69 / 150
第二章 ガイアの遺伝子編
#69 虹
しおりを挟む
来人とイリスは不死鳥と化し依然暴走を続けるイリスの兄ジャックを止める為、戦う。
来人は自身の色『鎖』と『泡沫』を使う。
周囲には何本もの大樹が生えており、それらの木々の間全ては“隙間”だ。
木々の隙間から鎖を生成し、業火を纏う不死鳥の身体を拘束。
そして水のバブルを産み出してぶつける事で、その業火を消化しようと試みる。
しかし、不死鳥のごうごうと燃え盛る炎はその勢い衰える事無く、バブルの水全てをその灼熱を以て蒸発させてしまう。
そして――、
「――くそっ。駄目だ、鎖も溶かされてしまう!」
拘束していたはずの鎖も、不死鳥の炎の前にはどろりと溶け落ちる。
切断にはめっぽう強い来人の『鎖』も、完全ではない。
炎の翼を羽ばたかせ身を捩れば、それだけで意とも容易く抜け出されてしまった。
イリスの色は『虹』だ。
自身の四肢だけを元の獣の鋭い爪に変え、そこに虹のオーラを纏う。
『虹』とはつまり、七つの色。
その力はあらゆる相手の色に対応し、相反する色をぶつける事でその色を中和する。
その一撃であらゆる相手に対して“弱体化”のデバフを与え、じわじわと得物を追い詰める。
そして色を中和され弱体化した果てに、他の色はイリスの虹によって塗り潰されてしまうだろう。
――本来であれば、の話だが。
「駄目ですわ! わたくしの色も、掻き消されてしまう――」
今相対しているのはガイア族本来の力、翼の姿を解放したジャックだ。
その上謎の力を受けて暴走状態、通常の数倍にパワーアップしている。
イリスの『虹』は確かに七色の力を持つが、それら一つ一つの色は決して強い物では無い。
あくまで効率的に有効な色をぶつける事で成立する。
不死鳥と化したジャックの圧倒的な業火、その一色を前にイリスの虹は掻き消されてしまう。
より強いく濃い色に、塗り潰されてしまう。
イリスはこれまで、兄のジャックに負けた事は無い。
それはジャックが弱かったからではなく、イリスが強すぎたからだ。
しかしそのパワーバランスも今は崩れ、イリスは暴走するジャックに対して成すすべがない。
来人とイリスは一度ジャックから距離を取り、合流する。
「坊ちゃま、このままでは――」
「ああ。だが、殺す訳にはいかない」
そう。決して単純なパワー負けだけが苦戦する原因ではない。
相手は暴走状態だと言ってもイリスの兄であり、来人達の目的はその暴走を止める事だ。
命を奪わない様に、と無意識下で力のセーブが掛ってしまう。
手加減をした上で勝利を収める為には、それ相応の力量差が無くてはならない。
しかし、来人達と暴走状態のジャックとの間にはその力量差が無かった。
その後しばらく口を噤んで炎の嵐を吹き荒す不死鳥と化した兄を見つめていたイリスだったが、おもむろに口を開く。
「――坊ちゃま。わたくしと、契約を致しましょう」
その口から飛び出た意外な言葉に、来人は目を見開く。
「何を言ってるんだ。イリスは、父さんの契約者だろう」
イリスは来人の父であり、最強の神である来神の契約者だ。
来神から神格を与えられ、ジャガーの姿から今の人型――金髪のメイドの姿となっている。
だから、今来人とイリスが契約する事は出来ないはずだ。
そんな来人の疑問に、イリスは優しく、そして切なげに微笑み答えてくれた。
「ええ。ですから、旦那様との契約は破棄させて頂きますわ。元々、そうして良いよ旦那様からは言われてしましたの」
「父さんが、そんな事を……? どうして、そんな」
「『きっと俺よりもお前に相応しい男が居るはずだ。だから、好きな時に好きな所へ行け』と。それが旦那様の――、ライジン様のお言葉ですわ。その時は、わたくしもそんな訳がないと首を横に振りました。でも、今なら分かりますわ」
本来の契約は主人たる神に主導権が有る物だ。
しかし、来神はいつでもイリスが自分の元を離れられるように、イリスに主導権を渡すという他の神からすれば考えられない様な異例な契約をした。
その理由も、意味も、当時誰も分からなかった。
しかし――、
イリスは来人に手を差し伸べる。
「ライジン様は、わたくしの内なる望みすら見通してらしたんですわ。――わたくしは、主人の隣で戦いたかった。一度くらい、お傍に立って共に戦いたかった」
来神はこうなる事すら予期していたのだろうか。
イリスは今がその時だと確信している。
これこそが、主人の思惑なのだと。
来神は文字通り“最強”だ。
それは百鬼夜行戦でも単騎で駆り出され、その圧倒的力で二体の上位個体が融合した『双頭』の鬼を一振りで葬り去ったその力からも一目瞭然だ。
だからこそ、イリスはこれまで来神の隣で共に戦った経験がただの一度たりとも無かった。
イリスは最初から最後まで、来神に仕える“メイド”だった。
それでも、それに不満が有った訳では無い。
来神の契約者という事はイリスにとっての誇りだった。
しかし、それでも心のどこかで、ほんの少しだけ思ってしまうのだ。
――“たった一度でいい。だから、あの人の隣で共に”と。
しかし、その願いが叶う事は無かった。
来神は最後まで一人で戦い抜き、王位継承戦を圧倒的な差を付けて勝ち抜いた。
そして王となる権利を目の前にしてその権利を放棄し、そのまま前線を退いてしまった。
今では当時の面影も薄れ、見る影も無い肥えた姿となっている。
「イリス……」
来人はイリスの手を取る事を躊躇っている。
自分は父親に劣る、そんな自分にイリスの手を取る資格が有るのか、と。
そして、イリスの望みを望む形で叶えられるのか、と。
イリスはそんな来人の迷いすら見通した様に、優しい微笑みのままその背中を押す。
「坊ちゃま。わたくしのそんな些細な願いを、坊ちゃまが叶えて下さいませんか? わたくしに力を貸してください。共に、兄を救ってください。ライジン様では無い、坊ちゃまにしかそれは出来ないのです」
イリスの願いに、来人は呼応する。
そこまで言わせて、答えない訳には行かない。
「――分かった。来い、イリス」
「はい、坊ちゃま」
――二人の周囲を、眩い光が包み込む。
ガーネ、そしてジューゴに続いて、来人にとって三人目のガイア族の契約者。
今この瞬間、この場で契約をする意味。
それは言葉にしなくとも、来人も理解していた。
来人だけでは、そしてイリスだけでは、暴走状態のジャックを止められない。
だからこそ、力を合わせる。
二人の器を重ね、更なる高みへと昇る。
――憑依混沌。
眩い光のベールが溶けて行き、その姿が露わとなる。
四肢は獣、鋭く輝く爪が両腕に。
背には翼と見紛う程に大きく広がる鎖の腕。
虹色の闘気を纏い、荒々しい金色の長髪を降ろす。
来人とイリスの合わさった、憑依混沌の姿だ。
来人の装備しているコンタクトレンズ『メガ・レンズ』によって、今現在のステータスがモニターされている。
その視界の端に表示された値はシンクロ率40%だ。
以前にジューゴと憑依混沌した際の数値は20%であり、それと比べれば格段に危険域に近い数値だ。
これ以上のシンクロ率の上昇はイリスの器を呑み込んでしまうリスクを伴う、ギリギリの状態。
長時間の融合は出来ない、一撃で片を付ける必要が有るだろう。
しかし、来人にもイリスにも恐れは無かった。
これまでに感じた事が無い程の、圧倒的全能感。
『――坊ちゃま! これなら、行けますわ!』
『ああ。行くぞ』
二人はジャックに向かって、爪を振り下ろす。
その色は『虹』。
七色を内包した美しく輝く波動に彩られ、ジャックの色を中和して行く。
先程までと違い、確実に効果が表れている。
ジャックの炎の勢いが弱まり、動きも鈍くなっている。
来人の王の波動と合わさる事により、イリスの『虹』は他の色を塗り潰す程の眩い光を放つ。
――ああ。わたくしは、幸せですわ。今、坊ちゃまのお傍で共に戦っている。
神に仕えるガイア族、その本分を人生で初めて果たしたイリスは、爪を振るいジャックと戦う中多幸感に包まれていた。
絶対的な勝利の確信が、圧倒的力量差により生まれた余裕が、ジャックを殺す事無くその戦力を削いでいく。
『虹』の色がジャックの色を中和して行き、弱体化のデバフを与える。
『ジャック! イリスが待っている、帰ってこい!!』
『お兄様! 目を覚ましてください!』
最後の一撃。
虹の闘気を纏った拳を、不死鳥の身体に叩き込む。
その勢いでジャックは地に叩き付けられ、ボロボロとその翼は崩れ落ちて行く。
そして完全に崩れ落ち灰となった不死鳥の身体から、浅く呼吸をするジャガーの姿をしたジャックが現れた。
ボロボロだが、生きている。
リンクフォレストの森を燃やしていた炎もジャックの波動によるものだ。
ジャックが倒れれば、その炎も少しずつ静まって行き、やがて完全に鎮火した。
そして、倒れるジャックの身体からはまた水の大地の時と同じ様に黒い靄の様な何かが這い出て来る。
来人はその靄を追おうとするが、そのタイミングで憑依混沌により繋がっていた来人とイリスもその融合が解ける。
ふらりと倒れかけるイリスを、来人は抱き止める。
「大丈夫か、イリス」
「はい、坊ちゃま。すみません、少しはしゃぎすぎてしまったみたいですわ」
「よくやった。お前のおかげで、リンクフォレストは守られた」
「いいえ、わたくしだけでは有りませんわ。リンクフォレストの皆と、そして何より坊ちゃまの力有ってこそですわ。それよりも――」
気づけば、黒い靄はどこかへ消えてしまっていた。
辺りを見回してみるが、完全に見失ってしまった様だ。
そうしていると、消化班に加勢していたガーネとジューゴが駆けて来て、合流。
「らいたん! イリス!」
「大丈夫ですかー!?」
二人は状況を見てすぐに二人の無事を確認、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。
すぐに倒れるジャックの方に意識を向ける。
「ジャックの手当てをしたい。ガーネ、ジューゴ、運ぶのを手伝ってくれ」
来人の要請の元、ジャックはジューゴの背に乗せられてリンクフォレストの救護班の元へ運ばれて行く。
直ちに適切な処置が施されて、時期に目を覚ますだろう。
「それにしても、お兄様はどうしてこんな事に……」
「ジュゴロクの時と同じ、突然の暴走……。ジャックさんが目を覚ませば、何か話を聞けるかもしれません」
「あら。坊ちゃま、戻ってしまったのですね?」
気付けば、戦闘を終えた来人は神化が解け髪色は白金から茶へと戻っていた。
そんな来人を見てイリスは少し残念そうな声色を漏らす。
「戻ってしまったって、駄目でした?」
「いえ。あの坊ちゃまも格好良かったな、と少し思っただけですわ」
と、イリスは少し悪戯っぽく笑うのだった。
来人は自身の色『鎖』と『泡沫』を使う。
周囲には何本もの大樹が生えており、それらの木々の間全ては“隙間”だ。
木々の隙間から鎖を生成し、業火を纏う不死鳥の身体を拘束。
そして水のバブルを産み出してぶつける事で、その業火を消化しようと試みる。
しかし、不死鳥のごうごうと燃え盛る炎はその勢い衰える事無く、バブルの水全てをその灼熱を以て蒸発させてしまう。
そして――、
「――くそっ。駄目だ、鎖も溶かされてしまう!」
拘束していたはずの鎖も、不死鳥の炎の前にはどろりと溶け落ちる。
切断にはめっぽう強い来人の『鎖』も、完全ではない。
炎の翼を羽ばたかせ身を捩れば、それだけで意とも容易く抜け出されてしまった。
イリスの色は『虹』だ。
自身の四肢だけを元の獣の鋭い爪に変え、そこに虹のオーラを纏う。
『虹』とはつまり、七つの色。
その力はあらゆる相手の色に対応し、相反する色をぶつける事でその色を中和する。
その一撃であらゆる相手に対して“弱体化”のデバフを与え、じわじわと得物を追い詰める。
そして色を中和され弱体化した果てに、他の色はイリスの虹によって塗り潰されてしまうだろう。
――本来であれば、の話だが。
「駄目ですわ! わたくしの色も、掻き消されてしまう――」
今相対しているのはガイア族本来の力、翼の姿を解放したジャックだ。
その上謎の力を受けて暴走状態、通常の数倍にパワーアップしている。
イリスの『虹』は確かに七色の力を持つが、それら一つ一つの色は決して強い物では無い。
あくまで効率的に有効な色をぶつける事で成立する。
不死鳥と化したジャックの圧倒的な業火、その一色を前にイリスの虹は掻き消されてしまう。
より強いく濃い色に、塗り潰されてしまう。
イリスはこれまで、兄のジャックに負けた事は無い。
それはジャックが弱かったからではなく、イリスが強すぎたからだ。
しかしそのパワーバランスも今は崩れ、イリスは暴走するジャックに対して成すすべがない。
来人とイリスは一度ジャックから距離を取り、合流する。
「坊ちゃま、このままでは――」
「ああ。だが、殺す訳にはいかない」
そう。決して単純なパワー負けだけが苦戦する原因ではない。
相手は暴走状態だと言ってもイリスの兄であり、来人達の目的はその暴走を止める事だ。
命を奪わない様に、と無意識下で力のセーブが掛ってしまう。
手加減をした上で勝利を収める為には、それ相応の力量差が無くてはならない。
しかし、来人達と暴走状態のジャックとの間にはその力量差が無かった。
その後しばらく口を噤んで炎の嵐を吹き荒す不死鳥と化した兄を見つめていたイリスだったが、おもむろに口を開く。
「――坊ちゃま。わたくしと、契約を致しましょう」
その口から飛び出た意外な言葉に、来人は目を見開く。
「何を言ってるんだ。イリスは、父さんの契約者だろう」
イリスは来人の父であり、最強の神である来神の契約者だ。
来神から神格を与えられ、ジャガーの姿から今の人型――金髪のメイドの姿となっている。
だから、今来人とイリスが契約する事は出来ないはずだ。
そんな来人の疑問に、イリスは優しく、そして切なげに微笑み答えてくれた。
「ええ。ですから、旦那様との契約は破棄させて頂きますわ。元々、そうして良いよ旦那様からは言われてしましたの」
「父さんが、そんな事を……? どうして、そんな」
「『きっと俺よりもお前に相応しい男が居るはずだ。だから、好きな時に好きな所へ行け』と。それが旦那様の――、ライジン様のお言葉ですわ。その時は、わたくしもそんな訳がないと首を横に振りました。でも、今なら分かりますわ」
本来の契約は主人たる神に主導権が有る物だ。
しかし、来神はいつでもイリスが自分の元を離れられるように、イリスに主導権を渡すという他の神からすれば考えられない様な異例な契約をした。
その理由も、意味も、当時誰も分からなかった。
しかし――、
イリスは来人に手を差し伸べる。
「ライジン様は、わたくしの内なる望みすら見通してらしたんですわ。――わたくしは、主人の隣で戦いたかった。一度くらい、お傍に立って共に戦いたかった」
来神はこうなる事すら予期していたのだろうか。
イリスは今がその時だと確信している。
これこそが、主人の思惑なのだと。
来神は文字通り“最強”だ。
それは百鬼夜行戦でも単騎で駆り出され、その圧倒的力で二体の上位個体が融合した『双頭』の鬼を一振りで葬り去ったその力からも一目瞭然だ。
だからこそ、イリスはこれまで来神の隣で共に戦った経験がただの一度たりとも無かった。
イリスは最初から最後まで、来神に仕える“メイド”だった。
それでも、それに不満が有った訳では無い。
来神の契約者という事はイリスにとっての誇りだった。
しかし、それでも心のどこかで、ほんの少しだけ思ってしまうのだ。
――“たった一度でいい。だから、あの人の隣で共に”と。
しかし、その願いが叶う事は無かった。
来神は最後まで一人で戦い抜き、王位継承戦を圧倒的な差を付けて勝ち抜いた。
そして王となる権利を目の前にしてその権利を放棄し、そのまま前線を退いてしまった。
今では当時の面影も薄れ、見る影も無い肥えた姿となっている。
「イリス……」
来人はイリスの手を取る事を躊躇っている。
自分は父親に劣る、そんな自分にイリスの手を取る資格が有るのか、と。
そして、イリスの望みを望む形で叶えられるのか、と。
イリスはそんな来人の迷いすら見通した様に、優しい微笑みのままその背中を押す。
「坊ちゃま。わたくしのそんな些細な願いを、坊ちゃまが叶えて下さいませんか? わたくしに力を貸してください。共に、兄を救ってください。ライジン様では無い、坊ちゃまにしかそれは出来ないのです」
イリスの願いに、来人は呼応する。
そこまで言わせて、答えない訳には行かない。
「――分かった。来い、イリス」
「はい、坊ちゃま」
――二人の周囲を、眩い光が包み込む。
ガーネ、そしてジューゴに続いて、来人にとって三人目のガイア族の契約者。
今この瞬間、この場で契約をする意味。
それは言葉にしなくとも、来人も理解していた。
来人だけでは、そしてイリスだけでは、暴走状態のジャックを止められない。
だからこそ、力を合わせる。
二人の器を重ね、更なる高みへと昇る。
――憑依混沌。
眩い光のベールが溶けて行き、その姿が露わとなる。
四肢は獣、鋭く輝く爪が両腕に。
背には翼と見紛う程に大きく広がる鎖の腕。
虹色の闘気を纏い、荒々しい金色の長髪を降ろす。
来人とイリスの合わさった、憑依混沌の姿だ。
来人の装備しているコンタクトレンズ『メガ・レンズ』によって、今現在のステータスがモニターされている。
その視界の端に表示された値はシンクロ率40%だ。
以前にジューゴと憑依混沌した際の数値は20%であり、それと比べれば格段に危険域に近い数値だ。
これ以上のシンクロ率の上昇はイリスの器を呑み込んでしまうリスクを伴う、ギリギリの状態。
長時間の融合は出来ない、一撃で片を付ける必要が有るだろう。
しかし、来人にもイリスにも恐れは無かった。
これまでに感じた事が無い程の、圧倒的全能感。
『――坊ちゃま! これなら、行けますわ!』
『ああ。行くぞ』
二人はジャックに向かって、爪を振り下ろす。
その色は『虹』。
七色を内包した美しく輝く波動に彩られ、ジャックの色を中和して行く。
先程までと違い、確実に効果が表れている。
ジャックの炎の勢いが弱まり、動きも鈍くなっている。
来人の王の波動と合わさる事により、イリスの『虹』は他の色を塗り潰す程の眩い光を放つ。
――ああ。わたくしは、幸せですわ。今、坊ちゃまのお傍で共に戦っている。
神に仕えるガイア族、その本分を人生で初めて果たしたイリスは、爪を振るいジャックと戦う中多幸感に包まれていた。
絶対的な勝利の確信が、圧倒的力量差により生まれた余裕が、ジャックを殺す事無くその戦力を削いでいく。
『虹』の色がジャックの色を中和して行き、弱体化のデバフを与える。
『ジャック! イリスが待っている、帰ってこい!!』
『お兄様! 目を覚ましてください!』
最後の一撃。
虹の闘気を纏った拳を、不死鳥の身体に叩き込む。
その勢いでジャックは地に叩き付けられ、ボロボロとその翼は崩れ落ちて行く。
そして完全に崩れ落ち灰となった不死鳥の身体から、浅く呼吸をするジャガーの姿をしたジャックが現れた。
ボロボロだが、生きている。
リンクフォレストの森を燃やしていた炎もジャックの波動によるものだ。
ジャックが倒れれば、その炎も少しずつ静まって行き、やがて完全に鎮火した。
そして、倒れるジャックの身体からはまた水の大地の時と同じ様に黒い靄の様な何かが這い出て来る。
来人はその靄を追おうとするが、そのタイミングで憑依混沌により繋がっていた来人とイリスもその融合が解ける。
ふらりと倒れかけるイリスを、来人は抱き止める。
「大丈夫か、イリス」
「はい、坊ちゃま。すみません、少しはしゃぎすぎてしまったみたいですわ」
「よくやった。お前のおかげで、リンクフォレストは守られた」
「いいえ、わたくしだけでは有りませんわ。リンクフォレストの皆と、そして何より坊ちゃまの力有ってこそですわ。それよりも――」
気づけば、黒い靄はどこかへ消えてしまっていた。
辺りを見回してみるが、完全に見失ってしまった様だ。
そうしていると、消化班に加勢していたガーネとジューゴが駆けて来て、合流。
「らいたん! イリス!」
「大丈夫ですかー!?」
二人は状況を見てすぐに二人の無事を確認、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。
すぐに倒れるジャックの方に意識を向ける。
「ジャックの手当てをしたい。ガーネ、ジューゴ、運ぶのを手伝ってくれ」
来人の要請の元、ジャックはジューゴの背に乗せられてリンクフォレストの救護班の元へ運ばれて行く。
直ちに適切な処置が施されて、時期に目を覚ますだろう。
「それにしても、お兄様はどうしてこんな事に……」
「ジュゴロクの時と同じ、突然の暴走……。ジャックさんが目を覚ませば、何か話を聞けるかもしれません」
「あら。坊ちゃま、戻ってしまったのですね?」
気付けば、戦闘を終えた来人は神化が解け髪色は白金から茶へと戻っていた。
そんな来人を見てイリスは少し残念そうな声色を漏らす。
「戻ってしまったって、駄目でした?」
「いえ。あの坊ちゃまも格好良かったな、と少し思っただけですわ」
と、イリスは少し悪戯っぽく笑うのだった。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】
みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。
元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡
唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。
彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。
しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。
小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。
しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。
聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。
小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。
★登場人物
・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。
・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。
・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。
・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。
・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。
⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。
現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!
angel observerⅢ 大地鳴動
蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。
ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。
少女たちは死地へと赴く。
angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!
俺がいなくても世界は回るそうなので、ここから出ていくことにしました。ちょっと異世界にでも行ってみます。ウワサの重来者(甘口)
おいなり新九郎
ファンタジー
ハラスメント、なぜだかしたりされちゃったりする仕事場を何とか抜け出して家に帰りついた俺。帰ってきたのはいいけれど・・・。ずっと閉じ込められて開く異世界へのドア。ずっと見せられてたのは、俺がいなくても回るという世界の現実。あーここに居るのがいけないのね。座り込むのも飽きたし、分かった。俺、出ていくよ。その異世界って、また俺の代わりはいくらでもいる世界かな? 転生先の世界でもケガで職を追われ、じいちゃんの店に転がり込む俺・・・だけど。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる