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第二章 サムジャともふもふ編
第28話 サムジャ、ギルドにパピィを連れて行く
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後日、俺は新しく仲間になったパピィを連れてギルドにやってきた。
中に入るとシエロが俺に気が付き、その横にいたギルド長のオルサが声を張り上げた。
「おう! 来たかシノ。丁度良かったぜ」
うん、本当に大きな声だな。自然とギルドにいた他の冒険者の注目が集まった。
とりあえずシエロとオルサのいるカウンターに向かう。
「うん? お前そんな犬連れていたか?」
「いや、昨日から口寄せしたパピィだ。今日からは一緒に行動しようと思う」
「アン!」
「……か、可愛い」
パピィが背中をよじ登ってきて頭の上から顔を出して一鳴きした。シエロの頬がヒクヒクと反応している。動物が好きなんだろうか。
すごく興味深そうにパピィを見ているな。
「撫でてみるかい?」
「え? い、いいの?」
「大丈夫だよなパピィ?」
「アン♪」
弾んだ鳴き声を上げるパピィ。人懐っこい性格のようだし、撫でられるのも好きそうだからな。
「そ、それじゃあ――ふわぁああ、すっごく気持ちいぃ」
「クゥ~ン――」
シエロに撫でられてパピィも嬉しそうだな。
「しかし、昨日の今日で犬を飼うとはな。その口寄せってのもスキルなのか?」
「あぁ、忍者のスキルだ。口寄せの効果でパピィも天職が忍犬になったし一緒に戦えると思う」
「本当か!? ちっちぇのに凄いんだなお前」
「ワンッ!」
パピィが俺の頭上で元気よく吠える。何となく得意になっている顔が思い浮かんだ。
「しかし、この犬は結局どうしたんだ?」
「あぁ、実はその事もあって聞きたいことがあったんだ」
オルサが丁度話題を振ってくれたので、パピィを飼うに至った経緯を話した。その上で通り魔についても聞いてみようとも思う。
「そんなことがあったんだな……」
「飼い主が殺されてしまうなんてね……」
シエロが眉を顰めた後、憐憫の感じられる眼差しをパピィに向けた。ギルド長のオルサもどことなく同情的だ。
「それは可愛そうなことをしたものだな。しかし、つまりこいつは犯人を見たってことか?」
「そうかもしれない。殺害現場で倒れていたから、飼い主の仇を討とうとした可能性もある。通り魔はまだ捕まってないんだよな?」
「あぁ、こっちでも情報集めしているし、依頼書も張り出しているが情報が錯綜していてな。性別にしても男だ女だとはっきりしないんだ」
そうなのか……性別もわかってないとなると、はっきりしたことは何もわかってないと言っていいかもしれない。
「ワン! ワン! ワン!」
すると、パピィが何かを訴えるように吠えた。どうかしたのかな?
パピィが俺の頭を優しく叩いてきた。ポンポンっと感じで。
「アンッ!」
そして鳴いた。その後、シエロに顔を向けて今度はフルフルと首を左右に振る。いやいやと言っているようであり、シエロがガーン! とハンマーで後頭部を殴られたような顔を見せた。
「わ、私、嫌われ……」
「クゥ~ン、クゥ~ン」
しょんぼりするシエロだが、パピィは違うよ、とでも言ってそうな細い無き声を上げる。さて、これはつまり――
「もしかしてパピィ、犯人は男だといいたいのか?」
「アンッ! アンッ!」
パピィが元気よく吠える。やっぱりそうか。今のは俺が男でシエロが女性だから、こんな表現になったんだな。
「つまりパピィは相手の顔を見たってことか? どんな顔かわかるのか?」
「クゥ~ン……」
ギルド長が更に問いかけるが、どうやら顔までは見てないようだ。それで男女の違いがわかったということは――そうか声か。
「犯人の声を聞いたのか?」
「ワンッ!」
「つまり顔は見えないが犯人の声は聞こえる状況だったということか。恐らくは何らかの手段で顔を隠していたのだろう」
よく考えてみれば犯人は未だ顔すら知られていない奴だ。それならば顔ぐらい隠していても不思議ではない。
「ふむ、しかし性別がわかっただけでも大きいな。これは有力な情報とみなそう。シエロ報酬を支払っておいてくれ」
「いいのか?」
「情報も金になるってことだ。そこまで大きな金額じゃないけど、新しいペットのエサ代ぐらいにはなるんじゃないか?」
オルサがニヤッとした笑いを見せる。これは、情報をくれたパピィの為に使ってやってくれと暗に伝えてきてるのだなと俺は判断した。
後でパピィの好きそうな食べ物を買ってあげるとしよう。この報酬もパピィがいたからこそだしな。
「あの、ところでまさかシノくん。通り魔の犯人を追っているわけじゃないよね?」
「う~ん、追っていると言えばそうかな。パピィの主人の仇だし、実際犠牲者が出ているなら一応は俺も冒険者だし」
「駄目よ! 大体貴方はまだFランクなのよ。そんな危険な真似許されないわ!」
シエロが語気を強めて俺の行為を咎めた。ただ頭ごなしに怒ってるわけじゃなくて、心配してくれているみたいだな。
「ランクか……」
「ワオン?」
俺の足元におりたパピィが鳴きながら小首を傾げた。冒険者のランクについてパピィは知る由もない。
「その件だが、Eランクへの昇格は決まったぞ。何せ大事になる前にゾイレコップまで倒したんだからな。うちとしては上げない理由がない」
「ま、マスターこのタイミングでそんな……」
シエロがギロリとマスターを睨む。俺にランクが低いから危険だと言った直後だったからだろう。もっともこれだけの案件だ。Eランクになったからいいというわけでもないかもしれない。
「そんな顔するなって。シノをEランクに上げるがシエロの言う通り、このランクじゃ通り魔事件に深く首を突っ込めとはこっちからも言えない。お前の力は認めるが、相手はかなり危険なスキルを所持している可能性もあるしな」
確かに今に至るまで性別ぐらいしか情報が出なかった相手だ。天職を手にしてまだ間もない俺が挑むには無謀かもしれない。
「お前自身気づいていると思うが、今のお前に必要なのは何より経験だ。もっと色々な依頼をこなしその上で天職をより活かせるよう精進すべきだろう」
「……マスター――」
マスターの言うことももっともか。確かに俺には経験が足りない。
だけど、何故かマスターを見るシエロの目が冷ややかだ。
「もしかして、あれをシノくんに?」
「あっはっは、気づいたか。うむ、というわけで今回は俺から直接お前に一つ仕事を任せたい。引き受けてくれるか?」
そう、ギルドマスターのオルサが俺に持ちかけてきた。
中に入るとシエロが俺に気が付き、その横にいたギルド長のオルサが声を張り上げた。
「おう! 来たかシノ。丁度良かったぜ」
うん、本当に大きな声だな。自然とギルドにいた他の冒険者の注目が集まった。
とりあえずシエロとオルサのいるカウンターに向かう。
「うん? お前そんな犬連れていたか?」
「いや、昨日から口寄せしたパピィだ。今日からは一緒に行動しようと思う」
「アン!」
「……か、可愛い」
パピィが背中をよじ登ってきて頭の上から顔を出して一鳴きした。シエロの頬がヒクヒクと反応している。動物が好きなんだろうか。
すごく興味深そうにパピィを見ているな。
「撫でてみるかい?」
「え? い、いいの?」
「大丈夫だよなパピィ?」
「アン♪」
弾んだ鳴き声を上げるパピィ。人懐っこい性格のようだし、撫でられるのも好きそうだからな。
「そ、それじゃあ――ふわぁああ、すっごく気持ちいぃ」
「クゥ~ン――」
シエロに撫でられてパピィも嬉しそうだな。
「しかし、昨日の今日で犬を飼うとはな。その口寄せってのもスキルなのか?」
「あぁ、忍者のスキルだ。口寄せの効果でパピィも天職が忍犬になったし一緒に戦えると思う」
「本当か!? ちっちぇのに凄いんだなお前」
「ワンッ!」
パピィが俺の頭上で元気よく吠える。何となく得意になっている顔が思い浮かんだ。
「しかし、この犬は結局どうしたんだ?」
「あぁ、実はその事もあって聞きたいことがあったんだ」
オルサが丁度話題を振ってくれたので、パピィを飼うに至った経緯を話した。その上で通り魔についても聞いてみようとも思う。
「そんなことがあったんだな……」
「飼い主が殺されてしまうなんてね……」
シエロが眉を顰めた後、憐憫の感じられる眼差しをパピィに向けた。ギルド長のオルサもどことなく同情的だ。
「それは可愛そうなことをしたものだな。しかし、つまりこいつは犯人を見たってことか?」
「そうかもしれない。殺害現場で倒れていたから、飼い主の仇を討とうとした可能性もある。通り魔はまだ捕まってないんだよな?」
「あぁ、こっちでも情報集めしているし、依頼書も張り出しているが情報が錯綜していてな。性別にしても男だ女だとはっきりしないんだ」
そうなのか……性別もわかってないとなると、はっきりしたことは何もわかってないと言っていいかもしれない。
「ワン! ワン! ワン!」
すると、パピィが何かを訴えるように吠えた。どうかしたのかな?
パピィが俺の頭を優しく叩いてきた。ポンポンっと感じで。
「アンッ!」
そして鳴いた。その後、シエロに顔を向けて今度はフルフルと首を左右に振る。いやいやと言っているようであり、シエロがガーン! とハンマーで後頭部を殴られたような顔を見せた。
「わ、私、嫌われ……」
「クゥ~ン、クゥ~ン」
しょんぼりするシエロだが、パピィは違うよ、とでも言ってそうな細い無き声を上げる。さて、これはつまり――
「もしかしてパピィ、犯人は男だといいたいのか?」
「アンッ! アンッ!」
パピィが元気よく吠える。やっぱりそうか。今のは俺が男でシエロが女性だから、こんな表現になったんだな。
「つまりパピィは相手の顔を見たってことか? どんな顔かわかるのか?」
「クゥ~ン……」
ギルド長が更に問いかけるが、どうやら顔までは見てないようだ。それで男女の違いがわかったということは――そうか声か。
「犯人の声を聞いたのか?」
「ワンッ!」
「つまり顔は見えないが犯人の声は聞こえる状況だったということか。恐らくは何らかの手段で顔を隠していたのだろう」
よく考えてみれば犯人は未だ顔すら知られていない奴だ。それならば顔ぐらい隠していても不思議ではない。
「ふむ、しかし性別がわかっただけでも大きいな。これは有力な情報とみなそう。シエロ報酬を支払っておいてくれ」
「いいのか?」
「情報も金になるってことだ。そこまで大きな金額じゃないけど、新しいペットのエサ代ぐらいにはなるんじゃないか?」
オルサがニヤッとした笑いを見せる。これは、情報をくれたパピィの為に使ってやってくれと暗に伝えてきてるのだなと俺は判断した。
後でパピィの好きそうな食べ物を買ってあげるとしよう。この報酬もパピィがいたからこそだしな。
「あの、ところでまさかシノくん。通り魔の犯人を追っているわけじゃないよね?」
「う~ん、追っていると言えばそうかな。パピィの主人の仇だし、実際犠牲者が出ているなら一応は俺も冒険者だし」
「駄目よ! 大体貴方はまだFランクなのよ。そんな危険な真似許されないわ!」
シエロが語気を強めて俺の行為を咎めた。ただ頭ごなしに怒ってるわけじゃなくて、心配してくれているみたいだな。
「ランクか……」
「ワオン?」
俺の足元におりたパピィが鳴きながら小首を傾げた。冒険者のランクについてパピィは知る由もない。
「その件だが、Eランクへの昇格は決まったぞ。何せ大事になる前にゾイレコップまで倒したんだからな。うちとしては上げない理由がない」
「ま、マスターこのタイミングでそんな……」
シエロがギロリとマスターを睨む。俺にランクが低いから危険だと言った直後だったからだろう。もっともこれだけの案件だ。Eランクになったからいいというわけでもないかもしれない。
「そんな顔するなって。シノをEランクに上げるがシエロの言う通り、このランクじゃ通り魔事件に深く首を突っ込めとはこっちからも言えない。お前の力は認めるが、相手はかなり危険なスキルを所持している可能性もあるしな」
確かに今に至るまで性別ぐらいしか情報が出なかった相手だ。天職を手にしてまだ間もない俺が挑むには無謀かもしれない。
「お前自身気づいていると思うが、今のお前に必要なのは何より経験だ。もっと色々な依頼をこなしその上で天職をより活かせるよう精進すべきだろう」
「……マスター――」
マスターの言うことももっともか。確かに俺には経験が足りない。
だけど、何故かマスターを見るシエロの目が冷ややかだ。
「もしかして、あれをシノくんに?」
「あっはっは、気づいたか。うむ、というわけで今回は俺から直接お前に一つ仕事を任せたい。引き受けてくれるか?」
そう、ギルドマスターのオルサが俺に持ちかけてきた。
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