47 / 60
47. 毒を以て毒を制す
しおりを挟む早朝、人の気配で目が覚めた。
ベッドから出て、人の眠りを妨げた無粋な奴に声を掛けた。
「何用だ?」
何処からともなく現れた男は、フードを目深に被り、丈の長い外套を羽織ったまま、ジャスティンの前に跪いて頭を垂れると、懐から折り畳まれた紙を取り出し、差し出した。
開いた紙には以下の事が書かれていた。
~~~~~
貴石の安全の為に
毒を以て毒を制すのが
最善である。
ナイトとビショップは、
事態を拗らせる
故に後退させる事が
望ましい。
念の為、
草や雑草に成行を
見護らせたし。
間貸
~~~~~
「 … 」
『 相変わらず、巫山戯た文を寄越しやがって。』
そう思うも、書いてある通りにするのはいいが、ローランドとキースを本当にリンジーの護衛から外して大丈夫なのか?
姉妹の事を知っているキースを呼ぶと、その文を見せて彼の意見を聞いた。
「…あいつの考えている事の全部までは分かりませんが、姉妹に決着をつけさせる気なんでしょう。その為には、俺とローランドがお嬢様の傍に居ない方が、事が上手く運ぶ。そう判断したんだと思います。」
「…そうか。分かった。その様に手配を頼む。」
適り妹になら、姉を止められると判断したのだと思っていたのに、結果を知って何とも遣りきれなくて、苦い思いをする事になった。
朝食後、護衛から外されたローランドが、俺に文句を言いに来た。
机で書類仕事をしていた俺は、手を止め彼の顔を見た後、いい加減弁えろと思いながら言った。
「言っておくが、実の兄とはいえ俺は家令補佐なのだが…。」
「そんな事は分かってる。だけど、こんな理不尽な命令なんて承知できる訳無いだろ!」
「何も、ずっととは言っていないだろう。暫くの間だけだ。」
「納得できない!」
「弁えろ!」
本当にこいつは何も分かっていない。
青い顔を俺に向け、怒りに染まり殺気だった眼で睨んでくる弟を感情を込めず、スッと眼を細めて見る。
「さっきも言ったが、俺はお前の兄である前に、家令補佐だ。今、(家令のいない)ここでは家令代行として、家令と同じ権限を持っている。その意味が分かるよな。」
ハッとなって項垂れると、胸に手を当て
「申し訳ありませんでした。指示に従います。」
そう言って踵を返すと部屋から出ていった。
扉が閉まった後、溜め息を吐いた。本心から納得した訳じゃないのは分かっている。
しかし、俺も弟ももう子供ではないのだ。何時までも身内だから許されるという考えは通らない。
大人になれば各々の立場がある。なぁなぁではすまない。
納得いかずとも、上からの命令には従わなければならない。
その事に気付いてくれればと思っていたのだが…。
悪い言い方をすれば、お嬢様が絡むと我を通そうとする。
途端に、その線引きが出来なくなるのは、彼だけでなく、彼女にとっても良くない。
幸いにもお嬢様の方は弁えている。それだけに、弟が弁える事が出来ない限り、中途半端に任務に就く事になり、致命傷になりかねない。
本当の意味で理解してくれる事を願うばかりだ。
扉をノックした後、キースが入って来た。
「すまないが、あれが暴走しないように見張っていてくれ。」
「承知しました。」
恐らく、その言葉だけで理解出来たのだろう。苦笑すると「気苦労が絶えませんな。」と言って出ていった。
優秀な奴なのに、何故“雑草”なんてやっているのか、ずっと不思議だった。
過去に、「俺の右腕になって欲しい。」と言ったら、「そんな堅苦しい位置に立つのはごめんだ。」と言われた。
命令すればその位置に立ってくれるのは分かっているが、それでは彼の長所を活かせなくなる事が分かっているだけに、命令する事もなく今に至る。
不思議な奴だ。
そして再び書類に眼を落とし、ペンを走らせた。
~~~~~
暫くすると、先触れも無くお館様が別荘に来られた。皆、驚きを隠せないまま、バタバタと迎えの準備を整えていった。
執務室を兼ねている書斎に入る時に俺も呼ばれ、一緒に部屋に入って行ったのだった。
姉妹の件について、報告と説明をしている時に外が騒がしくなり、何事かと思っていると、扉をノックして護衛のリチャードが入って来た。
「何事だ。」
珍しく眉間に皺を寄せて、問い質されると、姿勢を正し報告する。
報告された内容に、お館様も俺も驚愕した。
まさか姉妹で殺し合うなど、誰が想像出来ただろう?
と、そこまで考えたところで、お館様と眼が合った。
同じ人物を思い浮かべたのだと分かった時に、能天気そうな声で登場したそいつに、お館様も俺も露骨に嫌そうな顔をしていたのだろう。
「やだなぁ、そんなに嫌悪感丸出しにしないでよ。傷つくじゃん。」
場にそぐわない、にこやかな顔と声でマーカスが現れた。
そして、その隣にはいつもの様に、げんなりとしたタークスと、青い顔をした少年が立っていた。
~~~~~
今年も残すところあと僅か。
お読み頂いた皆様には、感謝!、感謝!!な一年でした。
勿論、感想やしおりを挟んで下さった方々、お気に入り登録して下さった方々にも、感謝!、感謝!!です。
本当にありがとうございました‼️
来年もよろしくお願いいたします。
来年も、皆様にとって最高の年でありますように。
皆様、良いお年を‼️
1
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~
sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。
ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。
そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。

束縛婚
水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。
清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?
21時完結
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。
王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト
悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる