没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

13

「キラ……ガーランド……？」


　唖然とするハルベルト。
　そんな彼にキラ様は冷たく言う。

「この手を放せ」

　パッと手を放したハルベルトの顔色は悪かった。
　まさか、自分が散々暴力を振るっていた相手が、自国の王子様だったとは。
　後悔と焦りが見えるハルベルトに、さらに続けるキラ様。

「君の両親は貴族らしからぬ悪行三昧をしているようだな」
「り、両親のことは知りません……」
「まぁ君が知らなくても別にいいのだけれど……とにかく、君の両親はやり過ぎた。君たち家族からは、爵位を剥奪させてもらう予定だ。これはもう父上が判断したことだから決定事項だ」
「そ、そんな……」
　
　高い身分から転げ落ちてしまうハルベルトは、愕然として膝をつく。
　キラ様は笑みをこぼしながら、追撃をする。

「君は相当恨みを買っているようだね。侯爵家でなくなる君がガーランドに戻ると……どうなると思う？」
「…………」
　
　顔面蒼白でキラ様を見上げるハルベルト。
　徐々に彼の身体は震え出す。

「この学園をクビになって精々したんだろ？　楽しい気分でガーランドに戻るといい」
「お、お願いですキラ様……俺を助けてください！」
「私が君を助ける？　あれだけ暴力を振るわれてきたのに？」
「う……」
「全ては自分の責任だ。今の自分を助けるのは過去の自分の行い。誰も君を助けることはないだろう。恨むなら過去の自分の行いを恨むんだな」

　そう言い放つとキラ様は、倒れている男子たちに言う。

「ああ。彼はもう貴族ではなくなるから、君たちの好きにするといいよ」
「お……お待ちください！」
「では、私たちは学園に戻るとしましょう、ティファ様」

　キラ様に促され、私とマリナ様は学園の方へとも戻って行く。
　
「お願いだ！　助けてくれ！」

　背後では、彼に暴力を振るわれてきた人たちの逆襲が始まろうとしていた。
　私たちはそれを見届けることなく、その場を立ち去る。

「……まさか、ガーランドの王子様だったとは」
「あはは……ティファ様と同じく、内緒にしていただけると嬉しいのですが」
「分かっております。この話は誰にも漏らしません」

　そう言ってマリナ様は教室へと戻っていく。
　私たちは彼女の背中を見送り、そして向い合う。

「お互い身分を隠していただなんて……私、驚きました」
「私もですよ……まさか王女様だなんて夢にも思っていませんでした」

　キラ様はお互いの身分が判明しようとも、同じ態度で接してくれる。
　それは私も同じだが……そんな彼の態度が嬉しかった。
　この人は、本当によくできた方なのだ。
　
　私は彼の眩いほどの笑顔を見て、胸をときめかせていた。