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# 秋

ヒトの手②

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「戸部君も案外大胆なんだね。ナオちゃんは……すぐには答えを出せないよね」

 入来ちゃんは見事に、私の心の状態を汲み取ってくれる。
 戸部君の気持ちは嬉しいけど、好きという感情があるかと聞かれたら、自信を持ってイエスとは言えない。
 悩みが次から次へと降り注いできて、私の思考を鈍らせる。

「でも、ゆっくり考えればいいんじゃない。戸部君もそんなすぐに答えが返ってくるとは思ってないよ」

 いつだって私の気持ちに寄り添ってくれる入来ちゃんの言葉は、今日も胸に染みた。
 仲間がいることの温かみで、今の私は保っているだろう。

「入来ちゃん、ありがとう。しっかり戸部君と向き合ってみる」

「そうだね。ちゃんと向き合って、はっきり好きだと思ったら返事をしよう。急いで答えを出すのは良くないからね」

 入来ちゃんはそう言ってブランコを降りると、ポケットからスマホを取り出した。
 時間を確認するために画面をつけると、昼休みが終わる五分前になっている。
 お昼ご飯を食べるのも忘れて、私の話に付き合わせてしまった。
 
「入来ちゃんごめんね。今度何か奢るから」

「いいよいいよ、お腹空いてなかったし。それに、今日は珍しく戸部君が休みだしね。私もガールズトークしたかったから」

 戸部君は今日、初めて学校を休んだ。
 風邪を引いたから休むというグループメールが送られてきたけど、それが本当なのかは定かではない。
 私と会うのが気まずかったのか、本当に風邪をひいてしまったか。
 その真意を確認する度胸はなく、一言だけ『お大事に』と返信した。
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