上 下
81 / 108
第3部 カレーのお釈迦様

第22話 学校を作るのだ ☆

しおりを挟む


「学校を作りましょう」
「は? 現在も既に教育機関は存在しますが?」
「え、そうなの?」
「はい。子供たちに基本の読み書きや計算等を教える学校とか、魔王軍の幹部候補を育てる士官学校や、王立の魔法学院など」
「ああ、私が言ってるのはそういう学校じゃなくて、せっかく古代の技術や文化を調査したり解析してるんだから、若いうちからそれらをしっかり勉強してもらって、優秀な技術者や文化人を育てるための学校です」
「ほう」
「子供でも、やる気や才能のある子には飛び級で入学を認めて、知識を詰め込むだけじゃなくて、基本の勉強の上に自由な発想で新しい何かを生み出すことを奨励して。そうすれば魔王領の科学技術や文化も一層発展するでしょう?」

 すると、これを聞いていたガイアさんの目が輝いた。

「それは良い! 妾も勿論、講師として参加するぞ」

 え、そう来る?

「あのぉ、ガイアさんが講師って、何を教えるんですか?」
「決まっておろう。古代の『とれんど』や料理じゃ。妾以上の適任者は居らぬであろうが」
「い、いやあ、それはちょっと」
「ちょっと、とはどういう意味じゃ。何か不都合でもあるのか?」
「まあ…… ええ~と、あ、そうそう! 前魔王様に直接授業を受けるなんて、生徒が委縮してしまうのではないかな~。ここは是非、ガイアさんには校長になって頂いて、全体の統括をお願いしたいと思っちゃったりなんかしてお! 今回は噛まずに言えたぞ
「ふーむ……」

(おお、絶妙の落としどころを見つけたではないか! 大分、ガイアの扱い方が分かって来たな)

 はぁ。

 ガイアさんは、それでも若干不満そうだったが、とにかく学校設立自体は決定。
 講師には主に、古代文明や文化の解析・研究スタッフが当たることになった。
 よーしよし、これで明るい未来が見えてきた。
 農業や漁業、畜産部分も充実させれば、実習で作ったり獲ったりした良質の食材が安定して確保できるし、料理部門も開講して、ファフニール君や、ティアお婆さんのところの料理人さんたちにも講師を依頼して、優秀な料理人をたくさん育てれば、近い将来は美味しい料理が各種食べ放題。

(やはり、それが目的か)

 え? い、嫌だなあ。この私に限って、決して決して個人的な不純な動機で学校とか開く訳ないじゃないですか。あはは乾いた笑い声
 ほ、ほら、料理はただの副産物で、主な目的はやっぱり技術や文化の振興ですよ。
 自然科学はもちろん、文学とか絵画とか。あ、それに、服飾部門とかあれば優秀なデザイナーが育って、みんながオシャレを楽しめて喜ぶだろうし、音楽部門も開講すれば魅力的な作曲家や演奏家を輩出して、定期的に大規模な音楽会を開催するとか。
 とにかく、あれもこれも可能性は無限ですよ。あっはっは……

(では、そういう事にしておこうか)

 ここでゼブルさんがヒソヒソ声で

「さすがはアスラ様。これによって多文化の入り乱れた迷走状態を正そうという訳ですな」
「え? そんなこと全く考えてませんよ」
「何と!」
「だって、最初はびっくりしたけど、今のままでら。文化なんてそんなものだし、それで十分でしょう」
「では、教育を通じて若者のを養おうとお考えなのですね」
「はあ? そんなことは絶対にしません」
「な、な、何と!!」
「男女や親子の間の愛情だって、教えたり要求したりして芽生えるものじゃないでしょう? !  国を愛する心だって一緒でしょ。押しつけようとすれば却って反発をかうかも」
「うーむ……」
「みんなが安心して、自由に豊かに楽しく暮らせる国づくりができれば、自国を誇りに思う気持ちとか愛する心とか、自然に生まれて来ますって。大袈裟に構えて取り組むべきものじゃないですよ。わざわざ愛国心教育なんて、一種の洗脳でしょう? そんな、ヒト族の教会の真似みたいなことはしませんって」
「なるほど! これは恐れ入りました」

 あれ、感心されちゃった?

(全く賛成だ! も、今の発言にはちょっと恐れ入りましたかも)(心の声・談)

 あれれ、これはもしかして、威張っていいところかな?
 えへん、えへん、えへん!(以下繰り返し)

 道路や鉄道など、交通網の整備も必要だ。
 魔族領内部だけではなく、獣人、エルフ、ドワーフの国への交通機関が整備されれば、魔族と亜人の交流が更に盛んになるだろう。
 大量輸送・移動の手段として鉄道は欠かせないし、緊急時の軍隊の移動も鉄道があれば飛躍的に迅速になるから、国防面での恩恵も大きい。
 線路は大地魔法の使える者や技術者を動員して少しずつ作っていくとして、列車や車両の製造には、技術に優れたドワーフ族の力が必要だろう。
 えっ、
 残念ながらダメなんだな、これが。
 だって、外見はともかく、内部機関の詳しい構造がわからないもの。
 ということで、研究スタッフはもちろん、魔族領内のドワーフ族職人に依頼し、一方でドワーフ国に技術協力を求め、双方で連携しながら進めて行くことになるだろう。
 鉄道の開通はドワーフ領にも利益をもたらすのは確実だから、協力を得るのは可能なはずだ。
 鉄道や道路だけではなく、特に遠隔地には常設の魔法陣を配し、民間でも比較的安価に利用できるようにしよう。そうすれば、新鮮な海産物や南の地方でしか育たない果物や野菜だって、もっと簡単に手に入るようになるぞぉ!

(結局は食べ物ではないか)

 だって、いつもいつも食材をティアお婆さんの所にばっかり頼ってる訳にはいかないでしょう。こういうのは、自立の精神って言うんだよ。

 将来的には、いきなり飛行機は無理にしても、ヘリウム含有の天然ガスでんとかが見つかって、効率的にヘリウムを抽出できれば、飛行船ぐらいは何とか造れるようになりそう。
 確か今では獣人領とドワーフ領の南部にあたる地域に、それらしいガス田があったって、遺跡で見た資料に載ってた記憶があるぞ。これは調査隊を出して調べてみる価値がありそう。

 例のリゾートの建設はガイアさんが中心になって進めてもらおう。その方がハチャメチャな、却って面白い施設が出来るんじゃないかな……


 最後にゼブルさんが言った。

「とまあ、今日の議題は差し当たってはこんなところでしょうか。後はやはり、魔王就任の祝宴の準備ですな」

 それなんだよねえ、一番の問題は。
 頭が痛い。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲
ファンタジー
今は中東と呼ばれるティグリス川とユーフラテス川、数千年前に栄えたメソポタミア文明、その現実とは異なる神話のただなか。 その都市の一つ、ウルクで生まれ育った少年エタリッツは家族のために迷宮に挑むこととなる。 非才の身でも、神に愛されずとも、もがけ。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。補足説明と登場人物の設定資料

揚惇命
SF
『えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。』という作品の世界観の説明補足と各勢力の登場人物の設定資料となります。 本編のネタバレを含むため本編を読んでからお読みください。 ※小説家になろう様・カクヨム様でも掲載しています。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...