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第10章 学校生活3

第52話 休暇前試験〜ギルドクエスト〜

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 いよいよ今期も休暇前試験の時期がやって来た。

 今回は既に教科の範囲が発表されており、内容が内容(授業で教えた戦い方や魔物の中からいくつか選んで特徴などを記述式で解答)だけに教科の授業も一週間無しとなった。そしてこれから実技の試験内容が発表される。

 今回もバーミリアン先生がプリントの束を持って教室に来て各自に配り出し、終わったところで一言話して解散となった。

 今回は目的の場所が遠かったり内容が難しくなった人が多いようだが、······なぜか僕だけプリントが渡されなかった。

 するとバーミリアン先生が「レックス! 一緒に来てくれ」と仰ったので付いて行った。

「バーミリアン先生、どこに行くんですか?」と聞いたら「校長室だ」と答えた。えっ? なんで? と思いながらも後に続いた。

 そして校長室前に着いてバーミリアン先生がドアをノックし、「バーミリアンです。レックス・アーノルドを連れて参りました」「入らせたまえ」と返ってきたので先生がドアを開け僕が「失礼します」と言って中に入った後ドアが閉められた。

 目の前の机にジルコニー校長が座っていて、「久しぶりだねレックス君。そちらへ座りたまえ」ジルコニー校長が手前のテーブルの椅子に座るように促しできたので「失礼します」と言って座った。

 校長室へはあの合同授業の際の説明を行うのに来た事があるけど、流石にまだ緊張してしまう。

 ジルコニー校長も向かい側に座ったところで、「今日来てもらったのは、君の今回の実技試験についての事なんだ」と切り出した。

 どういう事かまだ分からない中ジルコニー校長が続けて「特殊なケースではあるが、君には”これ“を行ってもらう事にした」とテーブルに置いてあった紙を僕に渡した。

 僕はそれを見るなり「これって?」と聞いたらジルコニー校長も「そう、この街のギルドに届いたクエスト、所謂いわゆるだ」と答えた。

 ギルドクエスト。それは王都を始め、各種族の首都や大きな町に設けられて冒険者達などが所属しているギルドと呼ばれる組織に届けられる依頼クエストだと授業で聞いた事があった。

「どうして僕がギルドクエストを?」「一番の理由はそのクエストの依頼主だよ」と言われて依頼主の欄を見たら、"海人族・マリンタウンの医師"と書かれていた。

「マリンタウンのお医者さん?」「そう。内容事態は真ん中レベルのBランクのためにそこそこの腕の者に頼めば良いのだが、完了条件が直接依頼主の所へ行く必要があるもんだから誰彼構わず任せるわけにはいかないとギルドも考えたんだ。下手をしたら種族間問題に発展してしまうかもしれないからな」

 ハウル様からも以前その辺の事情は聞いていたから納得出来る。またギルドクエストは内容によってS・A・B・C・Dのランクが付けられているとも聞いていて、今回のクエストランクを見てBとなっているので確かに真ん中レベルだ。

「それでどうしたものかと思っていたら、君がこの間の夏季休暇の時にマリンタウンへ行ったという事を噂で聞き、これまでの君の実績などを鑑みても任せて大丈夫だろうと学校とギルドとで話し合って決めたんだ」

 そういう事だったのか。と色々納得出来たところで依頼内容を見た。

 依頼内容は"砂漠地帯のどこかに咲いているデザートフラワーを1輪摘んで来て欲しい"だった。

「デザートフラワー?」「ああ。西のエルフ領の砂漠地帯のどこかに"蜃気楼の泉"と呼ばれる幻のオアシスがあって、そのほとりに咲いているものなんだ」

「蜃気楼の泉」「うん。これまでも多くの者が探し当てているから、手段が分かれば容易に達成出来ると踏んでギルドもBに設定したみたいだ」なるほど。

「という訳だから君でも問題なく行えるだろ?」とジルコニー校長が尋ねてきたので「は、はい」と答えるしかなかった。

「なに、これは実技の試験も兼ねているから学校関係者の力を借りる事は出来ない事になっているが、関係者の力なら少なからずは借りられるんだからな」「えっ?」関係者以外のって言うことは、もしかして······。

 僕の考えている事が分かったのか「砂漠の中にあるエルフの里の長や賢者と呼ばれているジジイの力とかは、な」と仰られた。
 
「えっ、えぇ!?」さすがにそれを聞いて僕はとても驚き、ヨートス様との事はダークエルフとの戦いで知られたとしても、どうしてハウル様の事まで······。

 そう思っていると「あいつがいくつなのか君も知っているだろ。当然主だった種族や組織の長とは奴は顔見知りなんだよ」と答えた。

(それじゃあ、ひょっとして海人族の国王様とも······)そこまで考えて僕の表情はポカンとしたままになってたようだ。

「まぁそういう事だ。あいつらの力も借りて頑張ってくれ。一応クエストを達成出来たらその証を貰えるようになっているから、それをバーミリアンに渡せば実技の試験は合格とする。後の処理はこちらで行うからな」

「わ、分かりました」「話は以上だ」と言われたので入り口まで戻って「失礼します」と部屋を出た。

 レックスが出て行った後ジルコニー校長は座ったまま入り口の方を見ながら、「本当に2代目のタイムリターナーは面白い奴だな、ハウル」と呟いたのだった······。


 校長室を出たところで次の行動を考えてたら「あっ、レックス!」ロースが僕を探していたみたいでこちらに駆けて来た。

「ロース、どうしたの?」「あのさ、(あの羽で僕を里に連れてってくれない?)」と小声で言ってきた。

「(里に?)」「(うん。課題の事で里の人に聞きたい事があって、歩いて行くより早いだろ?)」確かに。

 まぁ僕もヨートス様に話を聞きに行こうと思っていたんだから、ついでであって手助けには当たらないだろうと思いながら「(分かったよ)」「やった!」と言ってそれぞれ準備をしてから人気の来ない広い場所から羽でエルフの里に飛んだ。

 エルフの里に着いて里の人達が僕らの姿を見るや、「ロースじゃないか」「どうしたんだ?」とロースに人々が集まった。

 ロースも挨拶を交わしているみたいだったので、「僕もう行くね」と言ってヨートス様の屋敷に向かった。

 屋敷の前に着いて入り口にいた人に用件を伝えて中に入り、ヨートス様の仕事部屋まで行ってドアを叩き中に入った。

「やぁ、レックス君」「お久しぶりです」と挨拶を交わして今回訪問した理由であるデザートフラワーの事を質問した。

「デザートフラワーか」「はい。砂漠のどこかにある蜃気楼の泉のほとりに咲いていると聞いたのですが」

「うん、私も聞いた事がある。ただその蜃気楼の泉は蜃気楼と言われているだけあって存在場所が決まっているわけではないんだよ」

「そうなんですか!?」「ああ。ただそのデザートフラワーが物凄く良い香りを出しているために砂漠の生き物達はその香りを辿って泉に辿り着けているんだ。これまでも動物やペットにした魔物の力を借りて泉に着いた冒険者達も多くいるからね」

「それじゃあ泉を探すには?」「あぁ、何かしらの生き物を連れてその匂いを辿らせるのが一番早いだろうね」と言われた。

(生き物かぁ······)どうしたものかと考えていた時、(······あっ)ふとある存在を思い出しヨートス様に尋ねた。

「ヨートス様。その香りって動物のクマでも嗅ぎつけられますか?」「動物の、クマ?」ヨートス様が聞いてきたのでベアー達の事を説明した。

「うーん。確かに大丈夫だと思うよ。クマならこの砂漠も大丈夫だろうし」「分かりました」

「ただし、デザートフラワーを見つけても口に入れさせないように気をつけたまえ」「どうしてですか?」

「デザートフラワーは昼に太陽の、夜に月の光を浴び続けているものだから内部に熱がこもっているため、動物などの体内に入れると体内で自然発火する恐れがあるんだ」「分かりました。ありがとうございます!」

「うん。頑張りたまえ」と言って屋敷を出て、今度は赤い羽根を取り出してハウル様の下へ飛んだ······。
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