【改稿版】それでも…

雫喰 B

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48. 姉と妹

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    あけましておめでとうございます!

*新年早々ですが、今話、ショッキングなシーンと、登場人物の通常では考えられないような思考の描写が出てきます。
    苦手な方は全力で回避して下さい。読まれる方は自己責任でお願いします。













    私には妹がいる。
    勿論、可愛いと思っているし、家族としての情愛もある。

    けれど、依存心が強いのか、私に対する執着のような物を感じてからは、少し距離を置くようになった。

    上手く離れる事が出来たと思っていたのに…。
    母が領主の所に働きに行くと決まってから、また私に執着するようになった。
    しかも、前以上に…。

    更に、前年に続き、その年も凶作で食料も無く、妹と距離を置こうにも無理だった。

    領主の所に行く母は、働く条件として、子供を置いて来るように言われたけど、落ち着いたら迎えに来るか、それが無理でも食料を持って来るから。と言っていたけど、本当のところはわからない。

    妹は、母に捨てられたのだと、毎日泣いていた。
    たぶんそうなのだと、私も思っていたけど、それを妹に言うつもりはなかった。

    そして、とうとう食料が尽きた。どうしたらいいか分からなかった。
    取り敢えず、領主の邸に行ったが、母には会えなかった。

    本当か嘘かはわからなかったが、母は「死んだ」と聞かされた。
    途方に暮れた私に、邸の使用人が砦を襲撃する計画があって、それに参加すると御飯を食べさせてもらえると聞いて、参加する事にした。

    けれど、妹を連れて行く事など出来ない。
    でも、妹は付いていくと言って聞かなかった。

    連れて行くのは、危険だと思った。だから置いて行こうとしたのに、付いて来ていたらしい。襲撃直前に気づき、離れた場所で隠れているように約束させた。

    砦を襲撃した時、敵と遭遇した私は切られたと思った次の瞬間、鳩尾に激痛を感じて死んだのだと思った。

    が、死んだと思っていた私は、実は気を失っていただけで、砦で保護されていた。

    眼を覚ますと、妹が私の顔を覗き込んでいた。
    妹が無事だった事に安心した。

    その時にいた砦の警備隊員から、運び込まれる時に、私を助けようと、妹が飛び出してきたと聞かされ、血の気が引いた。

    そして、無茶をした妹を叱った。でも、妹がそうしていなければ、離れ離れになってしまうところだった。
    だから、結果オーライだと、喜んでいた。

    だから、妹に対して、疑惑など持っていなかった。この時までは…。

    ヤコブ村の村長夫妻の所に引き取られる事になって、安心したのだけど、暫くしてから、何かがおかしいと思うようになった。

   「 まだ子供だとはいえ、荒くれ共の中でよく無事だったね。」と、村長夫妻がよく口にした言葉に引っ掛かりを覚えたのは、いつからだっただろうか?

    食料も無く、空腹に夜も眠れずにいた時とは違って、食料も睡眠も十分とれるようになって、正常な思考になってくると、何かがおかしいと思い始めた。

    空腹だった時は、食べ物の事しか考えられなかったから…。

    嫌な考えが頭に浮かんでは、そんな事は無いと打ち消す。

    そしてある日、妹の視線に気づいた。
    背筋を冷たい汗が伝う。

    けれど、気の所為だと自分に言い聞かせる。
    しかし、いつまでも誤魔化せる訳ではない。

    そしてその日がやって来た。

    ローランドが故郷に帰るから、その挨拶をしに来た。
    一緒に行きたかったのに、彼は頑なに拒否する。
    この時私は、自分も妹と同類なのだと気づかされた。
    それを認めてしまえば、随分と気持ちが楽になった。
    
    だから、私は彼を追いかけた。

~~~~~

    私には、姉がいる。
    とっても面倒見が良くて、優しくて、妹思いで、私はそんな姉が大好きだった。

    だから、小さな頃からいつも姉にひっついていた。いつも傍にいるのが当たり前だった。

    それが変わったのはいつからだろう?

    思い当たるのは、たぶん、弟が生まれてからだと思う。

    いつも私の面倒を見てくれていた姉が、話も出来ない、ただ無くだけの弟と呼ばれる物に、世話を焼くようになって、私よりも弟を優先する事に納得がいかなかった。

    だから、姉がトイレに行っている間に泣いて煩いから、姉の真似をして泣き止まそうとしたのに、泣き止まなかった。

    腹が立った私は、弟の顔にクッションを投げつけた。
    泣き声が小さく感じて、良かったと思った。
    そのうち、泣き声も聞こえなくなって、静かになった。
    
    これでやっと、姉と遊べると喜んでいたけど、姉は、怒ってクッションを退けると、弟を見るなり泣き出した。

    母が来て、姉に事情を聞くけれど、泣きながらなので、母にも訳が分からなかったみたいだった。

    でも、その日から弟が居なくなったお陰で、優しい姉が戻って来て嬉しかった。

    母も姉も優しくて、幸せな日々が続いていたのに、父とかいう奴が来た為に、殴られたり、髪の毛を掴んで引き摺り回されたりして、泣いてばかりいた母と姉。

    そんなある日、私は見てしまった。
母が父が食べる物に、何か草のような物をいれたのを…。

    その草は、庭の奥まった所に生えていた物だった。
    
    いつも自分だけご馳走を食べているその男は、食べ終わった後、喉を押さえてのたうち回った揚げ句、静かになった。

    一部始終を見ていた私は、とってもいい事が分かって、一人喜んでいた。

    だって、嫌な奴がいてもその草を食べさせれば、居なくなるのが分かったから。

     まさか、母に使う事になるとは思わなかったけど…。

    でも、いいよね。
    私達姉妹を捨てて自分だけ幸せになろうとしたんだから…。

    とは言っても、使うと決めて、母に食べさせるまで悲しくて泣いた。
    私達の事を捨てなければ使わずにすんだのに…。

    でも、私にはまだ姉がいる。
    姉は私を捨てたりしない…筈。

    それを試すみたいな試練が訪れるなんて思ってもみなかった。
    けど、待っているように言われた私が付いて行っても、姉は私を捨てなかった。

    姉だけは変わらず優しかった。
    だから、私達に嫌な事をしようとした奴等に食べさせたの。あの草を…食べ物に混ぜて。

    砦に襲撃する人数が減ったけど、いいよね。

    そのお陰で、親切そうな人達に守ってもらえて、村長夫妻の子供になる事が出来たから。

    なのに…

    あんな人を選んで、私を捨てて追いかけるなんて思わなかった。
    ここまできて、私を捨てるなんて…。

    あの夫婦の所為だ。あの人達が、姉に村の男との結婚を押し付けたりするから…。
    だから、姉が私を捨ててあんな人に頼らなきゃいけなくなったんだ。
    きっとそうに決まってる。

    そして私は、姉に結婚押し付けた夫婦と男達に、あの草を食べさせた。

    先ずは、あの男達に食べさせ、上手くいった。
    けど、二人も死んだ事で怪しまれたのだろう。村長夫妻に食べさせる時に、私の食べ物に混ぜられていたなんて…。

    失敗した。

    でも、私は気づいたから、吐き出した。
    だから、生き残る事が出来た。

    そして、私は姉を追いかけたのだった。

    
    
    
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