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# 冬

最後の難関⑧

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「ええ?」

「だから嫉妬しちゃって、敵対心持ってた時もあるけど……間違ってた。ごめんなさい」

 ハンカチで目の下を優しく抑えながら、岸井さんも抱えていた寂しさを吐き出した。
 私はその姿に困惑したけど、周りのお客さんは気づいていないみたいだから、続けて話してもらうように耳を傾ける。

「ユウキはね、高校生の時から……ずっとナオさんに救われてきたんだって。ユウキが迷惑かけたくないって思っても、当たり前のように手伝ってくれるし。いつも上を行く気遣いに、甘えてしまっていたって」

「ユウキが、そんなことを……」

「リフレクソロジーになるって言い出したのもね、もしかしたら俺のせいかもって言ってた。ナオさんのことも、やっぱり縛りたくなかったんじゃないかな」

 いつしか、リフレクソロジーの学校に行く理由を聞いてきたことがあったっけ。
 その時は誤魔化しきれなくてあたふたしていたら、ユウキの方から話を終わらせた。
 あの時すでに、察知していたということか。
 もしかしたら、私もユウキにそういう負い目みたいな感情を、生ませてしまったのかもしれない。

「じゃあ、ユウキはいつも引け目を感じていたんですね」

「でも、ナオさんは違う。ナオさんと居る時のユウキは、そんな余計なことは考えなかったはず。とてつもなく信頼してたもの」

 岸井さんの涙目に、段々と生気が戻ってくる。
 私をこんなに肯定するなんて、思ってもみなかった。
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