続・思わぬ収穫? ~見聞録~

七月 優

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見聞録

キュウテオ国編 ~特別な猫の尻尾⑱~

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 暗黒時代が終わってから開催されていた「継承試練の儀」。
 嫌な時代から約四年経った今日、ようやく次のキュウテオ国の国長が決まった。

 首都の広場では、その記念すべきことを分かち合おうと、大勢の者でごった返している。
 おそらく今夜は盛大に宴が催されるに違いない。
 広場に設立された高台では、コンラッドが注目を浴び、祝福されていた。その傍らには、陰の立役者たるミネットの姿もある。


 リアトリスはぱちぱちと拍手しながら、オスカーと共に広場から遠ざかっていく。
 途中で祝福を終えたリアトリスは、オスカーに先導され足早に広場からどんどん迷いなく走った。オスカーは敢えて人目につかない道を選び、目的地までリアトリスを誘導する。
 リアトリスがこのキュウテオ国に来た本当の目的を果たすべく、とにかく急いだ。
 「継承試練の儀」をクリアし、次の国長が決まった今が好機と、オスカーとリアトリスはキュウテオ山の中に足を踏み入れる。

 キュウテオ山の中に入ると、先日も見かけたキャナフ・タフティ・ダハニだけでなく、様々なモンスターが四方八方から顔を出す。そして、オスカーとリアトリスにこっちこっちと目的地までの道を示したり、先導したりした。
 互いに利害が一致しており、リアトリス自身の個人的な事情もあって、モンスターたちは彼女たちにかなり友好的だ。悪意など微塵も感じられない。
 オスカーとリアトリスは、とにかく先へ先へと走った。
 リアトリスは魔力はあれど魔法が使えない。魔法の才がないリアトリス自身によって、魔法で高速移動することは不可能だ。
 そのため、本当であれば、オスカーは容易にもっと早く進めるであろうが、リアトリスの速度に合わせていた。
 オスカーはリアトリスを背に乗せて移動することも厭いはしないが、そうすることはリアトリスがよしと首を頑固にも振らなかった次第である。あくまでそれを実行するのは最終手段だと、リアトリスは言い放った。

 前世よりも全速力で長時間走れることは幸いだったと、リアトリスは思う。
 また、オスカーや他のモンスターたちが、リアトリスにとって走りやすい道を選んでくれているらしく、立ち止まることはあまりない。
 そのおかげか、リアトリスが予想していたよりも早く、目的地へと辿り着くことが叶った。

 キュウテオ山の奥深く、この国に封じられている魔瘴の結界が、今リアトリスやオスカーの目の前にある。
 嫌な気配蠢く黒い靄を、三メートルほどの高さの巨大なダイヤ型のクリスタルに閉じ込めたようなその中身こそ、悪影響を及ぼさないように封じられている結晶化された魔瘴の集合体なのだ。
 危険物質であるそれの周囲にも、当然近づけないような呪いや結界が施されてある。しかし、それらはリアトリスには目に見えない妖精や、この山に住むモンスターたちがリアトリスが近づけるように解除してくれていた。
 リアトリスは事前にオスカーからそのことを聞いており、周囲の協力に改めて感謝を述べる。

 周囲のモンスターやオスカーには少し離れていてもらい、リアトリスは単身で封印されている魔瘴の元に近づいた。
 近づくほど、結界の中で渦巻く黒い靄のような魔瘴の気味悪さが、浮き彫りとなる。それでも、リアトリスは引き返すことなく、手が触れる距離まで接近した。
 触れられる距離で、リアトリスは立ち止まって、一度深呼吸する。心を落ち着かせ、リアトリスは決着をつけるべく、行動を開始する。
 リアトリスは「道具」から、魔力回復薬である液体瓶を取り出し、コルクを開けた。それを左手で持ったまま、利き手である右手で魔瘴の結界に触れる。
 そして、リアトリスは右手の平から魔瘴に向けて、思い切り自身の魔力を操作して、放出した。

 リアトリスの魔力が、封じられている魔瘴の結界内に入った瞬間、黄色い光を放つ。眩しいほどの光に目を細めながら、リアトリスは魔力をずっと放出し続けた。
 途中、栄養ドリンクを一気飲みするかのように、リアトリスは左手で握る魔力回復薬の瓶の中身を煽る。その最中も、飲み終わってからも、リアトリスは魔力を封印されている魔瘴に注ぎ続けた。だから、発光も収まることはない。

 数秒後、「もーいーよ」との合図の如く、オスカーやモンスターたちが鳴く。
 リアトリスももういいだろうと判断し、魔力を注ぐのを止め、手を離した。すぐさまリアトリスはその場を離れる。
 魔瘴をとどめていたクリスタルのような結界の中には、光の粒子が舞うだけ。黒いおぞましい物質など、もうどこにも見当たらなかった。
 直後、パリンバリンと透明なクリスタルにひびが入り、割れた。辺りに散らばった破片は、みるみるうちに消えていく。

「みんな、ありがとう」

 微かな声で、荒い呼吸をするリアトリスが囁いた。
 それに応じるように、小さく小さくモンスターたちも「やったね」というように歓声をあげる。

 リアトリスの目的は、これだった。
 リアトリスの魔力には、魔瘴を消滅させる効果がある。諸事情によりそれは公にはできず、ごく一部の者しかその事実を知らない。
 世界に残された魔瘴を秘密裏に消すことが、リアトリスの今後の重要任務なのだ。

 無事任務を完了したとはいえ、おちおちしてはいられなかった。
 早く戻らなければ、後々面倒なことになる。
 リアトリスは、周囲のモンスターたちに今一度お礼を言い、モンスターが食べられる野菜や果物を渡した。モンスターたちは、それを快く受け取る。
 そして、リアトリスとオスカーは彼らに別れを告げながら、元いた場所へと急ぎ引き返したのだった。


 * * *


 行きよりも帰りの方が、明らかにリアトリスの足取りは重かった。

 リアトリスは魔瘴を消したり、大量に魔力を消費したりすると、疲労感と倦怠感が一気に襲ってくる。時々、どうしようも抗えない眠気に苛まれることもしばしば。最悪なのは、リアトリスの意思に関係なく、いきなり糸が切れた人形のように気絶してしまうことである。
 そのような体質なのだと、リアトリスは診断されていた。

 だからこそ、リアトリスは辛くとも、懸命に足を動かすしかない。
 オスカーはそんなリアトリスを心配そうに並走しながら、いつでも彼女が倒れたら運べるような心持ちでいる。

 最終的には徒歩となったが、リアトリスとオスカーは無事首都の外れに戻れた。
 しかし、リアトリスの足取りは酷い。見るからにへろへろである。
 リアトリスは段々と瞼が重くなり、視界もぼやけてくる。リアトリスはもう限界だった。
 今すぐにでもぶっ倒れそうなリアトリスをキャッチする準備をしていたオスカーは、見知った気配を感じ取る。
 だから、倒れゆくリアトリスを、オスカーはその人物に任せた。

 地面に体を打ちつけそうになっていたリアトリスは、今しっかりと誰かに抱きしめられている。
 リアトリスを抱きしめているのは、端整な顔立ちの青年だ。
 所々色合いの違う銀の短髪。左耳には、黒い水晶とラベンダー翡翠の二つのピアスをつけている。
 夏空のような青い瞳が、腕の中のリアトリスを心配そうに見つめていた。

 リアトリスは薄れゆく意識をなんとか踏み留めて、青年の姿を瞳に映す。
 その姿を認めると、リアトリスはまったくもうと青年に笑いかけた。

「来ちゃ駄目じゃない」
「仕事が予定より早く終わったんだ。妻に会いに来て何が悪い。それに、こうなるだろうなと心配してたんだ。今回くらい、大目に見てもいいだろ」
「そう。いろいろ話したいことがたくさんあるけど、取り合えず、ありがとう」

 言い終わると、リアトリスはぱたりと気絶した。
 そんなリアトリスに額を一度くっつけ、リアトリスの若き夫は柔和な笑みを浮かべる。

「頑張ったな。お疲れさま」
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