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 マリナ様がハルベルト様に対して目を光らせていたので、彼の暴力は影を潜めていた。
 キラ様も最近は彼に手を出されていないらしく、穏やかな笑みをよく浮かべている。

「ティファ様のおかげで、ハルベルト様から何をされなくなりました。本当にありがとうございます」
「いいえ。私ではありません。マリナ様のお力です」
「でもそのマリナ様に伝えてくれたのはティファ様でしょう? だからティファ様のおかげです」

 彼の笑顔にはなんとも言えない力というか、魅力を感じる。
 人を思いやる気持ちに溢れた、本当の笑顔。
 心の底から人に感謝している笑顔なのだ。
 だから心に響く。

 キラ様の笑顔は、私の心にするりと入り込む。

「よければ今日、町の方に出かけませんか? お礼代わりではないですが、ティファ様に食べてもらいたいものがあるのです」
「まぁ……なんでしょう。楽しみですわ」

 彼が私に何かご馳走してくれるとのこと。
 私は純粋にそれを喜び、ワクワクしていた。
 いったい何を食べされてくれるのだろう。

 学校が終わり、私はキラ様について町へと出た。
 彼が歩くのは、人通りの少ない、少し怖さを感じる場所だ。
 私は彼の服を掴みながらついて行く。

「大丈夫ですよ。案外、いい人が多いですから」
「は、はぁ……」

 キラ様は堂々と歩き続ける。
 そして到着したのは、出店が多く並ぶ商店であった。
 その中にある一軒のお店に入って行くキラ様。
 中はいくつか席がある、お店であった。

「おばさん。いつもの二つ下さい」
「あ、いつもありがとうね!」

 注文をするキラ様。
 私は席につき、運ばれてきた商品を凝視する。
 あまり見たことないものだが……これはなんだろう?

「これはタルトと言って、ここらで人気の商品なのです」
「へー……」

 クッキーのような生地に林檎が乗せられており、甘い香りがする。
 口にしてみるとサクッという触感とリンゴの甘みが口に広がっていく。

「美味しい……こんな物があるなんて知りませんでした」
「貴族と我々平民では、常識が違いますからね。私も平民でいるからこそ、これを知ることができました」

 タルトを食べながらキラ様は続ける。

「砂糖は高く、平民には手が出せない。だから比較的手に入りやすい果物や蜂蜜などを使用してお菓子を作っているのですよ」
「そうなのですね……」

 私が知らない世界をキラ様が紹介してくれる。
 それがなんだか嬉しくて、楽しくて、新鮮な気分だ。

 彼は優しく色んな物を私に教えてくれた。
 そんな時間が、いつの間にか無性に愛おしく思えて、私は温かい気持ちでキラ様の言葉に耳を傾け続けていた。
 
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