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「が、学園を去れだぁ……? 王女様だとしても、誰に断って――」
「学園長に話はすでに通しております。あなたの退学処分はもう決まっています」
「……ははは。そうかいそうかい。クビですか」
ゲラゲラと笑うハルベルト。
卑しい目つきを私に向け、彼は続ける。
「ま、自分の国に帰れると思ったらいいか。こんなくだらない学園なんて、クビになって清々しますよ」
マリナ様が苛立ちを見せる。
ふざけた態度。
そしてこれ以上のことは、私にもできそうにない。
学園を追放したところで、彼は大して気にする素振りも見せないなんて。
私はそれを悔しく思い、ギュッと手を握り締めていた。
別の国の貴族に必要以上に手出しするわけにもいかない。
それを理解しているハルベルトは大笑いしながら私たちの横を通り過ぎて行く。
「では、さようなら、王女様」
マリナ様は私と同じように、彼の背中を睨み付けるだけ。
学園追放が私にできる精一杯だった。
もう私には何もできない。
まさかこんな結果に終わってしまうなんて……
そう落ち込んだ、その時であった。
「ハルベルト・ヴィルトン。少し待ちたまえ」
「……はぁ?」
キラ様が彼を呼び止める。
振り返ったハルベルトは、憤怒の形相をしている。
「お前……誰に向かってそんな口の聞き方してるんだ……俺は公爵家の人間で、お前は平民だぞ!? 分かってるのか!」
「…………」
キラ様は酷く落ち着いた様子でハルベルトを見据えていた。
そして淡々と話をする。
「……暴力を愉しむような輩に、侯爵なんて身分は相応しくない。君は貴族失格だ」
「だからー、誰に向かって口を聞いているんだ、耳が聞こえねえのか!?」
「聞こえているとも。君の勘に障るうるさい声はね」
「こいつ……」
ハルベルトはキラ様に近づき、彼の胸倉を掴んだ。
私はその手を引き剥がすために間に割り込もうとする。
しかし、キラ様は笑顔でそれを止めた。
「大丈夫ですよ、ティファ様」
「何が大丈夫なんだよ、何が? 平民風情が、あまり調子に――」
「ティファ様。あなたに隠し事があるように、私にも隠し事があるのです」
「隠し事……ですか?」
こんな時になんの話だろうと怪訝に思いながらも、私はキラ様の説明を待った。
キラ様はハルベルトの方を見ながら話を続ける。
「私はキラ・ファンダム……だが、それは偽りの名前なのだ」
「偽り……だと?」
「ああ。私は訳あって身分を隠し、この学園で生活をしていた」
「…………」
キラ様はニヤリと笑い、そして言う。
「私の本当の名前はキラ・ガーランド――ガーランドの第一王子だ」
「学園長に話はすでに通しております。あなたの退学処分はもう決まっています」
「……ははは。そうかいそうかい。クビですか」
ゲラゲラと笑うハルベルト。
卑しい目つきを私に向け、彼は続ける。
「ま、自分の国に帰れると思ったらいいか。こんなくだらない学園なんて、クビになって清々しますよ」
マリナ様が苛立ちを見せる。
ふざけた態度。
そしてこれ以上のことは、私にもできそうにない。
学園を追放したところで、彼は大して気にする素振りも見せないなんて。
私はそれを悔しく思い、ギュッと手を握り締めていた。
別の国の貴族に必要以上に手出しするわけにもいかない。
それを理解しているハルベルトは大笑いしながら私たちの横を通り過ぎて行く。
「では、さようなら、王女様」
マリナ様は私と同じように、彼の背中を睨み付けるだけ。
学園追放が私にできる精一杯だった。
もう私には何もできない。
まさかこんな結果に終わってしまうなんて……
そう落ち込んだ、その時であった。
「ハルベルト・ヴィルトン。少し待ちたまえ」
「……はぁ?」
キラ様が彼を呼び止める。
振り返ったハルベルトは、憤怒の形相をしている。
「お前……誰に向かってそんな口の聞き方してるんだ……俺は公爵家の人間で、お前は平民だぞ!? 分かってるのか!」
「…………」
キラ様は酷く落ち着いた様子でハルベルトを見据えていた。
そして淡々と話をする。
「……暴力を愉しむような輩に、侯爵なんて身分は相応しくない。君は貴族失格だ」
「だからー、誰に向かって口を聞いているんだ、耳が聞こえねえのか!?」
「聞こえているとも。君の勘に障るうるさい声はね」
「こいつ……」
ハルベルトはキラ様に近づき、彼の胸倉を掴んだ。
私はその手を引き剥がすために間に割り込もうとする。
しかし、キラ様は笑顔でそれを止めた。
「大丈夫ですよ、ティファ様」
「何が大丈夫なんだよ、何が? 平民風情が、あまり調子に――」
「ティファ様。あなたに隠し事があるように、私にも隠し事があるのです」
「隠し事……ですか?」
こんな時になんの話だろうと怪訝に思いながらも、私はキラ様の説明を待った。
キラ様はハルベルトの方を見ながら話を続ける。
「私はキラ・ファンダム……だが、それは偽りの名前なのだ」
「偽り……だと?」
「ああ。私は訳あって身分を隠し、この学園で生活をしていた」
「…………」
キラ様はニヤリと笑い、そして言う。
「私の本当の名前はキラ・ガーランド――ガーランドの第一王子だ」
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