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第二章 サムジャともふもふ編

第29話 サムジャへの護衛依頼

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「つまりギルド長が直接俺に依頼を?」
「そうだ」

 この提案はわりと驚いた。何せ俺のランクはまだまだEランクだし、そもそもギルドマスターが直に仕事を頼むなんてことがあるんだなと意外だった。

「お前にとっては悪い話じゃないぞ。俺が頼みたいのは護衛依頼だ。Eランクからはちょっとした護衛の仕事なら可能になる。だがEランクも可能な護衛の依頼はそれほど多くないんだ」

 つまり数少ない護衛の仕事が今ならギルドマスター経由で回してくれるってことなんだな。

「護衛の依頼は経験しておいた方がいいものなのか?」
「上を目指すならな。基本的にランクは上にあがれば上がるほど総合的な能力を評価される。例外がないとはいわないが、最低限一通りの仕事はこなしておいた方がいい。シノは既に非公式とは言えダンジョン攻略を終え、更に魔物退治、薬草採取もこなしている。だが護衛はまだだろう?」
「まぁ、確かに――」

 今世では護衛依頼は受けたことがない。そもそも直前までFランクだったしもっといえば俺はまだ冒険者になってから日が浅い。

 ただ通り魔事件について本格的に動くなら色々な仕事をこなして信頼を得ておくのは悪くないか。

「どうだ受けるか?」
「折角ギルド長がそう言ってくれるなら。それで護衛相手と条件は?」
「そうだな。先ず条件だが報酬は百万ゴッズだ。護衛期間は対象の仕事が終わるまで。これは実際のところは二、三日程度と考えておいて欲しい」

 二、三日で百万ゴッズとはかなりの高額だ。前の記憶でもそこまでの金額が出る護衛依頼はそう多くはなかったし少なくともEランクで請け負う金額ではない。

「もしかして要人の護衛だったりするのか?」
「いや、そういうわけじゃないが、仕事は問題ないか? 勿論内容はそこまで無茶なものじゃない」
「ふむ。わかった。それなら受けようと思うが、何か条件はあるのか?」
「おう! それなんだが、あくまで護衛というのはシノの心に留めておいて欲しい。これから護衛対象を呼ぶが自分が護衛であることは言わないでほしいんだ。それとここに来たら先ず俺から話すから黙って聞いていてくれ」

 護衛対象に護衛であることを明かすなということか。特殊な依頼方式だな。ますます重大な仕事な匂いがしてきたが。

「シエロそういうわけだから呼んできてくれないか? まだ下にいたはずだ」
「はぁ、もうこんなだまし討ちみたいな真似してどうなっても知りませんよ?」

 シエロがため息交じりに口にし、一旦部屋を出た。それにしても騙しうちね……
 あの様子を見るに相手には秘密として、このことを知られるとあまりよろしくないタイプということか。

 さて、一体どんな相手なのかな?

「お連れしました」
「もう。パパなんなのよ」

 シエロが部屋に戻ってきた。少女が一緒だが、気になるワードを口にしていた。

「……パパ?」
「あぁ、そうだ。紹介しよう。俺の娘のルンだ」

 シエロと一緒にやってきた少女をオルサが紹介してくれたがよもや娘とは思わなかった。

「パパ、この人は?」
「あぁ、お前とパーティーを組みたいと言っているシノだ」

 パーティー? 何か話が妙な方向に向いてきたな。ただ、オルサが俺に目配せして来ていた。さっきの約束を思い出す。とりあえずだまって流れに身を任せるか。

「なにそれ聞いてないんだけど?」
「すまんな。だけどお前、ダンジョンには自分で行くと言って聞かないだろう?」
「そりゃそうよ! あのダンジョンは私が見つけたんだし、私が先に潜る権利があるわ!」

 ルンがオルサへと主張する。ダンジョンの権利か。ダンジョンはダンジョンマスターによって作成されたものだが、ダンジョンマスターがいつどこで生まれていつダンジョンを生み出すかは把握できない。
 
 それぐらい突発的にマスターは生まれる。だから見つからずに手つかずのダンジョンというのもそれなりにあったりする。ただダンジョンはあまり長期間放置しておくと魔物が溢れ出たりするので冒険者ギルドにとって新たなダンジョンを見つけることも大事な仕事の一つだ。

 そして新たなダンジョンを見つけただけでも報酬は貰えるが、ついでにダンジョンに最初に探索する優先権も与えられる。

 これが優先権なのはダンジョンの難易度と見つけた冒険者の実力が必ずしも伴うとは言えないからだ。

 だからダンジョンを見つけた場合は速やかにギルドに報告する必要があり、その後ギルドの調査員によってダンジョンのランクが査定されることになる。

 優先権を主張できるのは査定結果が見つけた冒険者のランクと見合った場合だ。

「シエロさん、査定結果は問題ないんだよね?」
「ルンの冒険者ランクはEランク。ダンジョンのランクはDランクなので挑めないことはありません。ただ――」
「ほらパパ!」
「わかったからそう興奮するなって」

 ルンが更に自分の権利を主張するとオルサが苦笑いを見せた。

 ちなみにダンジョンの探索や魔物退治などは一ランク上までは受けることができる。しかしそれには条件があるわけで、なんとなく何故俺が選ばれたかわかってきた気がした。

 ただ、それでも何故俺なんだろうな。

「しかし、今シエロがいいかけたが、ダンジョン攻略は特別な許可がない限りはパーティーでの攻略が推奨されてる。だからお前一人というのは許可できないんだよ」
「あくまで推奨じゃない」

 腕を組みルンが眉を顰めた。この子、結構気が強そうだな。ギルド長の娘だけある。

 ただ、確かに推奨だけど、ソロでも認められる場合というのは相当な実力があると判断された時、つまりそれこそが特別な許可だ。

「とにかく私はダンジョン攻略がしたいの!」
「お前の気持ちはよくわかった。だからこそのシノだ。こいつと組むなら許可してもいい」
「彼と?」

 ルンの目が俺に向く。何か訝しげな顔だな。うん? でもすぐにその視線が俺の足元に移り――途端に締まりのない顔になった。

「犬が好きなのか?」
「え? そ、そこそこね!」

 そこそこなのか。まぁ嫌いじゃないってことなんだろうな。

「触ってみるか?」
「え? い、いいの?」
「パピィ」
「アンッ!」

 パピィがルンの前に出てチョコンっと座った。尻尾を左右に振っている。

「か、可愛い――」

 目線を下げてルンがパピィの頭を撫でた。パピィも気持ちよさそうにしている。

「ハッ! ちょ、言っておくけどこんなことで取り入ったと思ったら大間違いなんだからね!」
「取り入る?」

 ちょっと意味がよくわからないな。

「シノ、ちょっと」
 
 するとオルサが指でクイクイっと合図してきたので一旦その場を離れてオルサについていく。

 パピィに夢中になっているうちに話を済まそうってことかもしれない。部屋を出てすぐのところでオルサが口を開いた。

「あいつは少し疑心暗鬼になっているところがあってな」
「疑心暗鬼?」
「あぁ。あいつが俺の娘というのはギルドでもよく知られている。そのせいかルンに近づく冒険者には明らかに俺とのコネ狙いの奴らがいたりして辟易しているんだ」
「さっき取り入ると言っていたのはそういうことか。つまりそれでパーティーを組んでなかった?」
「それもある。後は、おかしな奴へ娘に近づいて欲しくないって親心もある。特に男だな」

 なるほど。ギルド長でも人の親ってわけか。

「しかし、話を聞くとパーティーを組んで欲しいというように思えるが護衛ではなかったのか?」
「まぁ両方って意味でもある。正直あいつがダンジョンに潜るのは俺としてもまだまだ不安があるんだ。一人なんて以ての外だしな。だから安心できる奴に護衛も兼ねて一緒にダンジョンに潜って欲しいわけだ」

 それが俺ってことなのか? しかし――

「俺は男だぞ?」
「それは勿論わかってるが、俺はこれでも人を見る目はあるつもりでな。お前なら大丈夫と判断した」

 俺なら大丈夫ってどういう意味なのか? ギルド長の俺の評価が一体どうなってるのか気になるところではある。

「しかし、肝心のあの子は俺と組んでくれるのかな?」
「それは大丈夫だ。ルンはな犬が大好きなんだ」

 あ、なるほど。つまり俺というよりはパピィがいたからそう判断したんだな――
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