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ウェディングパーティ編
ウェディングパーティ編:夜・end
しおりを挟む夜、皆が寝静まった深夜2時。
永井は炭火焼き地鶏のパックを肴にビールを飲んでいた。
「珍しいな。いつもはレモンサワーなのに。」
「・・・てめぇこそ。花嫁ほっぽって、何しに来た。」
リビングのドアのあたりから酒田の声がした。
食卓のおしゃれ用の吊り下げライトでは広いリビングを薄ぼんやりとしか照らしてくれず、表情や姿をハッキリとは確認できない。
1人の時間を邪魔された苛立ちで嫌味を言ってしまったが、何か飲み物を取りに来ただけかもしれない。と思い当たり「水か?」と聞けば「いや、違う。」と否定された。
水では無いと言ったくせに、暗がりから出てきた酒田は冷蔵庫に向かい、戻ってきた時にはビール缶を2本持っていた。
「いいか?」
「ダメだっつったらどうすんだよ。」
「あー・・・、慶介の寝顔を見ながら1人で飲む。」
「チッ、勝手にしろ。」
酒田がプシュッとプルタブを引き、缶のままググゥっと一気に煽る。
永井も同じように煽ってみたが、元々ビールは好きではないのでそれほどたくさんは飲めなかった。
コンッと置かれた缶の音が、半分以上飲んだのではないか?と思うほどに軽かったので、分けてやる気のなかった地鶏の炭火焼きを「空きっ腹に酒は良くない。」と酒田にも進めた。
「永井、今日の結婚式、助かったよ。ありがとう。」
「ホントだよ。お前ら2人して丸投げしやがってよ。」
「ははは、おかげで良い結婚式だった。」
永井は片眉を上げて酒田からの感謝の言葉を受け取った。
お互いそれ以降の会話はなく、しばし、酒を飲む音だけがする静寂。
ビールの残りも半分に減った頃、永井は沈黙を破り語りだす。
「今回、メインで仕事してわかったが、ーー俺は、慶介の秘書にはなれないと思った。」
「それは・・・」
「距離を取りたいという意味じゃない。俺は、真の意味で慶介を諦めることは出来ないと思う。慶介のために何かをする時、俺は補佐に徹することが出来なかった。慶介がお前を想う気持ちに寄り添えねぇんだ。・・・それが出来ないのなら、オメガの補佐は出来ないだろうと、後藤さんと竹林に言われたよ。・・・・・・俺は、慶介の側に居たかった、横が無理ならせめて後ろは、と思ってたが、・・・無理そうだ。」
「そうか・・・。」
「ーーだから、お前の秘書にしてくれ。」
缶ビール片手に、机に肘を付いて、足は投げ出した悪い姿勢の見本のような姿で言う言葉ではないのかもしれない。
水瀬に見られたら「その態度で?は?」みたいな事をゴミムシを見るような目で言われることだろう。
ただ、酒の力を借りたとはいえ、本心からの決意だ。
「わかった。慶介のことは全て、永井に任せる。」
酒田はさほど間をあけず、永井を秘書にすることを決めた。
その迷いの無さに「お前、俺の事、信用しすぎじゃないか?俺はシェルターの立てこもりと禁じ手を使った男だぞ?」と言いたくなった。
しかし、ここで拒絶するような器量の狭さを見せる酒田を、想像できないくらいには、永井も酒田に惚れ込んでいる。
「ありがとう。」
「ーーただ、秘書になるなら柔道はやめてもらわないといけないんだが・・・。」
「ああ、わかってる。まずは、再来年とその次のオリンピックで金を目指す。秘書になるのはその後だ。」
「だよな。獲れよ、金。」
「ああ。」
***
・・・・・・ウェディングパーティ編…end
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