだ。
「アイツが来たみたいだ」
「!」
姿を見ずともわかるのか忌々し気にそんな事を呟くアドルフに、誰か尋ねようとしたが足音がピタリと止まる。
「ん?」
すると踵を返したようで足音は再び去っていき、しばらくして扉の閉まる音がした。
そんな状態にアドルフの眉間の皺は余計に深くなり、そしてヴィスタが鳴いた。
「にゃーん(逃げたか)」
「え?」
「どうかした?リオ」
「!う、ううん」
興味を示したガリオンに怪訝そうな顔をするアドルフに慌てて頭を振りながらも足音がした方をみた。
「えっとなんか随分おしとやかな歩き方だなって思って」
そう言うとアドルフの眉間の皺がまたまた深くなる。
それをネイトとフランツがケタケタと笑い『本当にアイツのこと嫌いだなぁ』『振られちゃったからな』とからかった。
そんな2人をアドルフはジロリと睨んだ。
「多分お貴族様だよ」
「え?」
「気まぐれにここら辺の宿屋を日替わりに止まってる。もしかしたらハイシアの人間かもな」
「っ・・・なんで?」
「ゲートを作ったのはハイシアの貴族だって聞いた。だから暇になった宿屋をあざ笑いに来たんだ」
そんな風に考える人もいるとは思わなかった。
ガリオンはシャリオンとガリウスが作ったゲートを誇らしげに思っている。
それが出来ることで確実に利便性が上がり利点しかないと思っていたからだ。
そんな時だ。
「ばーか」
スッと現れたコック服の男にアドルフはパシンと頭をはたかれた。
「ったっ・・・て、兄ちゃん?」
「お前は何アホなことを言っているんだ。そんな馬鹿なことを考えていたのか?」
「だって!お客が来なくなったのは実際そうじゃないか!」
「だからと言って近くなるのは良いことだろう」
「けどっ」
「馬鹿なことを言っているな。だったらほかに稼ぐ方法を見つければいいんだ」
「っ」
「どう考えても1週間で旅して移動するよりも、1日でかつ安全に移動できた方が良いに決まってる。
多くの国民はゲートに大歓迎だ」
「・・・っ・・・けど・・・ハイシアの所為で」
「だーかーら。・・・はぁ・・・あんな・・・ハイシア様は目先のことだけを考えて作ったんじゃないんだぞ。
みんなの幸せを考えてお造りになったんだ」
「でもっ・・・でもっ!」
「はぁ・・・お前がな。たくさん賑わっていたこの宿屋を誇りに思っているのは、俺だって嬉しい。
けどな。それは・・・、・・・まだお前には難しいか」
そう言うとアドルフの兄は苦笑しながら頭をワシワシと撫でた。
「ほかの貴族は知らんが、あの方は違うんだよ。ゲートが出来たことはむしろハイシア領にとって損益だしな」
「違う・・・?」
思わずガリオンが訪ねると、アドルフの兄は見ない顔に驚いたようだったがニコリと微笑んだ。
「そうだ。ハイシア様はまず美人だ!
ほかの見た目だけの奴らとは違い心そのものが美しいお方だ。
それはすべての人にと言ってもいい。
情け深く困っている人がいたら手を差し出さずにはおられない方だ。
ほかの領地では見過ごす問題も、ハイシアではすぐさまに改善される。
・・・ここ王都もなぁ・・・悪くはないんだが、この宿もハイシアにあったらよかったのにて何度思ったことか」
「ハイシア・・・様が美人だからだろ。兄ちゃんは美人に弱い」
「「「それはアドルフも(じゃん)(じゃない)」」」
アドルフの兄への指摘に、子供達も思わず突っ込んだ。
すると、そんな反撃がくると思っていなかったアドルフはぎょっとして、ガリオンに言い訳をしてくる。
「おっ・・・俺はそんなんじゃないからな!」
そんな様子にアドルフの兄はけらけらと笑い、もう一度アドルフの頭をワシワシと撫でた。
「とにかくな。ハイシア様が美人だとかそんなのは関係なくてだな。
あの方はご立派なことをなさったんだ。
だからそんな風に言うのはやめるんだ」
「にゃーん(人間らしいがな)」
そんな声を聴きながらもガリオンは複雑だった。
アドルフの兄のように思ってくれるような人もいれば、アドルフのように考える人間もいるのだ。
すると、ヴィスタがガリオンの腹にすり寄ってきて、フォルクハルトも背中を撫でてくる。
見上げれば金色の瞳が慰めてくれているようだ。
ガリオンはアドルフの方を見直した。
「っ・・・わかったよ」
「そうか。流石俺の弟だな。さて。食事の準備ができたから呼びに来たんだ。
アドルフ。お前はその子達をエスコートして食堂まで連れてってやれ。ほれチビ共。お前たちは俺の手伝いだ」
「「「はーい」」」
そう言うとアドルフの兄はそこから去っていった。
子供たちはきゃっきゃと言いながらそのアドルフの後を追いかけていく。
それから、ガリオンとフォルクハルトはアドルフに食堂へエスコートされていくと、看板メニューと言われるシチューを出された。
そのころにはアドルフの様子はもとに戻っていた。
そして・・・それまで機嫌の悪そうだったヴィスタがシチューを出した途端に調子が良いことにアドルフに懐いた。
というかシチューを作ったというアドルフの兄に懐いたのだった。
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