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4.石ころの顔なんて覚えてませんが

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“凄かったですね” 

 何度も私の太股を擦る固くて太い坊っちゃんのソレ。
 太股の隙間から出たり入ったりする坊っちゃんの亀頭が堪らなく卑猥で、そしてもしコレで私の奥まで貫かれたら……と何度も連想させられて。

 そんな考えが過る度に私の蜜壺から滴った愛液が太股を伝い、そして坊っちゃんのと絡み合う。

 
 おっぱいを出せと言われたあの日から四日。
 
 奥様からお使いを頼まれた私は、あの日の坊っちゃんを思い出しながら一人町を歩いていた。


『いいか、次こそ本番だからな』と宣言された私は“本番”の意味を考える。


「次が本番ということは、もう坊っちゃんにはめぼしい相手がいたということですね」

 坊っちゃんほど可愛い人を世の令嬢は放っておかない、それはわかっていたつもりだった。
 けれど、いざその日をチラつかされると何故か胸の辺りが苦しくて仕方ない。

“専属メイドとしてずっとお側にお仕えしていたのに、いつの間に知らないご令嬢とそんな仲になっていたのかしら”


 可愛い坊っちゃんのお相手なのだから、それはもう清廉潔白でまさにお姫様。

“私のように鉄仮面ではなく、きっと花が綻ぶようにふわりと微笑むご令嬢でしょうね”

「……いえ、もしかしたら王子様のように強く麗しく格好いいご令嬢の可能性も」

“そうよ、坊っちゃんほど可愛い人はいないのだから、そんな坊っちゃんを射止めたのはまさに貴公子と思うほどのイケメン令嬢かもしれません”

「……いえいえ、けれど閨教育中の坊っちゃんは大人の色香もお持ちでしたね」

 大人の男性を彷彿とさせるあの色香。
 ならばやはり深窓のご令嬢……?と、心の声との会話に夢中になっていた私は、無遠慮に腕を引かれ路地の隙間に連れ込まれる。

 その突然の出来事に唖然としながら私の腕を掴んでいる相手を見るが……

 
“この三人は誰なのでしょう”

「相変わらずつまんねぇ顔してんだなぁ」
「まぁ、キレイな顔ではあるがな」

 ははっと笑っている男性三人組。
 相手の話しぶりからすれば顔見知りらしいが、私に心当たりは一人もいない。

 
「私は仕事中ですので、お離しいただけますか」

 掴まれたままの腕がとても不快で精一杯嫌な顔をしてみるが、残念ながら私の表情はこんな時も鉄仮面のままらしく威嚇にすらならないようだった。


「さっき面白い事が聞こえてなぁ」
「そうそう、閨教育……ってな」
 
 ニタニタと気持ち悪い笑いを浮かべながら男たちが私を囲む。

「メイドって大変だなぁ?そんな仕事もしてんのな」
「けど、ルーペルトが相手じゃ満足出来ないんじゃねぇ?」
「何しろあいつ遊びに誘ってやっても興味ないの一点張りで、女の悦ばせ方なんて知らねぇしな」

 クックと笑いながら紡がれる、最愛の坊っちゃんの名前にざわっと私の神経が逆撫でされる。

“坊っちゃんを呼び捨てにしているということは、どこかの貴族のご子息なのだろうですけど”

「そんなつまんねぇ堅物の相手をする前にちょっと俺たちと遊ぼうぜ?」
「そうそう!俺たちなら女の悦ばせ方も心得てっし」
「貴族に仕えて媚びるのがお前らの仕事だもんな、人形みたいに変わらないその表情が愉悦で歪むの見てぇって思ってたんだよ」

“下衆ですね”


 彼らの紡ぐ言葉があまりにも不愉快過ぎて、坊っちゃんの前ではいつも内心パレードを開催している私の心がスンッと冷えきり下衆という言葉しか出てこない。

 ブラゴブォリン伯爵家は伯爵家の中でもかなりお金持ちで力もそれなりにある家なので、おそらくどこにも媚びなくていい坊っちゃんを妬んだやっかみだろう。


「私は貴族に仕えているのではありません、私の主は坊っちゃんだけです」
「坊っちゃん!ルーペルト坊っちゃんかぁ、かぁわいいなぁっ」
「うは、その坊っちゃんに吸われたおっぱい、僕ちゃんたちも今から吸ってあげまちゅからねぇ~」

 私はともかくまるで坊っちゃんまでをも馬鹿にするようなその言い回しに、苛立ちと怒りで視界が揺れ腸が煮えくり返る。


「ほんっと、こんだけ言われても顔色一つ変えねぇのな」

 はぁ、とため息まで吐かれた私はそろそろ我慢の限界。
 こんな下衆を視界に入れている時間があるのなら、じゃがいもの芽の数を数える方が有意義で。

 
「離してくださらないと、私許しませ……」
「離せよ」

 そろそろ私の額の血管が崩壊しそうだというそんな時、まるで天から舞い降りた天使かGODかと思うほど神々しい声がその場に響いた。

 
「あれぇ?ルーペルトお坊ちゃんじゃん?」
「お前閨教育とかしてもらってんだってなぁ?ちゅぱちゅぱ吸ってんの?それともちゅぱちゅぱ吸われてんのぉ?」


『低俗』という言葉が似合うその単語の羅列。

“私の可愛い坊っちゃんになんてくだらない言葉を聞かせるのかしら、この石ころ三人組は!?”
 
 健やかな坊っちゃんの教育に似つかわしくない単語を聞かせたことに殺意を抱きつつ、驚いて震えるか、可愛いお顔が真っ赤に染まっている……そんな姿を想像した私が隣に立つ坊っちゃんの方を見上げる。
 
「え?」

 ところがそこには、凛とした表情でこの低俗雑草石ころ野郎共に対峙する坊っちゃんがいた。


「……な、なんだよ、お前までそのメイドみたいに表情消すなって」
「鉄仮面がうつったんじゃねぇ?」

 怒鳴るでもなく、怒りを表に出す訳でもない。
 けれどどこかその紳士にあるまじき対応を非難するような冷酷さを滲ませた坊っちゃんは、私の知っている可愛く幼い姿ではなく、もう立派な大人の男性だった。


「お、おい、何とか言ったらどうなんだよ!?」
「!」

 私が坊っちゃんの成長に心震わされていた時、そんな大人な坊っちゃんを見て焦りを感じたらしいその下衆が、大事な大事な坊っちゃんに襲いかかろうと腕を伸ばし――……



  そして私は、そんな無礼にも坊っちゃんに手を出そうとした石ころの腕を横から掴み、勢いに乗せて背負い投げをしてやった。

“私の坊っちゃんに触れるだなんて、おこがましいにもほどがありますよ”

 
 ――――ダァン、と路地に音が響くと、私が投げ飛ばした石ころは背中を強打したらしく、ケホケホと汚い唾液を撒き散らした。
 
「……へ?」
 
 仲間の石ころ一粒が間抜けな声を上げ、もう一粒が驚きしりもちをつく。
 

「坊っちゃんのお側にどんな時でもお仕えしお守りすべく、ブラゴブォリン家ではメイドでも護身術に心得があるのですよ」
「トゥンク……ッ」

 じろりと睨みながら言ってやると、坊っちゃんが頬を赤らめて可愛いことを呟いて。

“まぁ!これでこそいつものお可愛らしい坊っちゃんですね”

 ときめいてくださったらしい坊っちゃんに、私もドギュルルルンと大きな心音を響かせた。


 
「……って、そうじゃない!消毒するからっ」

 ハッとし、ぽっと赤らめておられた頬をみるみる青ざめさせる坊っちゃん。
 
「消毒ですか?石ころが破片になったところで誰も困らないと思いますが」
「こいつらのじゃねぇよ、イメルダのだ!」

“私の?”

 ぎゅっと手を握られ、足早に歩きはじめた坊っちゃんをぽかんとしながら見つめてしまう。

 
「お使いの途中ですが」
「後で誰かに行かせる」

 私が転ばない程度の速度で手を引かれると、繋がれた手からじわりと熱が伝い、私の体も熱くなる。
 私の手が熱いのか坊っちゃんの手が熱いのかわからなくて、やはり私は心の中でだけこの現状に大騒ぎした。
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