1 / 257
第一章
プロローグ
しおりを挟む富士峰高校1年B組、吉田障子
平均より数センチ背が低い。猫っ毛の天パ。大きな瞳にかかる黒髪。趣味は読書と植物観察。内向的で友達が少なく、昼休みは旧校舎裏の木陰で過ごす。
小学生の頃のあだ名は「王子」
初夏の晴天。暑苦しいクラスの開け放たれた窓。教壇で話す世界史の教師、福山茂男の声がはためく白いカーテンに隠れ青い空の向こうへと飛ばされていく。
恋をしているのかな……。
消しゴムの表明を親指で擦っていた吉田障子は、先程から、斜め前に座っている女生徒に心を奪われていた。静かな夏の風に三原千夏の長い髪をサラサラと流れる。細い毛先。眩い日差しに煌めく黒髪。授業中にも関わらず障子はその黒板を見つめる千夏の可憐な白い頬から目が離せなかった。
「こら! 授業に集中せんか!」
ビクッと肩を震わせた障子は慌てて黒板に向き直ると、咄嗟に、小声で「すいません」と謝った。
だが、福山の視線は廊下側の田川明彦に向けられていた。お調子者の明彦はまるで自分以外の誰かが注意されたかのようにキョトンとした表情をすると、キョロキョロとクラスメイト達を見渡し始める。ドッとクラスに笑い声が広がった。ほっそりとした指で唇を覆った千夏の笑顔が眩しい。あまりの恥ずかしさに全身から汗が吹き出した障子は、こっそりと机の中から下敷きを取り出すと、俯きがちに制服の中を扇いだ。
世界史の授業が終わると昼休みのチャイムが教室に鳴り響いた。途端に騒がしくなるクラスメイト達。仲の良い友達と集まって弁当箱を開く女子。購買に走る男子。中には部活の練習の為に着替え始めるものもいた。
のそっと立ち上がった障子は弁当箱を両手に持ち上げると教室を抜け出した。階段を降りると正面玄関に向かって歩みを進める。日陰の涼しい昇降口で運動靴に履き替えた障子は誰もいない旧校舎裏を目指した。
古い木造の校舎には演劇部の女生徒たちが出入りしているらしい。だが、昼休みの旧校舎は静かだった。裏に回るとグネグネと折れ曲がった大きなシダレヤナギがあり、そのヤナギの木には戦前の女生徒の幽霊が出るという噂があった為に、一部の生徒を除いて誰もその木に近付こうとはしなかったのだ。幸いにも、障子はまだその幽霊に出会ったことがなかった。
そよ風に流れるシダレヤナギの枝を眺めながら昼飯を食べるのが障子の日課である。さっそく特等席の石段に座ると障子は弁当箱を開いた。
障子には「王子」というあだ名があった。本人にとっては全く有り難くないあだ名ではあったが、それを付けてくれたのがまだ小学生に上がったばかりの頃の三原千夏だった。その「王子」というあだ名は小学生の頃に流行して、中学に上がると風に吹かれる塵のように何処かへと消えてしまった。中学生の頃の障子は今よりも多感で臆病でよく学校を休んでいたのだ。
障子は「王子」というあだ名は大嫌いだった。未だにそれでからかってくる者もいるくらいなのだ。だが、あだ名を付けてくれた千夏の事はどうしても忘れられなかった。
何で僕に王子というあだ名を付けたのだろう。名前が似ていたからだろうか。もしも別の理由があるのなら、聞いてみたい……。
静かに流れるシダレヤナギの青葉。赤いソーセージを箸で持ち上げた障子は、ため息を付きながらそれを口に運んだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる