12 / 25
裏話(藤井スバル視点)
第2話・裏話
しおりを挟む
こずえさんと酒を酌み交わした翌日、彼女は自らの失態をわたくしに謝っておりましたが、わたくしは特に気にしておりませんでした。
実際、わたくしもよくお酒の失敗はいたします。社長などという仕事をしておりますと、取引先の社長から酒を勧められて断れず、酔い潰されるということはよくあります。急性アルコール中毒を起こすような危ない飲み方はいたしませんが、もう少しお酒との付き合い方を考えよう、と反省することはたびたびございました。わたくしはまだまだ若輩者ですので、これからも精進しなければいけない、と思っております。
わたくしとこずえさんはあらかじめコンビニで買っておいたおにぎりを手に、喫煙室へ向かいました。こずえさんはタバコのニオイが平気だそうなので、そのときは特に気にしませんでしたが、今思うと副流煙の問題もありますし、もう少し考えておくべきでしたね。
緊張気味のこずえさんと一緒に喫煙室に入ると、おなじみのメンバーがそろっていました。その日は三人でしたが、弊社には当時七人くらいはカードゲーマーがいたと思います。全員男性社員で、その日によって喫煙室にいるメンバーは変わります。有給休暇の消化などもありますしね。
メンバーにこずえさんを紹介すると、彼らは女性カードゲーマーの登場に興味津々といった様子でした。しかし、こずえさんがあんな激レアカードを二枚も隠し持っていたとは予想外でした。前日に彼女と対戦したときはすべての手持ちを見てはいなかったのですが、彼女には幸運の女神がついているとしか思えません。今にして思うと、彼女自身が幸運の女神だったのかもしれませんが。
男性社員のメンバーたちはこずえさんを歓迎してくださいました。こずえさんも安心した様子で、わたくしたちはその日、おにぎりを片手にカードゲームに興じました。今までひとりぼっちで『マジック&サマナーズ』をプレイしていたと言っていたこずえさんが楽しそうで、わたくしは微笑ましい気持ちで彼女を見ていました。
「それにしても、社長が女の子連れてくるなんてびっくりしたなあ」
メンバーのひとりが、そう漏らしました。
「ほんとほんと。とうとう彼女でも紹介するのかと思っちまったよな」
他のメンバーもうんうんとうなずき、わたくしは内心、多少は動揺しました。そんなつもりはなかったものですから。
「……あまりからかわないでくださいよ」
わたくしは苦笑を返すしかありませんでした。
「ねえねえ、能登原さんは今フリー? 彼氏いるの?」
「あ、俺も社長の彼女じゃないならちょっとお近づきになりたいな」
「え、え?」
男性特有の悪ノリが始まってしまい、こずえさんは動揺を隠せないご様子でした。
さすがにそれは看過できませんでした。
「おっと、出会い目的のカードゲームは見過ごせませんね」
わたくしは少し睨みましたが、昔からあまり怖がられません。何故でしょうか。
「冗談ですって、社長!」
「社長、目がマジになってますよ。おーこわ」
メンバーたちはわたくしを茶化すように笑いました。仮にも社長相手にこんな反応を返せるのは、ひとえにカードゲームでの交流を通して培ってきた信頼の賜物でございましょう。
やがて、昼休みの終わりが近づき、わたくしたちは後片付けをして喫煙室を出ました。「総務部に用事がある」と嘘をつきましたが、……いえ、嘘ではないですね、こずえさんを送り届けるという用事がありましたから。とにかく、わたくしはこずえさんと少しでも長く一緒に話をしたくて、総務部に戻る彼女についていきました。
「能登原さん、いかがでしたか?」
「とっても楽しかったです! 誰かと対面したりみんなでわいわいカードゲームするの、久しぶりで」
「それはよかった」
こずえさんの心底楽しそうな顔を見て、わたくしは安心いたしました。
男性社員が悪ノリした時、わたくしはもう彼女が来てくれないのではないかと内心ハラハラしておりましたから。
「ご気分を悪くされたのではないかと思って、安心いたしました」
「?」
素直な気持ちを伝えると、彼女は不思議そうな顔で首をかしげました。
「昨日も言いましたけど、私はタバコのニオイ、平気ですよ?」
「ああいえ、そうではなく」
わたくしはなんと言ったらいいものか、視線を宙にさまよわせました。
「その……わたくしの彼女、と思われたことなど、ですね……」
「え? それ気分悪くなることなんですか?」
彼女は真顔でそう言い放ちました。わたくしは顔には出しませんでしたが動揺しました。
――こずえさんが、わたくしの彼女だと思われたことに、拒否感を示さなかったことに、です。
「社長、もっと自信持ってください。社長は充分魅力ありますよ」
こずえさんにポン、と背中を軽く叩かれて、わたくしは「……ありがとうございます」と思わず赤面いたしました。
そうしているうちに、総務部の部屋に着いてしまいました。
「そういえば社長の用事ってなんですか? 私で良ければお取次ぎしますよ」
こずえさんは無邪気にそう言いました。可愛らしい笑顔だ、と思いました。
「いえ、もう用事は済みましたので」
「え?」
「――能登原さんをお送りしたかっただけですよ」
わたくしは名残惜しくもその場を去り、社長室へ戻りました。
――その頃にはもう、こずえさんに異性として惹かれておりました。
〈続く〉
実際、わたくしもよくお酒の失敗はいたします。社長などという仕事をしておりますと、取引先の社長から酒を勧められて断れず、酔い潰されるということはよくあります。急性アルコール中毒を起こすような危ない飲み方はいたしませんが、もう少しお酒との付き合い方を考えよう、と反省することはたびたびございました。わたくしはまだまだ若輩者ですので、これからも精進しなければいけない、と思っております。
わたくしとこずえさんはあらかじめコンビニで買っておいたおにぎりを手に、喫煙室へ向かいました。こずえさんはタバコのニオイが平気だそうなので、そのときは特に気にしませんでしたが、今思うと副流煙の問題もありますし、もう少し考えておくべきでしたね。
緊張気味のこずえさんと一緒に喫煙室に入ると、おなじみのメンバーがそろっていました。その日は三人でしたが、弊社には当時七人くらいはカードゲーマーがいたと思います。全員男性社員で、その日によって喫煙室にいるメンバーは変わります。有給休暇の消化などもありますしね。
メンバーにこずえさんを紹介すると、彼らは女性カードゲーマーの登場に興味津々といった様子でした。しかし、こずえさんがあんな激レアカードを二枚も隠し持っていたとは予想外でした。前日に彼女と対戦したときはすべての手持ちを見てはいなかったのですが、彼女には幸運の女神がついているとしか思えません。今にして思うと、彼女自身が幸運の女神だったのかもしれませんが。
男性社員のメンバーたちはこずえさんを歓迎してくださいました。こずえさんも安心した様子で、わたくしたちはその日、おにぎりを片手にカードゲームに興じました。今までひとりぼっちで『マジック&サマナーズ』をプレイしていたと言っていたこずえさんが楽しそうで、わたくしは微笑ましい気持ちで彼女を見ていました。
「それにしても、社長が女の子連れてくるなんてびっくりしたなあ」
メンバーのひとりが、そう漏らしました。
「ほんとほんと。とうとう彼女でも紹介するのかと思っちまったよな」
他のメンバーもうんうんとうなずき、わたくしは内心、多少は動揺しました。そんなつもりはなかったものですから。
「……あまりからかわないでくださいよ」
わたくしは苦笑を返すしかありませんでした。
「ねえねえ、能登原さんは今フリー? 彼氏いるの?」
「あ、俺も社長の彼女じゃないならちょっとお近づきになりたいな」
「え、え?」
男性特有の悪ノリが始まってしまい、こずえさんは動揺を隠せないご様子でした。
さすがにそれは看過できませんでした。
「おっと、出会い目的のカードゲームは見過ごせませんね」
わたくしは少し睨みましたが、昔からあまり怖がられません。何故でしょうか。
「冗談ですって、社長!」
「社長、目がマジになってますよ。おーこわ」
メンバーたちはわたくしを茶化すように笑いました。仮にも社長相手にこんな反応を返せるのは、ひとえにカードゲームでの交流を通して培ってきた信頼の賜物でございましょう。
やがて、昼休みの終わりが近づき、わたくしたちは後片付けをして喫煙室を出ました。「総務部に用事がある」と嘘をつきましたが、……いえ、嘘ではないですね、こずえさんを送り届けるという用事がありましたから。とにかく、わたくしはこずえさんと少しでも長く一緒に話をしたくて、総務部に戻る彼女についていきました。
「能登原さん、いかがでしたか?」
「とっても楽しかったです! 誰かと対面したりみんなでわいわいカードゲームするの、久しぶりで」
「それはよかった」
こずえさんの心底楽しそうな顔を見て、わたくしは安心いたしました。
男性社員が悪ノリした時、わたくしはもう彼女が来てくれないのではないかと内心ハラハラしておりましたから。
「ご気分を悪くされたのではないかと思って、安心いたしました」
「?」
素直な気持ちを伝えると、彼女は不思議そうな顔で首をかしげました。
「昨日も言いましたけど、私はタバコのニオイ、平気ですよ?」
「ああいえ、そうではなく」
わたくしはなんと言ったらいいものか、視線を宙にさまよわせました。
「その……わたくしの彼女、と思われたことなど、ですね……」
「え? それ気分悪くなることなんですか?」
彼女は真顔でそう言い放ちました。わたくしは顔には出しませんでしたが動揺しました。
――こずえさんが、わたくしの彼女だと思われたことに、拒否感を示さなかったことに、です。
「社長、もっと自信持ってください。社長は充分魅力ありますよ」
こずえさんにポン、と背中を軽く叩かれて、わたくしは「……ありがとうございます」と思わず赤面いたしました。
そうしているうちに、総務部の部屋に着いてしまいました。
「そういえば社長の用事ってなんですか? 私で良ければお取次ぎしますよ」
こずえさんは無邪気にそう言いました。可愛らしい笑顔だ、と思いました。
「いえ、もう用事は済みましたので」
「え?」
「――能登原さんをお送りしたかっただけですよ」
わたくしは名残惜しくもその場を去り、社長室へ戻りました。
――その頃にはもう、こずえさんに異性として惹かれておりました。
〈続く〉
1
あなたにおすすめの小説
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎
清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。
膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。
さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。
社交は上品に、恋心は必死に隠したい。
なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——!
むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。
清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる