没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも

文字の大きさ
6 / 14

6

しおりを挟む
「キラ様……どうかいたしたのですか?」
「……ちょっとね」

 私は直感的に、ハルベルト様のことを思い浮かべていた。
 彼はこのロードサファル国の隣にある、ガーランド国からやって来た貴族の方。
 
 ハルベルト様はとても気性が荒く、そして人を虐げることを好みとしている男性とも聞く。
 キラ様は以前より痛みに耐えている節がある……
 これは、ハルベルト様が現れたことが影響しているのではないだろうか?

 そしてその予感は的中していた。

 翌日、クラスの男子に呼び出されたキラ様の後を私はつけた……
 すると、学園のすぐ隣にある森の中で、ハルベルト様がキラ様を待ち構えていたのだ。

 ハルベルト様は銀色の髪を逆立て、見るからに悪人面をしていた。
 こんなにも分かりやすい悪人がいるのだな、と私は妙に納得する。

 ハルベルト様はすでに数人の男子に暴力を振るっていたようで、彼の周囲には男子たちが倒れ込んでいた。
 この人、キラ様だけではなく、色んな方に暴力を振るっているの?

 腹の中で怒りが暴れ出す。
 この方は……黙って見過ごすわけにはいかない。

「キラくーん。今日も元気にいきますかぁ?」
「…………」

 おちょくるかのような口調でハルベルト様がキラ様に問いかける。
 元気なのはあなただけでしょう。
 キラ様は毅然としてはいるが、あからさまに嫌な顔をしている。
  
 これから彼は、どれほどの暴力を振るわれるのだろうか?
 考えるだけで寒気が走り、おぞましい。

 私はその場を離れ、マリナ様のもとまで急いだ。

「マリナ様! お力を貸してください!」
「慌ててどうしたの?」
「キラ様が……友人が暴力を振るわれそうなのです」
「なんですって?」

 私はマリナ様と共に、森へと急いだ。
 到着すると、キラ様は地面に倒れていた。

「ハルベルト・ヴィルトン……貴方は何をやっているの?」

 マリナ様の顔を見たハルベルト様は、ニヤリと気持ち悪い笑みをこぼす。

「これはこれはマリナ様。こんなところでどうなされたのですか?」
「……あなたが暴力を振るっているという話を聞きましたの」
「暴力? 俺が? いつどこで? 何をやったというのですか? もし俺がやったというのなら証拠を出してください」
「周りに倒れている者たちが何よりの証拠でしょう?」
「これが証拠になるのですか? おい、君たち。俺は君たちに暴力を振るったか?」

 ハルベルト様は真顔で、倒れているキラ様たちに訊く。
 すると一人の男子が「いいえ」とか細い声で答えた。

「ね? 俺は何もしていないのですよ。彼らはこの場で寝そべっていただけ。それだけなのですよ」

 ハルベルト様はニヤニヤ笑いながらこの場を去って行く。

 私は憤慨する気持ちを無理矢理抑えながら、そんな彼の背中を睨みつけていた。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

短編 一人目の婚約者を姉に、二人目の婚約者を妹に取られたので、猫と余生を過ごすことに決めました

朝陽千早
恋愛
二度の婚約破棄を経験し、すべてに疲れ果てた貴族令嬢ミゼリアは、山奥の屋敷に一人籠もることを決める。唯一の話し相手は、偶然出会った傷ついた猫・シエラル。静かな日々の中で、ミゼリアの凍った心は少しずつほぐれていった。 ある日、負傷した青年・セスを屋敷に迎え入れたことから、彼女の生活は少しずつ変化していく。過去に傷ついた二人と一匹の、不器用で温かな共同生活。しかし、セスはある日、何も告げず姿を消す── 「また、大切な人に置いていかれた」 残された手紙と金貨。揺れる感情と決意の中、ミゼリアはもう一度、失ったものを取り戻すため立ち上がる。 これは、孤独と再生、そして静かな愛を描いた物語。

姉の婚約者を奪おうとする妹は、魅了が失敗する理由にまだ気付かない

柚木ゆず
恋愛
「お姉ちゃん。今日からシュヴァリエ様は、わたしのものよ」  いつも私を大好きだと言って慕ってくれる、優しい妹ソフィー。その姿は世間体を良くするための作り物で、本性は正反対だった。実際は欲しいと思ったものは何でも手に入れたくなる性格で、私から婚約者を奪うために『魅了』というものをかけてしまったようです……。  でも、あれ?  シュヴァリエ様は引き続き私に優しくしてくださって、私を誰よりも愛していると仰ってくださいます。  ソフィーに魅了されてしまったようには、思えないのですが……?

【完結】婚約破棄?ってなんですの?

紫宛
恋愛
「相も変わらず、華やかさがないな」 と言われ、婚約破棄を宣言されました。 ですが……? 貴方様は、どちら様ですの? 私は、辺境伯様の元に嫁ぎますの。

見た目を変えろと命令したのに婚約破棄ですか。それなら元に戻るだけです

天宮有
恋愛
私テリナは、婚約者のアシェルから見た目を変えろと命令されて魔法薬を飲まされる。 魔法学園に入学する前の出来事で、他の男が私と関わることを阻止したかったようだ。 薬の効力によって、私は魔法の実力はあるけど醜い令嬢と呼ばれるようになってしまう。 それでも構わないと考えていたのに、アシェルは醜いから婚約破棄すると言い出した。

姉の代わりになど嫁ぎません!私は殿方との縁がなく地味で可哀相な女ではないのだから─。

coco
恋愛
殿方との縁がなく地味で可哀相な女。 お姉様は私の事をそう言うけど…あの、何か勘違いしてません? 私は、あなたの代わりになど嫁ぎませんので─。

妹と王子殿下は両想いのようなので、私は身を引かせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナシアは、第三王子との婚約を喜んでいた。 民を重んじるというラナシアの考えに彼は同調しており、良き夫婦になれると彼女は考えていたのだ。 しかしその期待は、呆気なく裏切られることになった。 第三王子は心の中では民を見下しており、ラナシアの妹と結託して侯爵家を手に入れようとしていたのである。 婚約者の本性を知ったラナシアは、二人の計画を止めるべく行動を開始した。 そこで彼女は、公爵と平民との間にできた妾の子の公爵令息ジオルトと出会う。 その出自故に第三王子と対立している彼は、ラナシアに協力を申し出てきた。 半ば強引なその申し出をラナシアが受け入れたことで、二人は協力関係となる。 二人は王家や公爵家、侯爵家の協力を取り付けながら、着々と準備を進めた。 その結果、妹と第三王子が計画を実行するよりも前に、ラナシアとジオルトの作戦が始まったのだった。

婚約者マウントを取ってくる幼馴染の話をしぶしぶ聞いていたら、あることに気が付いてしまいました 

柚木ゆず
恋愛
「ベルティーユ、こうして会うのは3年ぶりかしらっ。ねえ、聞いてくださいまし! わたくし一昨日、隣国の次期侯爵様と婚約しましたのっ!」  久しぶりにお屋敷にやって来た、幼馴染の子爵令嬢レリア。彼女は婚約者を自慢をするためにわざわざ来て、私も婚約をしていると知ったら更に酷いことになってしまう。  自分の婚約者の方がお金持ちだから偉いだとか、自分のエンゲージリングの方が高価だとか。外で口にしてしまえば大問題になる発言を平気で行い、私は幼馴染だから我慢をして聞いていた。  ――でも――。そうしていたら、あることに気が付いた。  レリアの婚約者様一家が経営されているという、ルナレーズ商会。そちらって、確か――

処理中です...