7 / 14
7
しおりを挟む
マリナ様がハルベルト様に対して目を光らせていたので、彼の暴力は影を潜めていた。
キラ様も最近は彼に手を出されていないらしく、穏やかな笑みをよく浮かべている。
「ティファ様のおかげで、ハルベルト様から何をされなくなりました。本当にありがとうございます」
「いいえ。私ではありません。マリナ様のお力です」
「でもそのマリナ様に伝えてくれたのはティファ様でしょう? だからティファ様のおかげです」
彼の笑顔にはなんとも言えない力というか、魅力を感じる。
人を思いやる気持ちに溢れた、本当の笑顔。
心の底から人に感謝している笑顔なのだ。
だから心に響く。
キラ様の笑顔は、私の心にするりと入り込む。
「よければ今日、町の方に出かけませんか? お礼代わりではないですが、ティファ様に食べてもらいたいものがあるのです」
「まぁ……なんでしょう。楽しみですわ」
彼が私に何かご馳走してくれるとのこと。
私は純粋にそれを喜び、ワクワクしていた。
いったい何を食べされてくれるのだろう。
学校が終わり、私はキラ様について町へと出た。
彼が歩くのは、人通りの少ない、少し怖さを感じる場所だ。
私は彼の服を掴みながらついて行く。
「大丈夫ですよ。案外、いい人が多いですから」
「は、はぁ……」
キラ様は堂々と歩き続ける。
そして到着したのは、出店が多く並ぶ商店であった。
その中にある一軒のお店に入って行くキラ様。
中はいくつか席がある、お店であった。
「おばさん。いつもの二つ下さい」
「あ、いつもありがとうね!」
注文をするキラ様。
私は席につき、運ばれてきた商品を凝視する。
あまり見たことないものだが……これはなんだろう?
「これはタルトと言って、ここらで人気の商品なのです」
「へー……」
クッキーのような生地に林檎が乗せられており、甘い香りがする。
口にしてみるとサクッという触感とリンゴの甘みが口に広がっていく。
「美味しい……こんな物があるなんて知りませんでした」
「貴族と我々平民では、常識が違いますからね。私も平民でいるからこそ、これを知ることができました」
タルトを食べながらキラ様は続ける。
「砂糖は高く、平民には手が出せない。だから比較的手に入りやすい果物や蜂蜜などを使用してお菓子を作っているのですよ」
「そうなのですね……」
私が知らない世界をキラ様が紹介してくれる。
それがなんだか嬉しくて、楽しくて、新鮮な気分だ。
彼は優しく色んな物を私に教えてくれた。
そんな時間が、いつの間にか無性に愛おしく思えて、私は温かい気持ちでキラ様の言葉に耳を傾け続けていた。
キラ様も最近は彼に手を出されていないらしく、穏やかな笑みをよく浮かべている。
「ティファ様のおかげで、ハルベルト様から何をされなくなりました。本当にありがとうございます」
「いいえ。私ではありません。マリナ様のお力です」
「でもそのマリナ様に伝えてくれたのはティファ様でしょう? だからティファ様のおかげです」
彼の笑顔にはなんとも言えない力というか、魅力を感じる。
人を思いやる気持ちに溢れた、本当の笑顔。
心の底から人に感謝している笑顔なのだ。
だから心に響く。
キラ様の笑顔は、私の心にするりと入り込む。
「よければ今日、町の方に出かけませんか? お礼代わりではないですが、ティファ様に食べてもらいたいものがあるのです」
「まぁ……なんでしょう。楽しみですわ」
彼が私に何かご馳走してくれるとのこと。
私は純粋にそれを喜び、ワクワクしていた。
いったい何を食べされてくれるのだろう。
学校が終わり、私はキラ様について町へと出た。
彼が歩くのは、人通りの少ない、少し怖さを感じる場所だ。
私は彼の服を掴みながらついて行く。
「大丈夫ですよ。案外、いい人が多いですから」
「は、はぁ……」
キラ様は堂々と歩き続ける。
そして到着したのは、出店が多く並ぶ商店であった。
その中にある一軒のお店に入って行くキラ様。
中はいくつか席がある、お店であった。
「おばさん。いつもの二つ下さい」
「あ、いつもありがとうね!」
注文をするキラ様。
私は席につき、運ばれてきた商品を凝視する。
あまり見たことないものだが……これはなんだろう?
「これはタルトと言って、ここらで人気の商品なのです」
「へー……」
クッキーのような生地に林檎が乗せられており、甘い香りがする。
口にしてみるとサクッという触感とリンゴの甘みが口に広がっていく。
「美味しい……こんな物があるなんて知りませんでした」
「貴族と我々平民では、常識が違いますからね。私も平民でいるからこそ、これを知ることができました」
タルトを食べながらキラ様は続ける。
「砂糖は高く、平民には手が出せない。だから比較的手に入りやすい果物や蜂蜜などを使用してお菓子を作っているのですよ」
「そうなのですね……」
私が知らない世界をキラ様が紹介してくれる。
それがなんだか嬉しくて、楽しくて、新鮮な気分だ。
彼は優しく色んな物を私に教えてくれた。
そんな時間が、いつの間にか無性に愛おしく思えて、私は温かい気持ちでキラ様の言葉に耳を傾け続けていた。
25
お気に入りに追加
1,660
あなたにおすすめの小説
【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね
祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」
婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。
ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。
その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。
「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」
*****
全18話。
過剰なざまぁはありません。
妹は私の婚約者と駆け落ちしました
今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ブレンダ男爵家の姉妹、カトリナとジェニーにはラインハルトとレオルという婚約者がいた。
姉カトリナの婚約者ラインハルトはイケメンで女性に優しく、レオルは醜く陰気な性格と評判だった。
そんな姉の婚約者をうらやんだジェニーはラインハルトと駆け落ちすることを選んでしまう。
が、レオルは陰気で不器用ではあるが真面目で有能な人物であった。
彼との協力によりブレンダ男爵家は次第に繁栄していく。
一方ラインハルトと結ばれたことを喜ぶジェニーだったが、彼は好みの女性には節操なく手を出す軽薄な男であることが分かっていくのだった。
婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
陰謀は、婚約破棄のその後で
秋津冴
恋愛
王国における辺境の盾として国境を守る、グレイスター辺境伯アレクセイ。
いつも眠たそうにしている彼のことを、人は昼行灯とか怠け者とか田舎者と呼ぶ。
しかし、この王国は彼のおかげで平穏を保てるのだと中央の貴族たちは知らなかった。
いつものように、王都への定例報告に赴いたアレクセイ。
彼は、王宮の端でとんでもないことを耳にしてしまう。
それは、王太子ラスティオルによる、婚約破棄宣言。
相手は、この国が崇めている女神の聖女マルゴットだった。
一連の騒動を見届けたアレクセイは、このままでは聖女が謀殺されてしまうと予測する。
いつもの彼ならば関わりたくないとさっさと辺境に戻るのだが、今回は話しが違った。
聖女マルゴットは彼にとって一目惚れした相手だったのだ。
無能と蔑まれていた辺境伯が、聖女を助けるために陰謀を企てる――。
他の投稿サイトにも別名義で掲載しております。
この話は「本日は、絶好の婚約破棄日和です。」と「王太子妃教育を受けた私が、婚約破棄相手に復讐を果たすまで。」の二話の合間を描いた作品になります。
宜しくお願い致します。
学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。
朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。
そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。
だけど、他の生徒は知らないのだ。
スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。
真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。
妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるラナーシャは、妹同伴で挨拶をしに来た婚約者に驚くことになった。
事前に知らされていなかったことであるため、面食らうことになったのである。
しかもその妹は、態度が悪かった。明らかにラナーシャに対して、敵意を抱いていたのだ。
だがそれでも、ラナーシャは彼女を受け入れた。父親がもたらしてくれた婚約を破談してはならないと、彼女は思っていたのだ。
しかしそんな彼女の思いは二人に裏切られることになる。婚約者は、妹が嫌がっているからという理由で、婚約破棄を言い渡してきたのだ。
呆気に取られていたラナーシャだったが、二人の意思は固かった。
婚約は敢え無く破談となってしまったのだ。
その事実に、ラナーシャの両親は憤っていた。
故に相手の伯爵家に抗議した所、既に処分がなされているという返答が返ってきた。
ラナーシャの元婚約者と妹は、伯爵家を追い出されていたのである。
程なくして、ラナーシャの元に件の二人がやって来た。
典型的な貴族であった二人は、家を追い出されてどうしていいかわからず、あろうことかラナーシャのことを頼ってきたのだ。
ラナーシャにそんな二人を助ける義理はなかった。
彼女は二人を追い返して、事なきを得たのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる