【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
68 / 150
第二章 ガイアの遺伝子編

#68 不死鳥

しおりを挟む
「――ま! ――ちゃま!」
「う……、ううん?」

 自分を揺すり起こす声と、同時にぱちぱちと聞き慣れない音。

「――坊ちゃま! 起きてください!」

 ぐっすりと眠っていた来人は、イリスに叩き起こされる。

「イリスさん? どうしたんですか?」
「大変です! 森が!」

 ぱちぱち、ぱちぱち。
 意識を覚醒させた来人は、外から聞こえて来る異音と共に何やら熱を感じる。
 そして、イリスの言葉と同時に脳裏に浮かんだその音の正体に驚き、飛び起きる。

「ガーネとジューゴは!?」
「先に向かっていますわ」
「僕たちも行きましょう!」

 来人とイリスは外へ出る。

「――酷い。どうして、こんな事に……」

 来人の想像通りだ。
 自然の大地リンクフォレストの森は火の海に包まれていた。

「分かりませんわ。わたくしも目が覚めたら、急にこんな事に……」
 
 来人たちは周囲の様子を見回してみる。
 ガイア族たちは消化に当たる者も居れば、騒ぎの中心に居る“何か”に向かっている者も居る。
 ガーネとジューゴは消化班に加勢している様だったが、余りに火の手が早すぎて追い付いていない。

「向こうに何かあるみたいです。行ってみましょう」

 来人の言葉にイリスはこくりと頷き、指す方に二人は走る。
 少し進むと、昨日も通った橋まで来た。
 しかし、その橋も既に燃え落ちていて通る事が出来なくなっていた。

「――イリス、跳ぶぞ」
「へ? 坊ちゃん?」

 来人の髪色が白金に染まり、『鎖』のスキルを発動。
 まだ無事な大樹の上方へ向けて鎖のアンカーを放ち、鎖の先をぐっと引っ張り固定した後、イリスを抱き上げたままターザンの様に弧を描いて橋の落ちた先の大樹へと飛び移った。
 そしてその先の大樹にアンカーを打ち直し、再び跳躍。
 そうやって次々と木々を飛び移って行き、騒ぎの渦中へと辿り着く。

 ガイア族たちが集まり、遠巻きに囲う騒ぎの中心に居た者。
 それは、轟々と燃え盛る炎を放つ火の鳥。――巨大な不死鳥フェニックスだった。
 
 不死鳥フェニックスは悲鳴のような鳴き声を上げながら飛び回り、周囲の緑を真っ赤に染めて行く。
 そんな暴れる鳥を諫めようと何人ものガイア族が立ち向かうが、翼の姿で暴走する不死鳥フェニックスを誰も止められはしない。

「――あれは、お兄様!?」
「お兄様って――、あの鳥が、ジャックなのか?」
「ええ。お兄様の翼の姿、それがあの不死鳥フェニックスですわ。でも、どうして? お兄様の声が、聞こえませんわ」
「あいつも、ジュゴロクや山の大地のグリフォンみたいに暴走状態に――」

 来人は周囲のガイア族の群衆に目をやり、以前に水の大地で見たのと同じ怪しい人影が無いか探る。
 しかし、誰も彼もが必死で消化や羽ばたく火の鳥を止める為に動いていて、この状況を傍観してほくそ笑む何者かの姿は無い。

「――居ないか」
「坊ちゃま! お兄様を!」

 イリスの悲痛な訴えに、来人は一度小さく深呼吸をして、そして二本の柱を金色の剣へと変える。

「ああ。イリス、ジャックを止めるぞ」

 その時。
 一閃、そして一拍遅れての轟音。

 来人たちは驚き、その閃光の根元を見る。
 そこに居たのは、来人と同じ髪色をした金色の弓を構える青年、ティルだった。

「邪魔だよ」

 ティルが次の光の矢を手の中で生成し、再び弓の弦を引き絞る。

「ティル!!」
「それはわたくしのお兄様ですわ! ティル様、お待ちください!」
 
 ティルは来人とイリスを一瞥した後、それを一蹴する様にふんと鼻を鳴らして矢を放つ――、その直前。

「ティル様!」

 ティルの傍に走って来たライオンのガイア族、ダンデはあろうことか主人であるティルに体当たりをした。
 ティルの矢はその体当たりの勢いで狙いを反れ、大樹に命中。
 光速の矢はその威力で大樹に風穴を空けた。

「おい、ダンデ。どういうつもりだ」

 ティルは苛立ちを含んだ声でダンデを睨みつける。
 
「ティル様、あれは我々自然の大地の民の仲間です」
「それは先程聞いた。しかし、このまま放置していては全てが灰になる。だからこそ、私の手でそれを止めてやる」

 しかし、ダンデは首を振る。
 
「ティル様の矢は強すぎます。それでは、あの者の命すら奪ってしまいます」
「私に、矛を治めろと」
「はい」 
「お前は、私に楯突くというのか」
「……はい」

 これまでティルの元でイエスマンとして従順に働いてしたダンデが、今日初めてその命令に背いて動いている。
 ティルは苛立ちを更に募らせるが、ダンデは毅然としてティルの瞳を真っ直ぐとみて、言葉を重ねる。

「我々はこのガイア界に異変の調査に来ました。ですが、今のところ成果は上げていません。しかし、あの者を生かして救うことが出来れば、この異変を起こしている原因が分かるやもしれません」
「では、私の力も無しに、お前があの火の鳥を止められるのか?」
「それは――」

 ティルの問いに、ダンデは言い淀んでしまう。
 相手は巨大な不死鳥フェニックスだ。
 一分一秒でも早く止めなければ、ティルの言う通りリンクフォレストの森は全て燃え尽きて灰になってしまう。
 しかし、ただでさえ強いジャックが暴走状態となり更にその力を増している。
 ダンデもまた翼の姿となって挑んだとしても、勝機が有るかどうか。

 そうしていると、別の方からダンデに声がかかる。

「ダンデ、そのままティルを抑えておけ! ジャックは、俺たちで何とかする!」

 そう言って、来人が颯爽と駆けて炎を撒き散らすジャックに向かって行く。
 イリスも四肢を獣の爪へと変え、『虹』を纏い後に続く。

 それを見たティルは、やはり苛立ちを多分に含んだ声色で声を荒げる。
 
「おい! 待て! そいつは私の獲物だぞ!」

 しかし、その声に来人が答える事は無く、既に『鎖』での拘束や『泡沫』の水のバブルでの消化を試み始めている。
 両の剣は不死鳥フェニックスからの炎の波の反撃を往なす為だけに使い、その来人の攻撃で致命的な傷を負わせることは無い。

「――くそっ。このままでは、また手柄をあいつに……」

 そうティルは苦い心の内を漏らす。
 
 ここに居る者は自身の相棒を含めて皆森を守る事とジャックを救う事、その二つの共通の目的を持って動いている。
 しかし、ティルの持ち得る手札では、殺さずに事を治める事は出来ない。
 
 今ティルが独断で動きあの不死鳥フェニックスを倒したとしても、それは賞賛されることは無いだろう。
 それをティル自身も分かっているからこそ、相棒という絶対の味方を失った今下手に動く事は出来なかった。

 歯がゆさに苦心するティルに対して、ダンデは更に一つ進言する。

「ティル様、今あそこで暴れている者――ジャックはこの大地の長の側近です」
「そんな事は、知っている」
「ええ、ですから。今、長のリーンを守る者は居ないのです。きっと今頃どこかへ避難しているか、もしくは逃げ遅れてまだ長の間に居る可能性も――」

 そこまで言われれば、ティルにだって分かる。
 つまり、ダンデはこう言いたいのだ。
 
 自然の大地の長を守るという大義を果たす事は、ここで事件を治める事に等しい。
 そして、それはティルの手柄として評価されるだろう、と。

「――長を探す。行くぞ、ダンデ」
「はい、ティル様!」

 その進言にリーンを心配するダンデの私情が含まれている事はティルには秘密だ。

 こうして、ティルとダンデは長リーンの救出に向かい、来人とイリスは不死鳥フェニックスとなったジャックの制圧に当たった。
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過
ファンタジー
♦️カクヨム様で開催されたコンテストで中間選考に残った作品です。 元医療従事者によるちょっぴりリアルな異世界転移ラブコメディ♡ 唱える呪文はデタラメ、杖は注射器、聖水ならぬ聖薬で無垢な人々を欺き、王子を脅す。突然異世界に飛ばされても己の知識と生存本能で図太く生き残る......そんな聖女のイメージとはかけ離れた一風変わった聖女(仮)の黒宮小夜、20歳。 彼女は都内の医科大学に特待生として通う少しだけ貧しい普通の女の子だったが、ある日突然異世界に召喚されてしまう。 しかし、聖女として異世界召喚されたというのに、小夜には魔力が無かった。その代わりに小夜を召喚したという老婆に勝手に改造されたスマートフォンに唯一残った不思議なアプリで元の世界の医療器具や医薬品を召喚出来る事に気付く。 小夜が召喚されたエーデルシュタイン王国では王の不貞により生まれ、国を恨んでいる第二王子による呪いで国民が次々と亡くなっているという。 しかし、医者を目指す小夜は直ぐにそれが呪いによる物では無いと気が付いた。 聖女では無く医者の卵として困っている人々を助けようとするが、エーデルシュタイン王国では全ての病は呪いや悪魔による仕業とされ、治療といえば聖職者の仕事であった。 小夜は召喚された村の人達の信用を得て当面の生活を保障して貰うため、成り行きから聖女を騙り、病に苦しむ人々を救う事になるのだった————。 ★登場人物 ・黒宮小夜(くろみやさよ)⋯⋯20歳、貧乏育ちで色々と苦労したため気が強い。家族に迷惑を掛けない為に死に物狂いで勉強し、医大の特待生という立場を勝ち取った。 ・ルッツ⋯⋯21歳、小夜が召喚された村の村長の息子。身体は大きいが小心者。 ・フィン⋯⋯18歳、儚げな美少年。聖女に興味津々。 ・ミハエル・フォン・ヴィルヘルム⋯⋯20歳、エーデルシュタイン王国の第二王子。不思議な見た目をしている。 ・ルイス・シュミット⋯⋯19歳、ミハエルの護衛騎士。 ⚠️ 薬や器具の名前が偶に出てきますが、なんか薬使ってるな〜くらいの認識で問題ございません。また、誤りがあった場合にはご指摘いただけますと幸いです。 現在、ファンタジー小説大賞に参加中です。応援していただけると嬉しいです!

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...