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改悛
しおりを挟む「っ貴様、相変わらず可愛げがない...」
「俺だって碓氷先生に可愛げがあるなんて思われたくないからね」
言葉には言葉を返す神崎に、碓氷の堪忍袋の緒が切れそうになっている。
このままでは流石にまずい。
「でも神崎、バイクって危なくないのか...?今は夏だからいいかもしれないけど、冬になったら道路も滑るし...私は少し心配だよ...」
「そうよ、神崎くん。姫神先生の仰る通り...もし通学の足がないなら私が毎朝お迎えに行きましょうか?」
一瞬、あ、と言うような顔をした神崎は少し考えてから笑顔を浮かべて口にする。
「姫神先生と石井先生を心配させるわけにはいかないな、仕方ない...明日からは自家用車にするよ」
碓氷の言葉では一切靡かないが、私や石井の言葉で考えを改める神崎に、周りの教員は拍手を送る。
「偉いわ!神崎くんは本当にいい子ね!」
「そんなことないよ、姫神先生にも石井先生にも、心配かけないようにする」
「貴様...もう教室へ戻れ」
青筋を立てる碓氷は、くっきりと眉間にシワを刻み、怒りを懸命に堪えている。
自席に座り、顬を抑えた碓氷の精神状態が気掛かりではあるが、これで神崎が目を付けられることも無くなるであろう。
ただ1つ、大量につけられたピアスを除けば、だが。
「せんせ、今日の約束覚えてる?」
「もちろん、ちゃんと覚えてるよ。ほら、そろそろ朝のホームルームが始まるから教室へ戻ってなさい」
「ん、わかった」
去り際に私の頭を撫で、ついでに若王子のデスクに寄った神崎は、ずいと手を出した。
「チョコちょーだい」
「...味を占めてんじゃねぇぞ」
嫌な顔をする若王子だが、ちゃんと分けてあげるところが優しい。
それにしても白衣のポケット、デスクの引き出し、鞄から大量のチョコレートが出てくるから本当に驚く。
どれだけのストックを抱え込んでいるんだか...。
上機嫌で神崎が職員室を後にすると、目の前の碓氷は盛大にため息を吐いた。
「碓氷先生、大丈夫ですか...?すみません、うちのクラスの神崎が...」
「いいえ...姫神先生が謝ることではありませんよ。ただ、今週の金曜は...俺の愚痴に付き合ってもらいます」
今週の金曜...
「あ、月一の飲み会って今週の金曜でしたっけ...酔った碓氷先生、ほんと絡み酒しますよね...僕のワイシャツに酒ぶっかけるし」
「う...あれは...」
バツが悪そうに視線を逸らす碓氷は咳払いをして誤魔化そうとするものの、若王子が着用していたワイシャツを汚したことには変わらない。
「お酒弱いんですから、あんまり飲まないで下さいよ」
「わ、わかってる...前回も痛い目見たし...」
痛い目...?
ああ...なんだか不安だな、碓氷の愚痴を聞かされる金曜日。
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