アドレナリンと感覚麻酔

元森

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第一章

第二話 16 安楽城ケイ

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 聖月は意を決して顔を上げた。
 だが、すぐに自分がたくさんの人々に見られていることを知り目をそらした。青年たちはまったく初めて会った、神山と同じような表情をしていた。―――しかもだいたいの人が。小向に話しかけられているときにちらりとみた神山の顔と―――あの怒りと、驚きと嫉妬のような感情を露骨に出してる顔。
 その衆人環視のような状態に聖月は心臓を早くした。
 青年たちは、聖月を舐めまわすようにじっとりと睨みつけるように見る。
 こそこそと聖月のことをいっているだろう声がして、いっそう胸が引きちぎられたような感覚に聖月は陥る。噂話をされている。その事実が、聖月を一層臆病にさせた。
 そんなとき、奥の2個先のテーブルからそれよりも強烈な視線を感じて、なんだろうと聖月はその場所を見た。一瞬にしてその光景をみて、聖月は戦慄した。
 聖月を見つめるその視線に―――舌なめずりをして、熱っぽいもので自分を見ている青年が居たのだ。そんな光景を見た瞬間、どうしようもなく不安を抱いた。そして、湧きあがる疑問。なんで、舌なめずりをしたのかが分からない。
 いやむしろ…、知ったらイケナイと聖月は考え、思考を弱くした。
 その青年をみると遠くからもわかる、端正な顔立ちをしていた。
 そんな青年に聖月は目が合ってしまい、驚いて椅子から転げ落ちそうになる。
 ガタッ! と椅子と床がずれる大きな音を上げてしまい、また聖月は注目を浴びてしまった。
 名も声も知らない青年はまだ聖月に熱っぽく視線を送っていた。口元は少しあがっていて、彼は聖月のうろたえた様(さま)をみて愉しんでいるようだった。まだその視線を感じて、聖月は訳も分からずに視線を彷徨わせた。
 すると聖月の隣に座っているかわいらしい中学生ぐらいの少年が心配したように声をかけられた。
「…大丈夫? 震えてるよ」
「え! ええ、えっと、だい、だいじょうぶ!」
 大げさに大きな声をあげてしまって顔がみるみると赤くなった。そんな自分に気づいて聖月は顔を俯かせた。
 聖月はこの場所から一刻も早く離れたかった。
「ミツキっていうの?」
 少年の甘い声で視線をあげるとブレザーを着た美しい少年が聖月の居る席の隣に居た。思わずその少年を見て聖月は瞠目した。その少年は、甘くそして可愛く、男の聖月でも目を奪ってしまうような美少年だったのだ。
 ふあふあのまるで――ミルクティーのような薄い色素の薄い髪に、蕩けるような舐めたら甘そうな白い肌。
 薔薇のように染められたほのかに赤い可愛らしい頬。こぼれそうな聖月の2倍はあるんじゃないかという大きな目。
 きわめつけは、チェリーみたいな女の子でもそうそういない、真っ赤で熟れてるぷっくらした唇。甘い甘い顔。
 ――まるで天使。
 そんな率直な言葉が聖月の脳内に浮かぶ。
 美少年。神山が美青年だったら、この少年にはそんな言葉が似合う。まるで少女に見えた。
 だが少年らしい声とブレザーのズボンという格好で男の子ということが分かる。
 聖月は少年に見惚れてしまった。自分がぼんやりとしていたのが分かって聖月は慌てて答えを少年に返した。
「う、うん。そうだよ」
 そう返しながら、また少女以上に可愛らしい少年をみて聖月の顔がどんどん火照っていった。
「ミツキってどうかくの?」
 少年は周囲の目が気にならないのか、無邪気に聖月に話しかけた。むしろこの視線に慣れているからこその、その無邪気さかもしれない。
 周りの視線が痛々しいほどに聖月たちに向けられる。聖月はそんな状態に落ち着かなくて、ぐらぐらに脳天が揺られる気分になっていた。
「聖母の【聖】に、夜に浮かんでる【月】って書いて聖月だよ」
 たどたどしく答えた聖月に、少年は口を開けて天使の微笑みのような甘い顔で笑った。
「…カワイイ名前だね」
 ふあり、と笑みを浮かばれ、聖月は戸惑う。
「…えっ」
 かわいい。
 この言葉は聖月にとって聞き慣れない、言われないような単語だった。少し聖月はびっくりした。たぶん女の子みたいな名前だとみんなが思っていると、自分自身思っていたけれど結局は言われなかった言葉だ。言われ慣れない言葉で聖月はたじろいだ。
 彼ははっきり言うタイプなのだろう。
「そ、そうかな?」
「うん。かわいい。俺はね、ケイっていうの。安楽城  ケイ。かっこいいでしょ?」
 自分のことを安楽城  ケイ(あらき けい)と名乗った彼は、また嬉しそうに笑った。
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