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12 父の話
しおりを挟む次の街までは3日。4台の荷馬車が連なる3組の商人で組んだ商隊。歩みは大人の歩く速度程度で意外と遅い。
荷物の隙間にいる子どもたちも窮屈さを感じたら荷馬車から降りてちょっと走り回る余裕があるくらいの進み方だった。
護衛の仕事は斥候役が魔物を追い払ったり、倒して排除する。一番は盗賊への警戒だが、実際、出る確率は高くない。数人程度なら今いる護衛だけで制圧可能だし、盗賊団を組むほどの人数が出る時はギルドに情報が上がってくる。
結局、盗賊に襲われる奴ってのは油断してるか、護衛をケチったりして、自衛を疎かにしている奴らだ。盗賊の側だって獲物はしっかり選んでいる。襲われるから護衛を雇うのではない、護衛を雇うから襲われないのだ。
何の問題も起きないまま、日が落ちる前には宿のある村に着いて休む。道中で狩った食用魔物を飯屋に提供して調理してもらい、うまい飯にありつけた。
今日は俺とディランが荷車の夜警なので、子どもたちは荷車の中で寝てもらうことにした。
藁床のような柔らかさがない荷車の中、子どもたちは寝付きが悪かった。眠くなる呪文として掛け算の九九を聞かせていれば聞き飽きたダミアンから順に寝入り、俺とディランの2人の長い夜警が始まる。
「アイザック、なんか音楽できるか?」
長い夜の定番の過ごし方だ。
前世では学校のリコーダーしか触ったことがなかったが、娯楽が少ないこの世界を生きる暇つぶしとして弦楽器のリュートは覚えた。人前で披露できるような腕前ではないが、こういった夜警なんかの暇つぶしに聞かせてやれるくらいには弾ける。
それに、何と言っても俺には前世で聞いた曲の豊富なレパートリーがある。たとえワンフレーズしか覚えていなくても問題ない。一曲として完成していなくてもワンフレーズを繰り返すだけでも喜ばれるし、この世界には完成された正解の曲を知っている人がいないので、わからなくなれば適当に作って終わらせたって問題ない。曲の続きが思い出せずにモヤモヤするのは自分だけだ。
「リュートなら弾ける。あるか?」
「ない。歌がいい。」
無いのかよ。と、肩を落とす。この世界の歌は3曲くらいしかレパートリーがないし、前世の曲は童謡くらいしか歌詞を覚えていない。
「お前の声が聞きたい。」
キザかな? 歴史書の暗唱でも聞かせてやろうか?
「お前のことを教えてくれよ。」
「漠然としすぎてわからない。何が知りたいんだよ。」
「なら、1つ気になってたんだけどよ、お前、家族と不仲だったりすんのか?」
「なんで? そんな事ないけど。」
「なんつーか、親の死を悲しんでる感じが無くて。ガキどもの保護者になるのに必死なだけかも知んねぇけど。」
俺は「あぁ・・・」と、深い溜め息をこぼす。
「・・・それは、父が死を望んでいるのを知ってたから。」
俺の父は同性愛者だった。
父は学生時代に知り合ったローランという冒険者と組んで相棒と呼んでいた。そして、貴族をやめて冒険者になりたいと親に願い出たそうだ。
冒険者になりたいという父を許さなかった祖父は、勝手に婚姻届を書いて、父は知らない内に知らない女性と結婚させられた。それに怒った父はケルブセント辺境領のダールデン家を家出して北方領地の騎士団にローランと一緒に勝手に入団した。
そして功績を上げた父は北方領主に気に入られて「Bランクに推薦するから開拓村を復興させよ。」と命令をうけた。一応、村サイズでも領主だからとダールデンの祖父は持っていた男爵位を父に与え、父はバロア男爵になった。
と、同時に今まで完全にほったらかしにしていた妻の存在を押し付けられた。
開拓村の領地に来た母は3歳の子ども連れだった。母は父の兄である叔父と浮気して子どもを作ってしまっていた。父はこれ幸いと子どもを認知して「自分の伴侶はローランだけだ。」と言って、また母を放置した。。
蔑ろにされた母はダールデン伯爵領に帰りたがった。しかし、祖父が父との間に子どもを作るまで帰ってくることを禁じたため、母は俺を産んだ。
「親父さんは女も抱けたのか?」
「いや、『コップに出したものを渡した』って言ってた。」
俺を産んだあと、母は兄を連れてダールデン伯爵領へ帰っていった。
残された俺は乳母に育てられた。ただ、男爵家の使用人は復興支援の意味合いもあったので、入れ替わりは激しくお母さんの代わりという人はいない。
俺にとって特別な人は父とローランだけ。2人はとても俺をかわいがってくれて、父からは貴族であるための基礎を学び、ローランからは冒険者になるための基礎を学んだ。
だが、ローランは、俺が12歳のとき、騎士団の魔物討伐で父を庇って亡くなった。
父は抜け殻になった。
当時の俺は、そんな父を複雑な想いで見ていた。後を追って死にたい気持ちも分かるし、まだ12歳だった俺としてはなんとか立ち直って欲しいとも思った。
墓の前から離れなかった父がついに倒れて、俺は父がローランの後を追うことを覚悟した。
しかし、あの夜、ローランが幽霊になって現れた。
2人がどんな言葉を交わしたのかは解らないが、父は「ローランに後追いを禁じられたよ。」と、言っていた。
その後の父は機械のように生きた。決まった時間に起きて、決まったものを食べ、決まった事をして、成すべきを成す。しかし、眠れない夜はローランの遺品を眺めて涙を流す。
そうして父は悲しみに耐えて生きてくれた。俺が立派に成長するまでは向こうに行けないから。と。
「だから、父の死を悲しく思うけど、それ以上にローランの所に行けただろうか? とか、どうか来世は2人が一緒になれる人生であって欲しい。と、祈る気持ちのほうが強い。」
「精霊王が番を引き離すことはない。きっと、番の元に行けたさ。」
この世界での神様が精霊王だ。
魔物がはびこる世界で人間が生きられるように魔法を授けてくれた存在だと言われている。
ある時、精霊王は人間の娘を見初めて妻にと求めたところ、欲深い人間たちは、娘が欲しくば力を寄こせ。と、要求した。しかし、いくら精霊王が力を与えても人間たちは満足しない。月日が流れ、娘は年老いて死んでしまった。嘆き悲しんだ精霊王は肉体を捨てて、霊となった娘と共に霊界へと去ってしまった。そのため、人間は加護魔法を失った。
というのが、教会が語る神話だ。
この神話から愛し合う者同士を引き裂く事は罪深い行いとされ、死後も番は一緒に霊界へ行けると信じられている。
「・・・おれ、平民落ちになっちゃったし、成人もしてないけど、ローランは父さんのこと許してくれるかな・・・。ローラン、約束は絶対に守れって言う人だったから・・・」
ローランは冒険者の基礎を教えてくれたけど、俺が冒険者になることを喜ばなかった。俺から母親を奪い、父が家族と不仲になった原因が自分だと負い目を感じていたから。
だから、俺は父のような騎士を目指し、爵位と領地を継いで、貴族として立派になった姿を見せてあげたいと思った。
彼の死後は、俺のために生き続けてくれた父を安心させたくて、父がなれなかったBランク冒険者を目指していた。
いつか「もう、ローランのところに行っても大丈夫だよ。」と、言ってあげれるように。
「こんな・・・、こんな形の終わり方なんて、望んでなかった。・・・こんな死に方をするために、父さんは耐えてきたんじゃない。」
これだったら、あの墓の前で後を追っていた方が良かったじゃないか。
俺のために生きてくれた父に少しでも幸せを感じて欲しかったのに、ローランとの約束を達成していく事で父の悲しみを癒やしたかったのに。
「・・・死ねて良かったなんて思ってないっ・・・! 孫に囲まれて、ローランのこと待たせてしまったとか言いながら、最期を迎えて欲しかった・・・。」
啜り泣く俺をディランは抱きしめてくれた。
その力強い腕は、俺が一番楽しくて幸せだった頃を思い出させ、涙はとめどなく溢れてディランの肩を濡らした。
***
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