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第3部 カレーのお釈迦様

第23話 ハヤシライスと…… 謎の遺跡のお話 ☆☆

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 今日の夕食は城のダイニングルームでビーフ・ストロガノフ、いや(!)、これはそんな上品めいたものじゃなくて、でもハッシュドビーフ・アンド・ライスでもなくて、むしろって呼ぶべきだ。ていうか、呼ぼう。勝手にそう決めることにする。

 何で夕食がこれになったかっていうと、近衛軍の兵士さんたちや被災者に出すのと同じ料理にするように、ファフニール君に言っておいたのだ。
 だって、家を失くして大変な人が大勢いるのに、私だけが毎晩豪華な食事をするって訳にはいかないでしょう。
 復興が完了するまでは一緒のメニューで我慢するつもり。
 まあ、建築技術者や職人さん、それに大地や木の魔法の使える人材が総出で進めてるから、そんなに長くかかることじゃないだろうし。

 で、そのハヤシライスだけど、あれから時間をかけて取ったブイヨンにトマトや野菜を入れて充分に煮込んだだけあって、コクのある、それでいてトマトのさっぱり感のある見事な味だ。
 充分に炒めたタマネギのかすかな甘味も利いてるし、大きめに切ったジャガイモも口に含んだだけでほろりと崩れる柔らかさ。
 乱切りにしたニンジンも噛みしめるとむっちりとした歯ごたえで、デミグラスソースの味がしっかり染みたクセのない美味しさだ。うん、これならニンジン嫌いの人でも残さずいけそう。
 ローリエの香りとほのかな苦みも生きてますねえ。
 そしてまた、軽くかけ回した生クリームが一層のコクとなめらかさを加えてる。
 肉はビーフシチュー風の角切りじゃなくて、ライスと一緒に食べやすいように薄切りだ。そしてまた、よーく煮込まれてと~ろとろ。
 ソースとバターライスをスプーンでたっぷりすくって一緒に食べると、ライスはバターのおかげで長粒種のパサパサ感がなくて、ふんわり、それでいてともしていい感じ。それがソースに包まれると、口の中も心も温かい幸福感に満たされる優しい感覚。
 うーん、これは軍のみんなも被災者も、きっと喜ぶぞお!

 あっ? でも待てよ。
 これはちょっと「!」かも。

(どうした?)

 あのさあ、大人数に出すんだったら、やっぱり煮込み料理が一番じゃない?
 その中でも良さそうなハヤシライスをここで出しちゃったから、例の祝宴で10万人相手に出す料理の有力候補が1つ減ったってことだよね。困ったなあ。

(困ったとか言いながら、スープもサラダも、パクパク食べておるではないか)

 うん、サラダの生野菜は新鮮な葉野菜特有のすっとした透明な旨味があって、おまけにドレッシングが今日は久しぶりのサウザンド・アイランドだからねえ。
 マヨネーズに少量のケチャップ、ケッパーやピクルスが入って、そこにレモン汁と生クリームでしょう? 私、オーロラ系のソースは元々好きな上に、更にこのズルい組み合わせはもう、食べない訳にはいかないよ。
 マヨネーズもケチャップもこの世界には手作りしかございません!酸っぱ過ぎず甘ったるくもなく、濃度もどちらかというと薄めのさらさらで、ハヤシライスのデミグラスソースの味とかぶらずケンカせず、これは絶妙のコンビネーションと言わずして何と言うべきか!
 それに、スープは今日はシンプルなコンソメだけど、この見るからに澄んで綺麗な黄金色も、漂ってくるいい匂いも食欲をそそるし、味わってみるとこれがまたビーフと香草類の風味に絶妙の塩胡椒加減の、とんでもない複雑かつ透き通った旨味で。こ、これは! 熟練の技と鍛え上げたセンスが織りなす芸術品とも言うべき「けしからん(?!)」一皿……

(食べるか悩むか、どっちかにしたらどうなのだ)

 うーん、美味しい。でも、うーん悩むなあ。

(ハヤシライスに似た料理ならば、

 アレかあ。うん、アレならライスの上にかけて、それだけで満腹感も得られるし、一応は考えたんだけど、なにしろスパイスが手に入らないからねえ。
 スパイスの産地はあまりに遠いし、大戦で滅んじゃった大陸にあるから、旧人類が生き残って、そんなものを栽培してるかどうかも怪しいし……

(この大陸にも入手できそうな場所があると言ったら?)

 え、そんな所があるの?
 だったら教えて! 是非、是非、教えてちょ!!
 どこ? どこ?

(教えても良いが、条件がある)

 えーっ、条件って、何か面倒なこと言い出すんじゃないよねえ。
 ただでさえメニューのことで頭が痛い時に。

(なに、簡単な事だ。!)

 はあ、何を言ってんの?
 今でもしっかり尊敬してますって!

(いーや、最近どうも我に対する口の利き方がであるし、粗略に扱われているような気がしてならんのだ。これでも少々傷ついておるのだぞ)

 あ、いや~、それはきっと私の年齢的なもので……
 ほら、思春期の真っ盛りだから、いちばん父親(?)離れが進む年頃だって言うじゃない。

(そんな弁解はどうでも良い。扱いを改めるのか、どうなのだ?)

 はぁ。分かりましたって。
 気をつけます。

(本当だな?)

 はいはい。約束します。

(以降は「はい」は1回にせよ。だが、まあ良い。少しは反省したようだから教えてやろうか。感謝して聞くのだぞ。その場所というのは……)


 ―――― そして、心の声さんが教えてくれたのは、今までのどの古代遺跡の資料でも観たことも読んだこともない、不思議な人たちの話だった。

 ふーん、そんな変わった人たちが旧文明時代に居たんだ。
 その子孫が魔族にもならずに、今もこの大陸に暮らしてるなんて。
 しかもとは!
 ちょっと驚きだ。
 ピラミッドとか実際に見たことなんてないし、憧れるぞ。
 「太陽神」の神殿かぁ。考えただけでも熱くって華やかで、素敵!
 そんなん知ってるなんて、8000年以上も生きてるってあくまで心の声氏の本人談!言うだけのことはあるかな。ここは素直に感心するかも。
 まあ、話が嘘じゃなければだけど。
 しかし、まさか…… あの流れで嘘はないよねえ。と、信じたい。



 そして翌朝、私はガイアさん、ゼブルさん、そしてファフニール君と厨士長さんを前に告げた。なぜか、背を伸ばして「きをつけーっ!」の姿勢の「ふーちゃん」も一緒だ。

「ええと…… 突然ですけど、数日間留守にさせてもらいます。
「「「「え!?」」」」

 あれ?
 あらためて見ると、ふーちゃんがまた一回りも二回りも大きくなってるぞ。
 この調子だと、私が帰って来る頃には、もしかして皇帝ペンギンぐらいの大きさに育ってるんじゃないか?

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